軽度認知障害(MCI)と診断されたら?希望を持つための行動・治る確率・生活の見通し

2025年11月19日

医師から「軽度認知障害(MCI)」という診断を受けた今、強い不安と戸惑いの中にいることでしょう。

「これからどうなってしまうのだろうか」「認知症への進行は避けられないのか」「家族にどう伝えればいいのか」という思いもあるかもしれません。

先に申し上げておくと、MCIは「必ず認知症へ移行する」という状態ではありません。

適切な行動と生活習慣の見直しによって、認知症への進行を遅らせることは十分に可能ですし、健常な状態へ回復する可能性も報告されています。

今、この段階で正確な情報を知り、具体的な行動に移すことが、最も重要です。

この記事は、「軽度認知障害(MCI)と診断されたら何をすべきか」を診断直後から数年後までを見据えた行動の道しるべを紹介します。

また、多くの方が不安に感じる「回復の確率」や「運転免許、お金、仕事といった生活への影響」まで、本人とご家族の両視点から網羅的に解説します。

フェーズ1:診断直後〜1週間ですべきこと

診断直後の混乱期に、まず冷静になって取り組むべき最初の行動です。

軽度認知障害(MCI)とは?「健常」と「認知症」のあいだの状態

一般的に「軽度認知症」と呼ばれることもありますが、正式には「軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment: MCI)」を指します。

MCIは、年齢相応のもの忘れ以上の認知機能の低下はあるものの、日常生活に大きな支障が出ていない状態です。

記憶力などの認知機能のうち特定の機能に低下が見られるものの、食事や排泄、金銭管理といった日常生活動作(ADL)は維持されていることが特徴です。

もの忘れ外来などで詳しく検査することで診断されます。

この「軽度」という言葉に安心するのではなく、「認知症の一歩手前」の段階であることを正しく認識し、対策を始めることが求められています(参考:厚生労働省 1)。

回復と進行のリアルな見通し|「治る確率」と「進行のスピード」

診断後の見通しは、とても気になるところでしょう。

どれくらいの人が認知症に進行する?

MCIと診断された方が1年間に認知症へ移行する割合は、およそ10%前後とされています。

これは、健常な高齢者の進行率(1〜2%)に比べれば高いものの、裏を返せば残り90%の方々は認知症に移行していないということです(参考:アメリカ国立老化研究所(National Institute on Aging)2)。

正常な状態へ回復する可能性と、現状維持の価値

MCIの方のうち、10〜40%は正常な認知機能まで回復する可能性が報告されています(参考:アメリカ国立医学図書館 3)。

また、回復しなくともMCIの状態を維持(キープ)できることも大きな目標です。

認知症の発症を数年遅らせるだけでも、その後の生活の質(QOL)は大きく変わります。

医師から必ず聞いておきたい5つのポイント

診断後、医師と改めて話す機会を設け、今後の行動指針を決めるための情報を確認しましょう。

  1. 原因疾患の候補: 認知機能低下の原因が、アルツハイマー病型、血管性、あるいはうつ病など治療可能な疾患によるものかを確認します。原因によって治療方針が変わります。

  2. 今後のフォローアップと追加検査のスケジュール: 3か月後、6か月後など、定期的に検査・診察を受けるスケジュールを確認し、手帳に書き込みます。

  3. 現時点での生活制限の有無: 特に運転や仕事について、現時点で制限が必要かどうかを尋ねます。

  4. セカンドオピニオンを検討するケース: 診断に迷いがある場合や、他の専門医の意見を聞きたい場合にどう進めるか相談します。

  5. 連絡しておくべき相談窓口・専門外来: 地域包括支援センターや、MCI専門の外来など、初期段階で利用できる窓口を教えてもらいます。

>>うつ病が治らないと感じる方へ。5年・10年以上と長期化する7つの原因と回復へのステップ

家族・信頼できる人への適切な伝え方と、情報の共有

不安を一人で抱え込まず、信頼できるご家族やキーパーソンに正直に伝えましょう。

その際、「認知症になった」と誤解される表現を避け、「今はまだMCIという、認知症の一歩手前の段階であり、生活改善で進行を遅らせたり回復を目指せる時期だ」という希望を込めて伝えます。

フェーズ2:進行を遅らせるための習慣

MCIの治療は、現時点では生活習慣の見直しという「非薬物療法」が基本であり、ここが集中的に取り組むべき領域です。

生活習慣改善の7大習慣(非薬物療法の基本)

