ファブリー病という診断を受けた直後や、疑いがあると言われた際、真っ先に頭に浮かぶのは「この病気は治るのだろうか」という切実な疑問かもしれません。
不安な気持ちを抱えたまま、さまざまな情報を探し求めている方も多いはずです。
結論をお伝えすると、現時点での医学において、ファブリー病を完全に治癒させる(根治する)方法はまだ確立されていません。日本先天代謝異常学会の「ファブリー病診療ガイドライン2020」でも、遺伝子治療は臨床試験の段階として紹介されています※1。
しかし、この事実だけで希望を失う必要はありません。治療の選択肢は増えており、病気の進行を抑えながら、これまでの生活をできるだけ長く続けることが目指せるようになっています※1。
この記事では、ファブリー病における完治の可能性と、現在受けることのできる2大治療法、治療によって何がどこまで改善するのかをまとめました。さらに、高額になりがちな医療費への支援制度など、前を向いて生活していくための現実的な対処法も整理しています。焦らず一つひとつの情報を確認し、今後の見通しを立てるための参考にしてください。
※この記事は疾患啓発を目的としています。
ファブリー病でお困りの方へ
治験という方法で負担軽減費を受け取りながら、より良い治療の選択肢を見つける方が増えています。
※負担軽減費とは:治験協力者が負担する交通費や時間的拘束などがあるためお金が支給されます。
治験ジャパンでは参加者の皆様に医療費の負担を軽減しながら、最新治療を受ける機会のご提供が可能です。
- 通院1回につき1万円程度、入院1泊あたり2万円程度が負担軽減費の相場
安心・信頼できる試験のみを紹介しており、安全に配慮された環境下で行われます。
ファブリー病は完治する?「治る」の現状と目指すべき治療ゴール
現時点で根治が難しい理由と指定難病としての位置づけ
ファブリー病は、細胞内にある「α-ガラクトシダーゼA」という酵素の遺伝子に変異があり、酵素が不足している、あるいは働きが弱いために起こる疾患です※1。
この根本的な原因である遺伝子の変異そのものを恒久的に修復する治療技術は、現在の一般的な医療としてまだ標準化されていません。
そのため、病気の原因そのものを完全に取り除く「完治(根治)」への道のりは厳しいのが現状です。こうした背景から、ファブリー病は厚生労働省の指定難病(ライソゾーム病)の一つに位置づけられ、継続的な治療が必要な病気とされています※2。
「治る」と「抑える」の違い
原因物質を一度で体から消し去る薬は、今のところありません。ファブリー病の治療は、たまった物質を減らし、新たにたまるのを抑えながら、臓器を守っていく治療が中心です※1。
「治らない=打つ手がない」ではない:進行抑制とQOL維持が現代の到達点
完治が難しいと聞くと、治療をしても意味がないのではないかと絶望を感じるかもしれません。
しかし、現在の治療の大きな目的は「症状の進行を抑え、生活の質(QOL)を保つこと」に置かれています。ガイドラインも、酵素補充療法によってQOLの維持・改善がみられるとしています※1。
体内に原因物質(Gb3:グロボトリアオシルセラミド)がたまるのを抑える治療法は、すでに実用化されています※1。適切な治療を続けることで、心臓や腎臓、脳といった生命維持に関わる重要臓器へのダメージの進行を抑えることが期待できます。完全に元通りにならなくても、病気をコントロールしながら自分らしい人生を歩むことを目指せます。
ファブリー病の進行を食い止める2大治療アプローチ
不足した酵素を補う「酵素補充療法(ERT)」の仕組みと通院ペース
現在、ファブリー病治療の主軸となっているのが酵素補充療法です。体内で作ることができない、あるいは足りていない酵素を点滴によって外から補給し、たまったGb3を分解させます※1。
この治療の利点は、血液に乗って全身へ酵素を届けられる点にあります。蓄積してしまった原因物質を分解し、臓器への負担を軽減する効果が期待できます。
日本で使われている製剤(アガルシダーゼ アルファ、アガルシダーゼ ベータとそのバイオ後続品)は、いずれも2週間に1回の点滴です※1。定期的な通院が必要になるため、仕事や学校との調整など、生活リズムの中に治療を組み込む工夫が必要になります。
酵素製剤に対する抗体に注意
酵素補充療法では、薬に対する抗体が体の中にできることがあります。抗体ができるとアレルギー症状が出たり、薬の働きを打ち消す抗体(中和抗体)によって効果が弱まったりすることがあります※1。点滴中や点滴後にいつもと違う症状が出たときは、すぐに医療スタッフへ伝えてください。
自身の残存酵素を活性化する「シャペロン療法」という選択肢
もう一つの重要な治療法として、シャペロン療法が挙げられます。これは点滴ではなく、飲み薬(経口投与)による治療です。
