子どもの手足の激痛が続いて心配している。汗をまったくかかず熱中症になりやすい。あるいは健康診断で尿蛋白を指摘された。
このような原因不明の身体症状に悩み、不安を抱えている方は少なくありません。
ファブリー病は小児期から成人期にかけて徐々に進行する遺伝性の代謝異常疾患です。初期の小さなサインに早く気づくことがその後の人生を大きく左右します。
本記事では初期症状のサインから年代ごとの進行プロセス、全身の器官別の影響までを網羅的に整理しました。
家族の間で受け継がれる病気のため、ご自身だけでなく、親やきょうだい、お子さんの症状と照らし合わせるときの見方もまとめています。疑わしいときの受診先や具体的な対処法も示します。
※この記事は疾患啓発を目的としています。
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ファブリー病の全体像と発症の仕組み
ライソゾーム病(先天性代謝異常)としての基本的な特徴
ファブリー病はライソゾーム病と呼ばれる先天性代謝異常症の一つです。日本先天代謝異常学会の「ファブリー病診療ガイドライン2020」は、ファブリー病をX連鎖遺伝形式の先天代謝異常症と位置づけています※1。
細胞内にあるライソゾームという小器官は、不要になった物質を分解するリサイクル工場のような役割を担っています。特定の酵素の働きによって細胞内の老廃物は処理されます。
しかしファブリー病の患者はこの酵素が生まれつき不足しています。
結果として分解されるべき物質が細胞内にどんどん溜まっていきます。これがさまざまな臓器の機能を低下させる原因です。
細胞の機能が徐々に落ちていくため、生まれてすぐには症状が目立たないケースが多く、数年から数十年かけてゆっくりと健康状態に影響が及んでいくのが特徴です※1。
なぜ全身にトラブルが起きるのか?酵素欠損による蓄積メカニズム
欠損しているのはα-ガラクトシダーゼAという酵素です。
この酵素が足りないことで、GL-3(グロボトリアオシルセラミド。Gb3とも呼ばれます)と呼ばれる糖脂質が全身の細胞に蓄積します。
血管の内側の細胞や神経細胞などにこの物質が溜まると、血流が悪くなったり神経が正常に働かなくなったりします。全身の血管はつながっているため、一部の臓器だけでなく皮膚、心臓、腎臓、脳といったあらゆる部位にダメージが及びます※1。
この蓄積は年齢とともに進む性質を持っています。
男女による症状の出方の違い【女性にも現れる理由】
ファブリー病はX染色体という性染色体に関連して遺伝します。
男性はX染色体を1本しか持たないため、酵素が不足すると典型的な症状が早期から現れやすい傾向があります。
一方、女性はX染色体を2本持っています。以前は、女性は病気の遺伝子を持っていても発症しない保因者として扱われる時期が長く続きました。
現在では女性にも重篤な症状が現れるリスクがあることがわかっています。
細胞によって正常なX染色体と変異のあるX染色体のどちらが働くかに偏りがあるためです。
女性で症状の差が大きくなる理由
厚生労働省の研究班(熊本大学小児科)がまとめたファブリー病の診断指針も、女性ではこの偏り(X染色体不活化の程度の違い)によって、無症状から複数の臓器に障害が出るものまで、さまざまな病型を示すことに注意を促しています※2。
症状が全く出ない軽い人から、心臓や腎臓に男性と同等に重い症状が出る人まで、女性の場合は個人差が非常に大きいのが特徴です。
そのため、家族の診断をきっかけに精密検査を受けた結果、お母さんや姉妹もファブリー病と判明するケースも少なくありません。女性患者の多くは、家族歴(家族の病気の経歴)から診断されています※1。
見逃しやすい初期サイン|幼児期・学童期に現れる代表的な3大症状
焼けるような激痛が走る「四肢末端痛」(手足の痛みとしびれ)
幼児期から学童期にかけて最もよく見られるサインが手足の激しい痛みです。ガイドラインも、ファブリー病の初発症状で最も多いのは四肢末端痛だと述べています※1。
指先やつま先、手のひらや足の裏などに、焼けるような鋭い痛みが走ります。
痛みは「燃えるように熱い」「耐え難い」と表現されることが多く、ファブリー病の自覚症状のなかでも特に苦痛の大きい症状です。学校を休まざるを得ないほどの激痛になることもあります※1。
運動したときや発熱時に痛みが強くなるのが特徴です※2。気温の変化や疲れも、痛みの引き金になります※3。
