全身性エリテマトーデス(SLE)の入院基準とは?入院が必要な症状・期間・生活への影響を解説

2025年12月10日

全身性エリテマトーデス(SLE)と診断された際、あるいは症状が悪化した際、多くの方が直面するのが「入院が必要なのか、外来で様子を見て良いのか」という不安です。

近年のガイドラインや専門施設では、SLEの治療目標として「寛解(病勢が完全に抑えられた状態)」に加え、「低疾患活動性(Lupus Low Disease Activity State:LLDAS)」という状態を維持することが重視されています。

寛解の達成が難しい場合でも、プレドニゾロン7.5mg/日以下で主要臓器障害がないなどの条件を満たすLLDASを長く保つことで、臓器障害や再燃を減らせることが示されています(参考:東京大学医学部附属病院 1)。

状態が落ち着いていれば、多くの方は日常生活を送りながら外来で治療を続けることが可能ですが、重要臓器への障害や強い自覚症状がある場合には、集中的な治療や精密な検査のために入院が必要になることがあります。

本記事では、医師が判断の目安とする「3つの入院のパターン」を中心に、入院期間の目安や仕事・経済面での支援制度まで、患者さんの不安に寄り添って体系的に解説します。

※この記事は疾患啓発を目的としています

全身性エリテマトーデス(SLE)で入院が必要になる「3つのパターン」

SLEの入院が必要かどうかは、最終的には病状と検査結果を総合した主治医の判断によりますが、大きく分けると次の3つのケースが典型的です。

① 重要臓器(腎臓・脳・肺・心臓など)に炎症が起きている場合

SLEでは、腎臓・中枢神経・肺・心臓・血管などの臓器が障害されると、命に関わったり生活の質(QOL)を大きく低下させたりすることがあります。

これらはガイドラインでも予後を左右する重要臓器障害として位置づけられています(参考:難病情報センター 2)。

特に、次のような症状(危険信号)がある場合には、入院して早期に治療を始めるかどうかを医師が慎重に検討します。

  • ループス腎炎(腎臓の障害)
    • 尿検査で蛋白尿や血尿が強く出ている
    • 足のむくみや体重増加、血圧上昇など腎機能低下を疑う所見がある
  • 中枢神経ループス(脳・神経の障害)
    • けいれん、意識がもうろうとする、激しい頭痛
    • 抑うつ・錯乱など、急に性格や行動が変わったように見える精神症状
  • 心臓・肺・血管の炎症
    • 胸痛や息切れを伴う心膜炎・肺炎・間質性肺炎など
    • 血栓症や肺高血圧症が疑われる場合

このような場合には、強力な免疫抑制治療(ステロイドや免疫抑制薬、生物学的製剤など)を安全に行うため、入院下でのモニタリングが必要になります(参考:全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019 3/難病情報センター 2)。

② 病勢が強く、点滴治療(ステロイドパルス療法など)が必要な場合

ステロイドや免疫抑制薬を飲み薬で投与しても病気の勢いが強く抑えられない場合、短期間に大量のステロイドを点滴する「ステロイドパルス療法」など、より強力な治療が検討されます(参考:難病情報センター 2)。

  • ステロイドパルス療法は、メチルプレドニゾロンなどを3日間程度連日で高用量点滴する方法で、重症のループス腎炎や精神神経ループスなどに用いられます。
  • 強力な免疫抑制により感染症やその他の副作用が起こりやすくなるため、入院して血液検査・バイタルサイン・感染徴候などをこまめにチェックしながら行う必要があります。

腎臓や中枢神経などの内臓や血管に炎症がある場合、1〜2か月程度入院して治療を行う必要があるとされていますが、一方で聖路加国際病院ではループス腎炎治療の平均入院期間が約2週間と報告されており、病状や施設によって大きく異なります(参考:東邦大学 4/聖路加国際病院 5)。

そのため、「重症のループス腎炎や精神・神経症状を伴う場合には、病状や病院によっては数週間〜1〜2か月程度の入院が必要になることがある」と考えるのが現実的です。

具体的な見通しは必ず主治医に確認してください。

③ 確定診断や合併症の有無を調べる「検査入院」

SLEは、一つの血液検査だけで診断がつく病気ではなく、症状と複数の検査(血液検査・尿検査・画像検査・場合によっては組織検査)を組み合わせて総合的に診断します(参考:東京女子医科大学 6)。

SLEは診断基準に照らし合わせて診断するが一度の検査では診断が難しく、はっきり診断できるまで時間がかかる場合があるとされています(参考:東京都立病院機構 7)。

診断を確実にするために、一定期間入院して全身の検査を集中的に行う「検査入院」が行われることがあります。

腎臓の状態を詳しくみるための腎生検(腎臓の組織を採取する検査)は安静が必要であり、多くの施設で短期入院のうえで実施されます。

検査入院の期間は、検査内容や病状によって数日〜1〜2週間程度など幅があり、施設によっても異なります。

あくまで「目安」であり、具体的なスケジュールは病院ごとに異なる点に注意してください。

>>全身性エリテマトーデス(SLE)は治る?完治の可能性と寿命・寛解して普通の生活を送る方法

入院期間はどれくらい?目的別の目安と考え方

「入院」と聞いてまず気になるのが、「どれくらいの期間になるのか」という点です。

入院の目的によって目安は変わり、同じループス腎炎でも病状や病院によって異なります(参考:東邦大学 4/聖路加国際病院 5)。

入院の目的目安期間(あくまで一般的な目安)内容のイメージ
検査入院数日〜1〜2週間程度(検査内容や病状によって変動)全身の精密検査、腎生検などの組織検査、診断の確定・重症度評価
治療入院(導入期)数週間〜1〜2か月程度のことがあるステロイドパルス療法、免疫抑制薬の導入、副作用のモニタリングと病状の安定化