認知症予防の専門機関が推奨する、科学的根拠に基づいた生活習慣を確立しましょう。

認知機能維持のための運動習慣

有酸素運動が特に重要です。

週に3回以上、1回30分〜1時間程度の速歩き(ウォーキング)が推奨されています。

適度な筋トレも有効です。運動は脳血流を増やし、海馬の萎縮を抑える効果が期待できます(参考:厚生労働省 4)。

脳と血管を守る食事・栄養

健康的な食生活(野菜、果物、魚を中心とし、飽和脂肪酸を控える)は、一般的に認知症リスク低減のために推奨されています。

特定の食事療法に関するエビデンスは現時点で確立されていない点には注意が必要です。

質の高い睡眠の確保とストレスケア

睡眠中には脳内の老廃物(アミロイドβなど)が除去されると考えられています。

質の高い睡眠を確保し、趣味やリラックスを通じてストレスを適切にケアすることも大切です。

知的活動・趣味の再開と社会的なつながり

新しいことを学んだり、人と交流したりすることで、脳のさまざまな領域が刺激されます。

囲碁、将棋、園芸、音楽、ボランティア活動など、「続けやすく、楽しめる」活動を見つけ、社会とのつながりを維持することが重要です。

治療薬の考え方|「効く薬がない」わけではない

MCIに対する保険適用の治療薬は現在のところありません。

しかし、MCIの原因がうつ病や甲状腺疾患などであれば、その原疾患の治療薬を使用することで認知機能が改善する可能性があります。

抗認知症薬・新薬(例:レカネマブなど)の位置づけと対象となるケース

既存の抗認知症薬はMCIへの進行を遅らせる効果について確固たるエビデンスはありませんが、認知症が強く疑われるケースでは処方されることがあります。

また、アルツハイマー病の原因物質を取り除くレカネマブのような新薬は、アルツハイマー病起因のMCIやごく軽度の認知症が主な適用対象とされており、今後の治療の考え方を大きく変える可能性があります。

>>アルツハイマー新薬レカネマブとは?効果・副作用・承認状況を徹底解説

生活習慣病など「併存疾患」の治療が重要な理由

高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病は、認知症の最大の危険因子です。

これらの併存疾患を徹底的に治療し、血管リスクをコントロールすることが、認知症への進行を遅らせるための必須事項です(参考:政府広報オンライン 5)。

>>糖尿病の原因は?気になる初期症状からチェック要項まで解説

フェーズ3:半年〜数年スパンで考える「生活と制度の長期プラン」

診断から数か月が経過し、生活習慣の改善に取り組み始めたら、今度は将来的な見通しと、実務的な手続きについて考え始めます。

【本人向け】運転免許証の更新・自主返納をどう考えるか

MCIと診断された場合でも、すぐに免許が取り消されるわけではありません。

認知機能検査・医師の診断と行政手続きの基本

75歳以上の免許更新時には認知機能検査が義務付けられており、MCIと診断された方はその結果によっては医師の診断が求められます。

認知機能の低下が軽微で運転に支障がないと判断されれば継続可能ですが、自主返納を選択することで、将来的な事故リスクとご自身の負担を減らすという選択肢もあります(参考:警視庁 6)。

【本人向け】まだ働ける?仕事を続けるか迷ったときの考え方

認知機能の低下があっても、仕事の種類や職場の環境によっては継続が可能です。

いきなり辞めるのではなく、職場の上司や産業医に相談し、業務内容の調整(例:複雑な業務の軽減、単純で集中できる業務への移行)を検討してみましょう。

【家族向け】今後の介護・経済的な見通しを立てる

MCIの段階では介護保険の利用は限定的ですが、今後のために介護保険制度の基本(利用対象、申請の流れなど)を把握しておくことは重要です。

特に「うつ病」「脳血管疾患の後遺症」など原因疾患によっては障害年金の対象となる可能性もゼロではありません。

銀行・保険・不動産など「重要な契約・資産」を整理しておく意味

判断能力が維持されているMCIの段階でこそ、将来の資産管理について家族間で話し合っておくべきです。

任意後見制度や家族信託など、将来認知機能が低下した場合に備えて、財産管理や契約をどうするかを整理しておくことは、ご本人とご家族の安心につながります。

MCIから認知症への進行をチェックするためのサイン

MCIの状態が進行している可能性があるサインを家族間で共有し、定期的な受診に役立てましょう。

  • 新しいことへの無関心や、活動意欲の極端な低下。
  • 場所が分からなくなる、約束の時間を頻繁に間違える。
  • 金銭管理や家電の操作など、複雑な作業に明らかな支障が出始める。