単なる成長痛と誤認されやすく、検査をしても異常が見つからないため診断が遅れる要因となっています。ガイドラインによると、ファブリー病は発症から診断までに10〜15年程度かかると報告されています※1。
手足の痛みを「気のせい」で片づけない
子どもの手足の痛みは見た目に変化がなく、周囲の理解を得にくい症状です※1。熱が出たときに手足を痛がる、汗をあまりかかない、といった様子は診断の重要な手がかりになるため、受診時に必ず伝えてください。
体温調節ができなくなる「無汗症・低汗症」
汗をかかない、または極端に少ないというのも重要な初期症状です。
暑い場所にいても汗が出ないため体温が上がりやすくなります。小児慢性特定疾病情報センターも、汗をかきにくいことと、それによる体温の上昇を典型的な症状に挙げています※4。
汗で体温を下げにくいため、暑さによる体調不良(熱中症など)には注意が必要です。体育の授業や夏の屋外活動でひどく疲れ果てたり、体調を崩したりすることが増えます。
平熱が高めになることもあり、風邪ではないのに微熱が続くケースもあります。
周囲からは暑さに弱いだけと見過ごされがちです。着替えが汗で濡れないなど、日々のささいな違和感が発見の手がかりになります。
皮膚や消化器にみられる特有のトラブル(赤紫色の皮疹・腹痛下痢)
皮膚や胃腸にも変化が現れます。
おしりや太もも、おへその周りなどに、被角血管腫と呼ばれる赤紫色の小さな発疹が無数にできるケースがあります。北海道大学皮膚科の資料では、水着で隠れる範囲(bathing trunk area)にあたるおなかから腰まわりを中心に、幼いころから現れるとしています※5。
痛みやかゆみは目立たないと言われますが、年齢とともに数が増え、大きくなっていきます※3。
発疹の見分け方や目の変化など、外見に現れる特徴を詳しく知りたいときは、ファブリー病の見た目に現れる特徴を解説した記事が参考になります。
頻繁にお腹を痛がったり、慢性的な下痢を繰り返したりするのも特徴的なサインです。消化器症状は、ストレスなど別の原因によるものと思われがちです※1。
3つの初期サインに共通すること
手足の痛み、汗の少なさ、皮膚の発疹は、いずれも幼児期・学童期から現れうるサインです。一方で、子どもの時期は外から見てわかる変化に乏しく、診断まで時間がかかりやすい病気でもあります※1。気になるサインが1つでもあれば、後述のチェックシートにまとめて受診時に伝えましょう。
年齢とともにどう進む?年代別にみる症状の進行プロセス
ガイドラインは、典型的な経過をたどる男性患者(古典型)について、症状が年代ごとに次のように現れるとまとめています。女性や、大人になってから症状が出るタイプ(遅発型)では、症状の出方や時期が人によって大きく異なります※1。
| 時期の目安 | 現れやすい症状(男性の古典型) |
|---|---|
| 幼児期・学童期 | 手足の痛み(四肢末端痛)、汗の少なさ(発汗障害) |
| 20歳以降 | 尿蛋白(腎臓の障害のはじまり) |
| 30歳以降 | 心臓の肥大(心肥大)、脳血管障害 |
| 40歳以降 | 進行性の腎不全、不整脈、心不全 |
思春期〜20代:運動制限や角膜混濁など緩やかな進行
成長に伴い、症状の種類が少しずつ変化していきます。
手足の痛みや汗の異常は、30歳を過ぎるころから自然に軽くなる傾向があります※1。
その一方で、10代後半から20代にかけては疲れやすさから運動を避けるようになるケースが目立ちます。汗をかけないことによる疲労感から、部活動への参加を制限せざるを得ないなど、思春期特有の心理的な負担も大きくなる時期です。
眼科の検査で角膜混濁を指摘されることが増えます。角膜に渦巻き状の濁りが生じる現象で、前述の研究班の診断指針でも、診断の参考になる所見に挙げられています※2。
眼科の診察で見つかり、ファブリー病を疑う手がかりの一つになります。視力そのものには、通常大きな影響はありません※6。
30代以降:心臓・腎臓・脳に及ぶ重篤な臓器障害
30代から40代を迎えると、生命に関わる重要臓器に症状が進行します。
蓄積したGL-3が臓器の機能を本格的に妨げ始めます。
腎機能の低下(蛋白尿の出現から慢性腎不全へ)
腎臓のろ過機能が徐々に低下します。
健康診断で尿蛋白を指摘されるのが始まりで、腎臓の障害は20歳以降に現れます。そのまま放置すると腎臓の働きは失われ、最終的には人工透析が必要な慢性腎不全へと進行するリスクが高まります※1。