ループス腎炎でも、施設によっては平均入院期間が2週間程度という報告もあり、入院期間にはかなり幅があります(参考:聖路加国際病院 5)。

「この期間で必ず退院できる」わけではなく、症状が安定し、お薬の量や副作用のコントロールの目途が立った時点で外来治療へ切り替えると理解しておくと良いでしょう。

「血液検査に異常なし」でも入院検討が必要なケース

診察室では「血液検査の数値は落ち着いていますよ」と言われても、「とてもつらくて日常生活が送れない」と感じることがあります。

検査結果だけでは拾いきれない症状があるため、自己判断せず主治医に詳しく相談することが大切です。

歩けないほどの倦怠感・関節痛・筋力低下があるとき

「歩けない」「起き上がれない」と感じるほどの強い倦怠感や筋力低下・関節痛は、単なる疲れや一時的な体調不良ではなく、以下のような状態が隠れている可能性があります。

  • 病勢が強いSLEそのものの活動性
  • 筋肉の炎症(筋炎)、ステロイド筋症など
  • 神経系の障害 など

血液検査が一見落ち着いていても、日常生活に著しい支障が出ている場合には、主治医に早めに相談し、必要に応じて入院して詳しく調べるかどうかを一緒に検討することが重要です。

日常生活に支障が出るほどの精神症状

不眠、強い抑うつ、興奮や錯乱などの精神症状は、以下のような複数の要因で起こりうるとされています。

  • SLEが脳・中枢神経に影響して生じる精神神経ループス
  • 副腎皮質ステロイド薬そのものの副作用としてのうつ病・不眠など(参考:厚生労働省 重篤副作用対応マニュアル 8/日本リウマチ学会 10)

どちらの場合も放置すると危険であり、精神科・神経内科とも連携できる環境で評価と治療が必要になることがあります。

「いつもと様子が違う」と周囲が感じたときは、早めに主治医に連絡し、必要に応じて救急受診や入院加療を検討してもらいましょう。

入院と言われたら…仕事・家事・お金の不安を軽くする支援制度

長期の治療や再燃の可能性を前提とした病気であるため、医療費や仕事、生活の見通しを立てることも治療の一部です。(参考:厚生労働省 3)

医療費に関する支援

  • 指定難病受給者証(特定医療費)
    • SLEは厚生労働省の指定難病「49 全身性エリテマトーデス」に含まれており、医療費助成の対象になることがあります(参考:厚生労働省 3)。
    • 認定されると、所得区分に応じて月ごとの自己負担上限額が設定され、入院・外来を通じた医療費負担を軽減できます。

  • 高額療養費制度
    • 同一月の自己負担額が一定の上限を超えた場合、超過分が払い戻される制度です。指定難病の助成と併用されるケースもあります。

生活の保障(手帳・年金など)

  • 障害者手帳
    • 臓器障害や身体機能の低下の程度によって、身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳などの対象となる場合があります。
    • 等級に応じて税金の控除や公共交通機関の割引などが受けられる可能性があります。

  • 障害年金
    • 病気によって就労が大きく制限される場合には、初診日や加入状況、障害認定日の状態などの条件を満たせば障害年金が支給されることがあります。

具体的な要件や手続きは制度ごとに細かく異なるため、病院の医療ソーシャルワーカーやお住まいの自治体窓口に早めに相談することをおすすめします。

仕事との両立について

  • 休職・傷病手当金
    • 会社員・公務員など健康保険に加入している場合、一定の条件を満たせば休職中に「傷病手当金」が支給されます。

  • 職場との調整
    • 産業医や人事部と連携し、通院頻度や配慮が必要な事項(疲れやすさ、日光曝露の制限など)について情報共有することで、無理のない働き方を検討できます。

【チェックリスト】主治医に相談すべき「入院のサイン」

以下のような症状が自宅でみられた場合、次回の予約を待たずに主治医へ相談することが推奨されます。

症状の組み合わせや経過によっては、入院が必要かどうかを検討するきっかけになります。

  • 発熱: 原因不明の微熱が続く、あるいは高熱が出る。
  • 発疹: 顔面(頬)に蝶のような形の赤い発疹(蝶形紅斑)が出た、日光に当たると皮疹や体調が悪化する。
  • 浮腫(むくみ): 足のすねや顔が強くむくむ、急激に体重が増える(腎機能悪化のサインの可能性)。
  • 強い倦怠感: 起き上がるのもつらい、歩くのがやっとである。
  • 精神的な変化: いつもと明らかに様子が違う(怒りっぽくなる、極端に落ち込む、眠れない、会話がかみ合わないなど)。