ご家族・介護者のための適切な関わり方と相談先

MCIは本人だけでなく、ご家族の不安も高めます。家族が心のケアとサポートの仕方を知ることが重要です。

「何度も同じことを聞かれる」など、よくある場面での接し方

もの忘れは意図的なものではありません。

イライラしても「さっきも言ったでしょ」という責める言葉「頑張って」というプレッシャーを与える言葉は避けることが大切です。

落ち着いて、短い言葉で分かりやすく伝え直すこと、また、ユーモアを持って受け流す姿勢も有効です。

家族が一人で抱え込まないための相談窓口

介護者の負担を軽減し、正しい情報を得るために、外部の支援を活用しましょう。

  • 地域包括支援センター: お住まいの地域の高齢者に関する総合相談窓口です。介護保険制度の相談や、地域のサービスに関する情報提供を受けられます。
  • 認知症の人と家族の会: 同じ悩みを持つ人たちと交流できる場であり、精神的なサポートの場となります。
  • かかりつけ医・専門医: 医療的な疑問や、症状の変化について定期的に相談します。

家族自身のメンタルケア・休息の重要性

ご家族自身の心身の健康が、本人を支える土台になります。

介護やサポートで疲弊しないよう、意識的に自分のための休息時間を確保しましょう。趣味や友人との交流を続け、孤立しないように心がけてください。

軽度認知障害(MCI)と診断されたらやるべきことチェックリスト

このリストを印刷し、今後の行動指針として活用してください。

項目本人向け家族向け
初期行動医師にMCIの原因と今後の予定を確認した状況を共有すべき家族・親族へ正確に伝えた
生活習慣今日から始める運動・食事・睡眠の目標3つを決めたご家族が一緒に楽しめる活動(運動・趣味)を開始した
将来設計運転免許について医師と相談した銀行・保険・不動産など契約・資産の整理を話し合った
サポート相談できる人・窓口(地域包括支援センターなど)を書き出した家の中の危険ポイント(火の元、転倒)を確認した

新たな治療法を試すのも一つの方法

病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。

日本では軽度認知障害(MCI)でお悩みの方に向け治験が行われています。

治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。

例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。

治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。

・最新の治療をいち早く受けられる

・専門医によるサポート、アドバイスが受けられる

・治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる

ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。

実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。

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軽度認知障害(MCI)に関するよくある疑問

軽度認知障害(MCI)に関するよくある疑問について紹介します。

軽度認知障害(MCI)は治りますか?

MCIと診断された方の10〜40%は、適切な生活習慣の改善によって健常な状態に戻る可能性があります。

治らないと諦めるのではなく、「回復・維持を目指せる」と捉えることが重要です。

どのくらいの期間で認知症に進行しますか?

統計上、MCIの方は年間約10%の割合で認知症に移行するとされています。

しかし、この進行スピードは個人差が大きく、早期の行動と対策によって大きく変わります。

何科を受診すればいいですか?

まずはかかりつけ医に相談するか、もの忘れ外来、精神科、神経内科などの専門医を受診します。

特に認知症専門医は日本認知症学会などのホームページで探すことができます。

運転はすぐにやめるべきですか?

MCIと診断されたからといって即座に運転をやめる必要はありませんが、認知機能検査の結果や医師の判断に従う必要があります。

事故のリスクを避けるため、ご家族と話し合い、自主返納も選択肢に入れて慎重に検討しましょう。

市販のサプリや「脳トレ商品」は効果がありますか?

科学的根拠が確立されたサプリメントは現在のところありません。

過度な期待は避け、運動・食事・睡眠・社会交流という科学的根拠のある非薬物療法に集中することが効果的です。

まとめ

軽度認知障害(MCI)の診断は絶望の始まりではなく、「まだ間に合う」という希望と行動の始まりです。

診断をきっかけに、生活習慣を見直し、認知症への進行を食い止め、回復を目指す「一歩」を明確に決めましょう。

また、MCIへの対応は、あなた一人で担うものではありません。

ご家族、医師、そして地域包括支援センターなどの公的支援窓口とチームを組み、力を合わせて取り組んでいくことが、長期的な安心につながります。

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参考資料・文献一覧

1.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/001100282.pdf

2.アメリカ国立老化研究所(National Institute on Aging)https://www.nia.nih.gov/health/memory-loss-and-forgetfulness/what-mild-cognitive-impairment

3.アメリカ国立医学図書館 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5772157/

4.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/001100282.pdf

5.政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/article/202501/entry-7013.html

6.警視庁 https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/ninchi.html