患者さんの体内にある酵素が全くゼロではなく、わずかに作られているものの、形が不安定でうまく働けないケースがあります。シャペロン療法は、この不安定な酵素の安定性を高め、本来の働きを取り戻させるメカニズムを持っています※1。
点滴が必要ないため、通院による点滴負担を大幅に減らせるのが特徴です※1。
ただ、すべての患者さんに有効なわけではありません。日本で承認されているミガーラスタット(販売名:ガラフォルド)の添付文書によると、対象は薬が効くタイプの遺伝子変異(反応性のある変異)を持つ方で、投与を始める前に、遺伝子変異がこの薬に反応するかどうかを確認することが求められています※3。
飲み方は、成人および12歳以上の小児で1日おき(隔日)に1カプセルで、食事の前後2時間を避けて服用します※3。
臓器ごとの負担を和らげる対症療法の組み合わせ
原因物質の蓄積を防ぐ治療と並行して、すでに現れているつらい症状を取り除く対症療法も欠かせない要素です。ガイドラインに挙げられている主な対症療法は次のとおりです※1。
病気の進行自体を止める治療と、今ある苦痛を和らげる治療。この両輪をうまく組み合わせることで、より快適な日々を維持しやすくなります。
腎臓の働きが落ちてきたときに日常でできることを知りたいときは、腎機能を回復させるためにできることを解説した記事が参考になります。
早期治療がもたらす予後への影響|生活の質はどう変わるか
早期発見・早期介入が将来の臓器障害を左右する
ファブリー病における治療の成否は、どれだけ早い段階で介入を始められるかに大きく依存しています。自覚症状が少ない初期段階であっても、体内では原因物質がゆっくりと蓄積し続けています。
一度壊れてしまった臓器の細胞を元の状態に戻すことは非常に困難です。ガイドラインでは、次のように臓器障害が進んだ段階では、酵素補充療法の効果が乏しくなると考えられています※1。
不可逆的なダメージの前に始める
心不全や腎不全といった不可逆的なダメージが現れる前から治療を開始し、蓄積を未然に防ぐ予防的なアプローチが将来の健康状態を左右します。早期発見が、よりよい予後につながる大きな条件です※1。
治療で何が改善し、何がまだ分かっていないのか
過去の医療データを見ると、ファブリー病は腎不全や心疾患による命の危険が高い病気として認識されていた時代があります。
過去の統計で示された寿命の数字と、その読み方を確かめたいときは、ファブリー病の平均寿命と生存率を解説した記事が参考になります。
酵素補充療法の登場で状況は変わり、ガイドラインは「酵素補充療法は、QOLの維持・改善を認め、生命予後の改善が期待できる」としています※1。
ただ、「治る」に近づいたかどうかは、症状や臓器ごとに分けて見る必要があります。ガイドラインが示す酵素補充療法の評価を、根拠の確かさ(エビデンスの強さ)の順に並べると次のようになります※1。
| 症状・臓器 | ガイドラインの評価 | 根拠の確かさ |
|---|---|---|
| 腎臓 | 尿たんぱくの減少、腎機能(GFR)が下がる速さの軽減、腎組織のGb3蓄積の減少がみられる | B(中程度) |
| QOL・生命予後 | QOLの維持・改善、生命予後の改善が期待できる | C(弱い) |
| 手足の痛み | 神経の痛みの治療に有用 | C(弱い) |
| 心臓 | 心臓の筋肉の重さが減るか安定し、心機能の一部が改善 | C(弱い) |
| おなかの症状 | 腹痛、下痢、吐き気・嘔吐が改善 | C(弱い) |
| 汗をかきにくい | 改善する可能性がある | C(弱い) |
| 脳卒中・脳の白質病変 | 予防・進行抑制の効果を示す根拠は不十分 | D(とても弱い) |
| 難聴・めまい | 効果を評価する根拠は不十分 | D(とても弱い) |
| 皮膚の赤い発疹(被角血管腫) | これだけを目的に治療することは勧められない | D(とても弱い) |
こうして並べると、腎臓の数値の改善は比較的はっきり示されている一方、脳卒中の予防や耳の症状については、まだ効果を判断できるだけの研究がそろっていないことが分かります。つまり「治療で全部が良くなる」でも「何も変わらない」でもなく、臓器ごとに期待できる範囲が違うというのが現状です。脳や耳の症状は対症療法や定期的な検査で別に見ていく、という考え方につながります。
心臓の筋肉が厚くなる心肥大そのものが改善するのかを知りたいときは、左室肥大は治るかと治療の選択肢を解説した記事も参考にしてください。
「根拠の確かさ」の見方
