「線維筋痛症と診断されたけれど、一生この激痛と付き合うのか?」
「ネットを見ると『治る』という医者と『一生治らない』という情報があり、何が本当か分からない」
線維筋痛症と診断され、終わりの見えないトンネルにいるような不安を感じている方もいるかもしれません。
結論から申し上げると、現時点で原因そのものを取り除くような「根治療法(完治を保証する治療)」は確立していませんが、薬物療法やリハビリテーションなどを組み合わせることで、痛みや疲労などの症状を軽減し、日常生活への支障をできるだけ小さくすることは十分に目指せます。(参考:日本リウマチ財団 1)
この記事では、医師によって「治る・治らない」の説明が食い違う理由を整理し、「今の痛みを減らすために、今日から何ができるか」という具体的な回復への道筋を解説します。
線維筋痛症は「治る」のか「治らない」のか?医師によって説明が違う理由
線維筋痛症について調べると、「治る」という情報と、「根治治療はない」とする公的機関の情報が並んでいます。
この矛盾が患者さんを混乱させる最大の要因ですが、これは「言葉の定義」と「治療スタンス」の違いによるものです。
「完治(Cure)」と「寛解(Remission)」の違い

まず、公的機関(日本リウマチ財団など)が「根治のための特異的な治療法はない」と記載するのは、「原因そのものを除去する特効薬がまだ見つかっていない」という厳密な医学的事実に基づいています。(参考:日本リウマチ財団 1)
一方で、臨床現場で実際に目標とされることが多いのは、「痛みはある程度残っていても、仕事や家事ができ、夜も眠れる状態(寛解)」です。
症状をコントロールし、生活の質(QOL)をできるだけ保つことが現実的な治療ゴールとされています。(参考:日本リウマチ財団 1)
なぜ「治る」という情報があるのか
一方で、「治る」という情報も存在します。
この背景には、線維筋痛症を「脳の機能的な誤作動」と捉える考え方があります。
- 機能性疾患の視点: 臓器が壊れているわけではないため、痛みの感じ方に関わる脳や神経の過敏さが改善すれば、症状が大きく軽快しうるというポジティブなスタンスです。
- ノセボ効果の配慮: 医師から「治らない」と強く言われることで絶望感が強まり、痛みの感じ方が悪化してしまうこと(ノセボ効果)を避けたい、という治療上の配慮も含まれています。
「治る/治らない」は白黒ではなく、「どこまで良くなれば、その人にとって十分か」という価値観も絡むため、医師によって表現が変わりやすいポイントだと理解しておくと混乱が少なくなります。
【データで見る予後】実際にどれくらいの人が良くなる?
「一生車椅子になるのでは」「死ぬ病気ではないのか」と不安になるかもしれませんが、公的資料のデータを見ると、必ずしも悲観的な病気ではないことが分かります。
- 生命予後: 一般に生命予後は良好で、この病気そのものが直接の死因となることは少ないとされています。(参考:日本リウマチ財団 1)
- 若年性(子供)のケース: 若年性線維筋痛症では、比較的経過が良好で、大部分が1〜2年以内に回復すると報告されています。(参考:日本リウマチ財団 1)
- 成人のケース: 日本の報告では、約84%の患者さんが入院ではなく外来通院のみで管理されており、日常生活を送りながら治療を続けているとされています。(参考:日本リウマチ財団 1)
「完全に痛みがゼロになる」ことを保証するデータはありませんが、「痛みとうまく付き合いながら生活できている人が多数いる」という点は、公的な資料からも読み取れます。
線維筋痛症が「良くなっていく」3つのパターンと条件
「治る」か「治らない」かの0か100かではなく、ご自身がどの回復パターンを目指せるかをイメージしてみましょう。
ここで述べるのは、ガイドラインに書かれた分類というより、臨床現場でよく見られる経過イメージです。
パターンA:症状が大きく軽快するケース
発症からの期間が比較的短い場合や、強いストレス要因(職場環境や家庭問題など)が明確で、それが軽減・解決された場合に、痛みや疲労感が大きく軽くなる方もいます。
ただし、こうした経過は人によって大きく異なり、すべての方に当てはまるわけではありません。
パターンB:痛みは残るが、日常生活に支障が少ない(寛解)
多くの専門家が現実的な治療目標として想定しているのが、このパターンです。
薬物療法などで痛みの強さが発症初期より明らかに下がり、睡眠や運動療法を組み合わせることで、「痛みはあるが、仕事や家事・趣味が続けられる」状態を維持することを目指します。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
パターンC:一進一退だが、悪化は防げている
天候やストレスで「良い日・悪い日」の波はあるものの、自分なりの対処法(コーピング)を身につけ、寝たきりになるような最悪の状態は避けられている段階です。
「完全に痛みをゼロにする」よりも、「悪化の谷を浅くし、少しずつ『できること』を増やしていく」イメージを持つことが大切です。
治療の全体像|「痛みの悪循環」を断ち切るロードマップ

線維筋痛症の治療は、薬だけで完結するものではありません。
ガイドラインでも、薬物療法に加えて、運動療法や心理社会的アプローチなどを組み合わせる多角的な治療が推奨されています。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
ステップ1:薬物療法で「痛みのボリューム」を下げる
最初の目標は、脳が感じている過剰な痛みの「ボリューム」を可能な範囲で下げることです。
一般的な鎮痛剤(NSAIDsなど)は十分な効果が得られないことも多く、神経障害性疼痛に用いられる薬剤や抗うつ薬が使用されます。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