これらは必ずしもすべてがSLEの悪化を意味するわけではありませんが、自己判断で様子を見すぎず、早めに医療者に相談することが大切です。

治験を試すのも一つの方法

病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。

日本では全身性エリテマトーデス(SLE)でお悩みの方に向け治験が行われています。

治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。

例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。

治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。

・最新の治療をいち早く受けられることもある

・専門医によるサポート、アドバイスが受けられる

・治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる

ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。

実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。

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全身性エリテマトーデス(SLE)に関するよくある疑問

全身性エリテマトーデス(SLE)に関するよくある疑問を紹介します。

Q1. SLEになると平均寿命が縮むというのは本当ですか?

かつてSLEは「数年で命に関わることもある病気」とされていましたが、現在は早期診断と治療の進歩により予後が大きく改善しています。

厚生労働省の資料では、SLEの5年生存率は95%以上と報告されており(参考:厚生労働省 3)、多くの患者さんが長期にわたり生活を送れるようになっています。

一方で、ループス腎炎・精神神経ループス・抗リン脂質抗体症候群などの合併は予後に影響するため、定期的な受診と治療の継続、感染症予防や生活習慣の管理がとても重要です(参考:難病情報センター 2)。

Q2. 入院中に仕事や勉強はできますか?

症状や治療内容によります。

  • ステロイドパルス療法や病勢が強い導入期は、安静や集中的な検査・治療が必要なため、仕事や勉強は最小限になることが多いです。
  • 病状が落ち着き、点滴治療が一段落した後は、病院のWi-Fiなどを利用して短時間のデスクワークや学習を行っている方もいます。

ただし、ストレスや過労は再燃のきっかけになりうるため、無理をせず、主治医と相談しながら「どの程度までなら可能か」を決めていくことが大切です。

Q3. 「副作用」が不安です。

ステロイドや免疫抑制薬は、SLEの治療に不可欠な一方で、副作用も起こりうる薬です。

日本リウマチ学会の解説では、次のような副作用が挙げられています(参考:日本リウマチ学会 6)。

  • 易感染性(風邪・肺炎などにかかりやすくなる)
  • 糖尿病・高脂血症・高血圧
  • 胃・十二指腸潰瘍
  • 骨粗鬆症
  • 満月様顔貌(ムーンフェイス)
  • 精神症状(不眠・うつ状態 など)

満月様顔貌などの外見の変化は、ステロイドの減量で改善していくことが多いとされていますが、すべての副作用が短期間で完全に消えるわけではありません(参考:日本リウマチ学会 6)。

入院中は、看護師や医師が血液検査や症状をチェックしながら、副作用を最小限に抑えられるよう調整していきます。

不安な点は一人で抱え込まず、その都度医療スタッフに相談することがとても大切です。

まとめ:「今の自分」に最適な治療プランを

SLEの入院は、決して「一生出られない場所」へ行くことではありません。

むしろ、将来にわたって外来で安定した生活を送るための準備期間と考えることができます。

重要臓器障害(腎臓・中枢神経・肺・心臓など)や病勢が強い時期には、強力な治療を安全に行うために入院が必要になることがあります。

病状が安定すれば、LLDASや寛解を目標として、日常生活と両立しながら外来で治療を続けていくことが可能です(参考:東京大学医学部附属病院 1/順天堂大学 5)。

SLEは指定難病として医療費助成の対象にもなっており、経済的・生活面の支援策も用意されています(参考:厚生労働省 3)。

検査結果に表れないつらさや、仕事・お金・家族のことへの不安も含めて、主治医や医療ソーシャルワーカーと共有し、「今の自分」にとって最も安全で現実的な治療プランを一緒に作っていきましょう。

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参考資料・文献一覧

  1. 東京大学医学部附属病院 アレルギー・リウマチ内科「東大病院SLEセンターの取り組み」
    https://ryumachi.umin.jp/sle/torikumi.html
  2. 難病情報センター「全身性エリテマトーデス(SLE)(指定難病49)」
    https://www.nanbyou.or.jp/entry/215
  3. 厚生労働省「49 全身性エリテマトーデス(概要・診断基準等)」および関連資料
    https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001339032.pdf
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000089929.pdf
  4. 東邦大学医療センター「全身性エリテマトーデス」
    https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/ohashi/kogen/patient/treatment/sle.html
  5. 聖路加国際病院 リウマチ膠原病センター「受診案内」
    https://hospital.luke.ac.jp/guide/06_allergy/index.html
  6. 一般社団法人 日本リウマチ学会「副腎皮質ステロイド」
    https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/fukujinhishitsusteroid/
  7. 東京都立病院機構「全身性エリテマトーデス」
    https://www.tmhp.jp/shouni/section/internal/nephrology-08.html
  8. 東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センター「全身性エリテマトーデス (SLE)」
    https://twmu-rheum-ior.jp/diagnosis/kougenbyo/sle.html