ガイドラインの「エビデンスの強さ」は、その判断を支える研究結果がどのくらい確かかを示すものです。Aが最も確かで、B(中程度)、C(弱い)、D(とても弱い)の順に確かさが下がります。CやDは「効果がない」という意味ではなく、「はっきり言い切れるだけの研究がまだ少ない」という意味です。
「すぐに効果が見えない」時期を乗り越える治療継続の重要性
治療を始めてすぐに目に見える大きな変化を感じることは少ないかもしれません。特に酵素補充療法などは、すでに起きてしまった症状を消し去るというより、未来の悪化を防ぐ「守り」の側面が強い治療です。
ガイドラインによると、血管や腎臓・心臓の組織でGb3の蓄積が減ったり、手足の痛みが和らいだりするまでには、6か月以上かかるとされています※1。
痛みや違和感がすぐにはなくならないため、「本当に効いているのか」と不安になり、通院をやめたくなることもあるかもしれません。即効性を求めすぎず、主治医と相談しながら腰を据えて治療を続けることが大切です。
治療を始める前に主治医と確認しておきたいこと
ここまでの内容をもとに、診察で確認しておきたい点をまとめました。
治験を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。日本ではファブリー病でお困りの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
- 最新の治療をいち早く受けられることがある
- 専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
- 治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
完治を目指す未来へ:研究が進む次世代の先端医療
現段階では完治が難しいとされるファブリー病ですが、新しい治療法の開発も進んでいます。東京慈恵会医科大学の医師がまとめた2019年の総説(これまでの研究を整理した論文)でも、遺伝子治療や基質合成阻害療法の開発が進んでいると紹介されています※5。
代表的なものとして、原因となる遺伝子の働きを補う「遺伝子治療」の臨床試験が行われています※1。体の中で酵素を作り出せるようにすることを目指した治療で、根本的な治療につながる可能性があるとして期待されています。ただし、効果がどのくらい続くのかなどは、まだ研究の段階です。
また、原因物質が体内で作られる過程そのものをブロックする「基質合成抑制療法(SRT)」という新しいタイプの経口薬も研究段階にあります。厚生労働省の臨床研究データベース(jRCT)には、この飲み薬(ベングルスタット)について、痛みへの効果や心臓の筋肉の厚さへの効果を調べる第3相試験(承認前の最終段階の臨床試験)が、日本の医療機関も参加して登録されています※6※7。
今の治療で臓器を守っておくことは、将来新しい治療が使えるようになったときに、その効果を受けやすい状態を保つことにもつながります。
治療を続ける上での疑問と現実的な対処法(FAQ)
ファブリー病の治療は長期にわたるため、医療費の負担を心配される方は非常に多くいらっしゃいます。実際に酵素補充療法などは薬剤費が高額になりますが、公的な支援制度があります。
指定難病としての医療費助成制度を利用することで、世帯の所得に応じて月々の自己負担上限額が設定されます。厚生労働省の制度では、上限額を超える分は公費で負担されます※8。医療保険の高額療養費制度との関係も含め、具体的な金額は窓口で確認してください。
申請は、お住まいの地域の保健所などで行います。国立成育医療研究センターの案内によると、お子さんの場合は小児慢性特定疾病の医療費助成を申請したほうが、助成の範囲が広くなることがあります※9。まずは保健所や、病院の医療ソーシャルワーカーに相談し、制度の申請手続きを進めてください。
現在の標準治療である酵素補充療法やシャペロン療法は、病気の原因を完全に取り除くものではないため、原則として長期にわたる継続が前提となります※2。
2週間ごとの点滴通院を一生続けると聞くと、強いプレッシャーを感じるかもしれません。しかし、ファブリー病の酵素製剤は2021年3月から、自宅での点滴(在宅酵素補充療法)が保険で行えるようになりました。日本先天代謝異常学会と日本在宅医療連合学会は、在宅で行うためのマニュアルも作成しています※4。
本人の同意や訪問看護の体制など条件を整える必要がありますが、通院の負担を減らす選択肢も広がりつつあります。ご自身のライフスタイルに合わせた治療環境を整えることが、長く付き合っていくためのコツです。
一人で抱え込まないで
一人で病気の不安を抱え込む必要はありません。主治医や専門の医療機関、そして公的な支援窓口と連携しながら、焦らず一歩ずつ治療に向き合っていくことが、これからの生活を守る大きな支えになります。