- 主な治療薬の例: プレガバリン(リリカ)、デュロキセチン(サインバルタ)など。これらは日本でも線維筋痛症の痛みに対して保険適用となっており、痛みの感じ方に関わる神経の過敏さを和らげる目的で用いられます。(参考:東京都保健医療局 2)
薬はあくまで「痛みのボリュームを下げる手段」のひとつであり、副作用や効果のバランスを見ながら、主治医と相談して調整していくことが大切です。
ステップ2:睡眠の質を高めて「脳を休ませる」
「痛くて眠れない」→「睡眠不足で脳が過敏になる」→「さらに痛みが増す」という悪循環は、必ず断ち切る必要があります。
ガイドラインでも、睡眠障害への対応は治療上の重要なポイントとされています。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
- 就寝・起床時間をなるべく一定に保つ
- 寝る前のスマホやカフェインを控える
- 痛みで夜間に何度も目が覚める場合は、その状況を主治医に具体的に伝える
などの睡眠衛生の工夫が基本になります。
症状によっては、睡眠薬や抗うつ薬などを医師の判断で併用し、睡眠の質を整える治療が行われることもありますが、自己判断で市販薬を増やすことは避け、必ず専門医と相談しながら行ってください。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
ステップ3:運動療法で「痛みに強い体」を作る
ガイドラインでは、軽めの有酸素運動などの運動療法が、線維筋痛症の痛みやQOL改善に有用であるとされています。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
「痛いから安静にする」ことは、急性のけがなど一部の状況では必要ですが、線維筋痛症のような慢性の痛みに対して長期間続けると、筋力が落ち、少しの動きでも痛みを感じやすくなる悪循環に陥りやすくなります。(参考:日本リウマチ財団 1)
- 推奨される運動の例: ウォーキング、ストレッチ、ヨガ、水中運動などの「軽負荷の有酸素運動」。
自分の体調に合わせて、少しずつ時間や回数を増やし、「動いても大丈夫だった」という成功体験を積み上げていくことが重要です。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
【自分でできること】食事・生活で痛みを減らす工夫
病院での治療に加え、日々の生活の中でできる工夫も、全体としての調子を整える助けになります。
ただし、「これさえ食べれば治る」といった特効的な方法は、現時点で確立していません。
食事と腸内環境:「線維筋痛症にヨーグルト」は有効?
「線維筋痛症 ヨーグルト」といった検索が多く見られますが、線維筋痛症そのものに対して、ヨーグルトなど特定の食品が有効であるとする十分なエビデンスは、公的資料には示されていません。
一方で、腸内環境が全身の健康や精神的なコンディションに影響を与えうることは、さまざまな研究で指摘されています。
線維筋痛症に特化した効果をうたうのではなく、体調管理の一環として、発酵食品や野菜などを含むバランスの良い食事を心がける程度にとどめて考えるのが安全です。
食べてはいけないものはある?(糖質・アルコールなど)
現時点で、「この食材を食べると線維筋痛症が悪化する」と断定できるような食品は、公的な一次情報からは明らかになっていません。
ただし、糖分やアルコールの過剰摂取が体重増加や睡眠の質の悪化につながることはよく知られており、全身の健康維持という観点から、摂りすぎを控えるのが無難です。
認知行動療法的なアプローチ(痛み日記・コーピング)
ガイドラインでは、薬や運動だけでなく、認知行動療法(CBT)などの心理社会的介入も重要とされています。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
- 痛み日記: 「何をした時に痛みが強まるか/少し楽になるか」を記録し、自分の傾向を客観的に把握する。
- コーピングの工夫: つらい時に「横になる」「音楽を聴く」「ぬるめのお風呂に入る」など、自分に合った対処法の「引き出し」を増やしておく。
こうした取り組みは、痛みとの距離感を少し離し、「痛みと共存しながら生活を整える」ためのスキルとして役立ちます。
先進的な治療(再生医療・TMS)をどう考えるか?
標準的な治療を行っても症状が十分に改善しない場合、「再生医療」や「TMS(経頭蓋磁気刺激療法)」といった新しい選択肢を目にすることがあります。
現時点での位置づけ
一部の医療機関では、幹細胞を用いた再生医療やTMSにより、神経回路の機能回復や痛みの軽減を目指す試みが行われています。
しかし、公的なガイドラインや日本の公的機関の資料では、これらは標準治療として位置づけられておらず、十分なエビデンスの蓄積途上にあるというのが現状です。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
メリット・デメリットと費用の現実
- 潜在的なメリット: 標準治療でなかなか効果が出ない場合に、新たな選択肢になり得る可能性はあります。
- デメリット: 多くが保険適用外(自由診療)で高額になりやすく、長期的な有効性・安全性についても、ガイドラインで推奨されるレベルのエビデンスはまだ十分とは言えません。
まずは保険診療内の治療をしっかり行い、その上でどうしても改善が乏しい場合に、リスクと費用を十分理解したうえで選択肢として検討する、という姿勢が現実的です。
専門医の探し方と受診のタイミング
線維筋痛症は「誰に診てもらうか」が非常に重要です。
診断・治療経験の豊富な医師ほど、薬物療法・運動療法・心理社会的支援をバランスよく組み立てやすくなります。
何科に行けばいい?