自覚症状がないまま悪化するため定期的な検査が欠かせません。
心臓の肥大や不整脈などの循環器トラブル
心臓の筋肉に物質が蓄積することで心肥大が起こります。
息切れや動悸を感じやすくなり、心電図検査で不整脈が発見されるケースもあります。進行すると心不全や狭心症といった深刻な心疾患を引き起こし、日常生活に大きな支障をきたします※1。
男性の患者に多く見られる一方で、女性でも加齢とともに心臓のみに症状が強く出る人がいます。ガイドラインによると、女性患者も65歳を超えるとほとんどの人に心肥大が現れます※1。
若年発症の脳梗塞など脳血管障害のリスク
脳の細い血管にも影響が及びます。
通常なら脳梗塞を起こしにくい30代といった若い年齢で、脳梗塞や一過性脳虚血発作を起こす危険性が高まります。ファブリー病は、若い人の脳梗塞(若年性脳梗塞)の重要な原因の一つです※1。
脳梗塞が疑われるサインはすぐに受診を
手足のしびれ、ろれつが回らない、突然のめまいといった症状が現れた場合は直ちに医療機関での対応が必要です。
MRI検査で脳の奥深くに無症状の小さな梗塞跡が見つかることもあり、気付かないうちにダメージが蓄積していることがあります※1。
【部位別】ファブリー病が引き起こす全身の症状一覧
皮膚・眼・耳にあらわれる兆候(被角血管腫、角膜混濁、難聴)
全身の各器官には多様なトラブルが生じます。
皮膚には暗赤色から紫色の、小さく盛り上がった発疹が現れます。大きさは直径数mmから1cmほどです※5。見た目を気にして悩む方も少なくありません。
眼には先述の角膜混濁のほか、白内障や、結膜(白目の表面)の血管が曲がりくねる変化が見られることもあります※6。
耳の症状としては耳鳴りや、耳が聞こえにくくなる難聴、めまいが生じ、突発性難聴のように急に耳が聞こえなくなる発作を伴うケースもあります※1。
消化器・自律神経の不調(頻回の腹痛、慢性的な下痢)
胃腸の働きにも乱れが生じます。
腹痛や下痢、吐き気・嘔吐を繰り返します。これらの消化器症状は、自律神経の障害によって起こると考えられています※1。
栄養を十分に吸収できず、体重が増えにくいといった問題につながる場合もあると言われています。原因不明の腹痛として、過敏性腸症候群など別の病気と区別がつきにくいことがあるとも言われます。
生命予後に関わる重要臓器(心臓・腎臓・脳)の異常まとめ
将来の生活を大きく左右するのが心・腎・脳の3大臓器の機能障害です。
心肥大による心不全、尿蛋白から進行する腎不全、若年での脳血管障害。ガイドラインも、ファブリー病の生命予後に影響するおもな要因として、心臓、腎臓、脳血管などの重い臓器障害を挙げています※1。
臓器の障害が進む前に見つけることが大切
この段階まで進行する前に病気を発見し、治療を始めることが重要です。ガイドラインは、臓器の障害が進んだ状態では酵素補充療法の効果が乏しくなることから、早期診断・早期治療を課題に挙げています※1。
診断後の治療と医療費助成の基本
診断後に受けられる治療の概要
不足している酵素を点滴で定期的に補充する酵素補充療法や、酵素の働きを助ける内服薬(シャペロン療法)が開発されています。いずれも、症状や臓器の障害の進行を抑えることを目指す治療です※1。
治療の選択肢は着実に広がっています。
完治の見通しや、治療で改善が期待できることを知りたいときは、ファブリー病が治るのかと治療の現状を解説した記事が参考になります。
早く見つけることで守れるもの
心臓や腎臓の障害がすでに進んでいた人では、治療の効果が出にくいという報告があります※1。小児期や無症状の段階で診断を受け、臓器がダメージを受ける前に治療を始めることが、生活の質を守ることにつながります。
気になるサインがあれば、早めに受診してください。
寿命や予後の見通しが気になるときは、ファブリー病の寿命と治療で変わる予後を解説した記事もあわせてご覧ください。
国が定める「指定難病」の対象区分と医療費助成
ファブリー病は国が定める指定難病に認定されています。厚生労働省の資料によると、ファブリー病が含まれる「ライソゾーム病」は指定難病の告示番号19で、重症度などの一定基準を満たす場合に医療費助成制度の対象となります※7。子どもは、小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象にもなります※1。