- リウマチ科・膠原病内科: 関節リウマチなど他のリウマチ性疾患との鑑別を含め、診断・評価を担当することが多い診療科です。(参考:日本リウマチ財団 1)
- ペインクリニック: 「痛み」のコントロールに特化した診療科で、薬物療法や神経ブロックなどを組み合わせて痛みの軽減を図ります。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
- 精神科・心療内科: 睡眠障害やうつ状態、不安が強い場合に併診されることがあり、精神症状への治療が痛みの感じ方の改善にもつながることがあります。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
専門医が見つからない時の「紹介状」の活用法
近隣に線維筋痛症に詳しい医師がいない場合、かかりつけの整形外科や内科で、線維筋痛症を扱うリウマチ科・膠原病内科などの専門外来がある医療機関への紹介状を書いてもらうのがスムーズです。
日本線維筋痛症学会などが公表している専門医リストや、難病情報センター等の情報も参考にしながら、主治医に相談してみるとよいでしょう。
家族や職場に痛みを理解してもらうために
この病気は検査値の異常が目立たないことも多く、「見た目は元気そう」に見えるため、周囲の理解が得られず苦しむ方が少なくありません。
口頭で説明するのが難しい場合は、日本リウマチ財団や自治体、難病情報センターなどが公開している患者向け資料を家族や職場に見せることで、「公的機関が情報発信している病気である」ことを共有しやすくなります。(参考:日本リウマチ財団 1)(参考:東京都保健医療局 2)
新たな治療法を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。
日本では線維筋痛症でお悩みの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。
例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
・最新の治療をいち早く受けられる
・専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
・治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。
実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
>>治験ジャパン新規登録はこちら<<線維筋痛症に関するよくある疑問
線維筋痛症に関するよくある疑問とその回答を紹介します。
Q. 線維筋痛症は完治できますか?
A. 現時点では、原因を完全に取り除いて再発もない「完治」を保証できる根治療法は確立していません。(参考:日本リウマチ財団 1)
一方で、適切な薬物療法・運動療法・心理社会的支援などを組み合わせることで、日常生活に大きな支障が出ない程度まで症状を抑えられる方も少なくありません。
このような状態を目指す「寛解」が、現実的な治療目標とされています。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
Q. 痛みがある時は、安静にすべきですか?動くべきですか?
A. 急なけがや炎症が強い時期など、一時的に安静が必要な状況もありますが、線維筋痛症のような慢性的な痛みに対して長期間ほとんど動かない生活を続けると、筋力低下や体力低下により、かえって痛みが増しやすくなります。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
「無理をしてまで動く」のではなく、「体調に合わせて少しずつ動く習慣をつける」ことが推奨されています。
Q. 線維筋痛症に良い食べ物はありますか?
A. 線維筋痛症の治療として、「この食べ物を食べれば症状が改善する」と科学的に証明された特定の食品は、公的資料には示されていません。
腸内環境や全身の健康を整えるという意味で、野菜・果物・発酵食品・良質なタンパク質などをバランスよく摂ることは推奨できますが、「特定の食品で病気そのものが治る」と考えないことが重要です。
まとめ
線維筋痛症は、慢性の痛みと疲労によりADL・QOLが低下しやすく、難治性の病気と位置づけられています。(参考:日本リウマチ財団 1)
それでも、決して「一生治らない絶望的な病気」というわけではありません。
医学的には生命予後はおおむね良好であり、適切な治療とケアを続けることで、症状をコントロールしながら自分らしい生活を取り戻している人も多くいます。(参考:日本リウマチ財団 1)
大切なのは、「痛みがゼロにならないと幸せではない」という考えを少し手放し、「痛みがあっても、できることを少しずつ増やしていく」という方向へシフトすることです。
その心の変化と、薬物療法・運動療法・心理社会的支援を組み合わせた治療が、結果的に痛みの緩和にもつながっていきます。(参考:線維筋痛症診療ガイドライン 2017 3)
まずは一人で抱え込まず、線維筋痛症に詳しい専門医と相談しながら、あなたに合った「薬+睡眠+運動+心理的サポート」の組み合わせを一緒に探していきましょう。
参考資料・文献一覧
1.日本リウマチ財団「線維筋痛症|リウマチに関連する病気」
https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/illness/fm/
2.東京都保健医療局「線維筋痛症」
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kenkou/nanbyo/portal/shikkan/joho/disease02
3.線維筋痛症診療ガイドライン 2017
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