厚生労働省によると、医療費助成の相談・申請は、お住まいの都道府県の窓口(保健所など)が受け付けています※8。
家族の症状と照らし合わせるときに確認したいこと
ファブリー病は親から子へ受け継がれる病気です。そのため、ご本人の症状だけでなく、家族や親戚の病歴をあわせて見ることが、診断の大きな手がかりになります。ガイドラインも、家族歴を診断の重要なサインと位置づけています※1。
X連鎖遺伝という形で受け継がれるため、男性患者の母親や娘は、原則として病気の遺伝子の変化を受け継いでいます。ただし、家族に患者がいないまま新たに発症する例もあり、親が患者とは限りません※1。
家族の病歴から気づけるサイン
家族に手足の痛み、腎臓の障害、心臓の肥大、脳血管障害が続いている場合、ファブリー病を疑わせる所見になります※1。親やきょうだい、祖父母、おじ・おばについて、次のような病歴がないか振り返ってみてください。
同じ家族でも症状の重さは違う
同じ遺伝子の変化を持つ家族の間でも、症状の重さに差が出ることがあります。特に女性では、子どものころから手足の痛みが出て末期の腎不全に至る人もいれば、60代になって心肥大で初めて気づく人もいます※1。
「親は軽かったから自分も大丈夫」「症状がないから関係ない」とは言い切れません。女性患者は症状がなくても、定期的に経過をみてもらう必要があります※1。
家族で照らし合わせるときのポイント
- 女性は症状だけでは診断が難しく、家族歴から疑われることが多い
- 家族歴がなくても、ファブリー病の可能性は否定できない
- 同じ家族でも症状の出方は異なり、女性も年齢とともに心臓などに症状が出ることがある
いずれもガイドラインに記載された内容です※1。
症状のない家族が検査を受けるかどうかは、遺伝カウンセリングで検査の意味や家族への影響を確認しながら決めていきます※1。
検査の費用や保険の使い方、受診までの流れを知りたいときは、ファブリー病の検査方法と費用相場を解説した記事も参考にしてください。
疑わしい症状があるときは何科を受診すべきか?
年齢や主な自覚症状に応じた診療科の選び方(小児科・腎臓内科・循環器内科など)
年齢や出ている症状によって適切な入り口は異なります。
子どもが手足の痛みや汗の異常を訴えている場合は、小児科を受診してください。可能であれば先天性代謝異常に詳しい医師がいる大学病院や総合病院が適しています。
大人の場合、尿蛋白が気になるなら腎臓内科を、動悸や息切れがあれば循環器内科を選ぶとよいでしょう。皮膚の赤い発疹が目立つ場合は皮膚科が入り口になることもあります※1。
総合診療科や遺伝子診療科といった複数の臓器にまたがる病気を専門に診る科も頼りになります。
スムーズに診断へ繋げるための「医師への相談チェックシート」
診察室で症状を正確に伝えるためのメモを準備しておきましょう。
以下の項目を書き出して持参すると医師が状況を把握しやすくなります。
これらの情報を整理して伝えることが早期診断への近道です。
治験を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。日本ではファブリー病でお困りの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
- 最新の治療をいち早く受けられることがある
- 専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
- 治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
ファブリー病の症状に関するよくある質問(FAQ)
まとめ
ファブリー病は「手足の痛み」や「汗が出ない」といった小児期の小さなサインから始まります。適切な対処をせずに放置すると、成人期には心臓や腎臓の深刻な病気へと進む疾患です。
早期に専門医療機関で正しい診断を受け、酵素補充療法などの治療を始めることで、臓器の障害の進行を抑えることが期待できます※1。
家族の間で受け継がれる病気のため、ご自身の症状だけでなく、親やきょうだい、お子さんの病歴もあわせて振り返ることが診断の手がかりになります。
少しでも疑わしい症状にお悩みであれば、一人で抱え込まずにチェックシートを活用して医療機関へ相談してください。治療法や遺伝に関する詳しい情報は専門医のアドバイスをもとに理解を深めていくと安心です。
