「潰瘍性大腸炎といえば下痢」というイメージが強いかもしれません。
しかし、実際には「便が出ない」「出そうで出ない」といった、便秘に似た症状で悩む方も少なくありません。
これまでの常識と異なる症状が現れると、ご自身の状態がどうなっているのか、不安に感じるのは自然なことです。
この症状は、単なる便秘ではなく「しぶり腹」と呼ばれる潰瘍性大腸炎に特有の状態である可能性も考えられます。
この記事では、潰瘍性大腸炎でなぜ便が出ない症状が起こるのか、その背後にあるメカニズムを詳しく解説します。
あわせて、ご自身でできる対処法や、医療機関を受診すべきタイミングの目安についても具体的に説明します。
この記事を読むことでご自身の症状への理解が深まり、適切な次の一歩を踏み出す一助となれば幸いです。
ただし、最終的な判断はご自身で行わず、必ず専門の医療機関へご相談ください。
※この記事は疾患啓発を目的としています。
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潰瘍性大腸炎と便秘:意外な関係性
潰瘍性大腸炎の症状は、下痢だけに限られるわけではありません。むしろ、便が出にくいという悩みを抱えるケースも存在します。
「下痢」だけではない、便が出にくい症状の実態
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こる病気です。炎症が起こる場所や範囲によって、症状の現れ方は大きく異なります。
一般的には下痢や血便が主な症状として知られていますが、炎症が特定の場所に限局すると、便秘や残便感といった正反対とも思える症状が前面に出ることがあります。
活動性が低い時期は便秘傾向になることも
特に、病気の活動性が比較的低い時期や、治療によって炎症がある程度コントロールされている状態では、下痢ではなく便秘傾向になることも珍しくありません(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1)。
直腸炎型が引き起こす便秘・残便感
潰瘍性大腸炎の中でも、炎症が肛門に近い「直腸」に限定されている「直腸炎型」の場合、便秘症状を訴える方が多い傾向にあります。これは、直腸の炎症が便の正常な排出を妨げるために起こると考えられます。
なお、潰瘍性大腸炎は病変の範囲によって、炎症が直腸だけの「直腸炎型」、直腸から下行結腸までの「左側大腸炎型」、横行結腸より口側にまで広がる「全大腸炎型」に分類されます(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1)。
便が直腸まで下りてきても、炎症による刺激や腸管の動きの不調和によって、スムーズに体外へ押し出すことが困難になるのです。
その結果、硬い便が溜まって便秘になったり、排便後も便が残っているような不快な感覚(残便感)が続いたりします。
なぜ便秘症状は見過ごされやすいのか
潰瘍性大腸炎における便秘は、いくつかの理由から見過ごされやすい問題です。「潰瘍性大腸炎=下痢」という先入観が、患者さん自身だけでなく、医療者側にも存在することが一因です。
そのため、便秘の訴えが疾患の症状としてではなく、一般的な便秘症として捉えられてしまうことがあります。
また、患者さん自身も「下痢よりはましだ」と考え、主治医に伝えそびれてしまうケースもあるでしょう。
便秘は病状変化のサインかもしれない
しかし、この便秘症状は病状の変化を示す重要なサインである可能性があり、注意が必要です(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1)。
便が出ないメカニズムを解明:しぶり腹と便秘の正体
では、具体的にどのようなメカニズムで「便が出ない」状態が引き起こされるのでしょうか。その鍵を握るのが「しぶり腹」と、炎症が引き起こす腸の機能不全です。
便意はあるのに出ない「しぶり腹」とは
しぶり腹(テネスムス)とは
「しぶり腹」とは、医学的には「テネスムス」とも呼ばれる症状です。これは、強い便意を頻繁に感じるにもかかわらず、いざトイレに行っても便がほとんど、あるいは全く出ない状態を指します。
何度もトイレに駆け込むものの、すっきりとした排便感が得られず、強い残便感だけが残ります。
これは単なる便秘とは異なり、直腸の炎症が直接的な原因となって引き起こされる、潰瘍性大腸炎に特徴的な症状の一つです(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1)。
腸の炎症が便の通過を妨げる理由
便が出にくくなる直接的な原因は、大腸、特に直腸の粘膜に生じている炎症にあります。
炎症が起きている直腸の粘膜は非常に過敏になっています。そのため、少量の便やガスが直腸に到達しただけでも、脳は「便が溜まっている」と誤って認識し、強い便意のサインを送ってしまうと考えられます。これが、しぶり腹の正体です。
さらに、炎症が長引くと腸管がむくみ、便がスムーズに通りにくくなることもあります。こうなると、物理的に便が通りにくくなり、便秘が悪化する原因にもなります。
腸内に溜まるガスが便秘を悪化させる可能性
潰瘍性大腸炎では、腸内細菌のバランスが崩れやすい状態にあると考えられています。その結果、腸内で発酵が起こり、ガスが発生しやすくなることがあります。
溜まったガスは腸を内側から圧迫し、腹部膨満感(おなかの張り)を引き起こします。この張りが、さらに便の通過を妨げ、便秘を悪化させるという悪循環につながることも少なくありません。
残便感が続くことへの身体的・精神的影響
常に便が残っているような不快感が続くことは、身体的な苦痛だけでなく、精神的にも大きな負担となります。
外出先で急にトイレに行きたくなるのではないかという不安、トイレの時間が長引くことへの焦り、すっきりしないことによるストレスは、QOL(生活の質)を著しく低下させます。この精神的なストレスが、さらに腸の症状を悪化させる一因となることも指摘されています。
便が出ない症状、どう判断すべき?受診の目安と注意点
便が出ない状態が続くとき、どのように考え、行動すればよいのでしょうか。自己判断は避け、専門医に相談するための目安を知っておくことが重要です。
何日排便がなかったら危険信号?
「何日排便がなければ危険」という明確な基準は一概には言えません。普段の排便習慣には個人差があるためです。
速やかに受診すべき目安
一つの目安として、ご自身のいつもの排便リズムと比べて明らかに間隔が長くなっている場合や、3日以上排便がない状態が続く場合は注意が必要です。特に、便が出ないことに加えて、強い腹痛、吐き気、発熱などの症状を伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1)。
潰瘍性大腸炎悪化のサインとしての便秘症状
潰瘍性大腸炎の患者さんにとって、下痢から便秘への変化、あるいは急な便秘症状の出現は、病状が悪化しているサインである可能性があります。
炎症が強まることで腸管の動きが著しく低下したり、腸がむくんで便が通りにくくなったりしているのかもしれません。
特に、これまで下痢傾向だった方が急に便秘になった場合は、疾患の活動性が高まっていることを疑い、自己判断せず主治医に相談することが大切です(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1)。
自己判断は避け、専門医へ相談する重要性
便秘だからといって、市販の便秘薬を自己判断で使用することは避けてください。特に腸を刺激するタイプの便秘薬を使う場合は、まず必ずかかりつけの医師に相談しましょう。
まずは専門医に相談を
便が出ない症状の裏には、病状の変化が隠れている可能性を常に念頭に置くべきです。ご自身の判断で対処しようとせず、まずはかかりつけの専門医に現在の症状を正確に伝え、指示を仰ぐことが最も安全で確実な方法です(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1)。
普段の便の状態を記録するメリット
日々の排便状況を記録しておくことは、診察時に非常に役立ちます。
こうした情報をメモやアプリで記録しておくと、医師が客観的に病状を把握しやすくなり、より的確な診断と治療方針の決定につながります。面倒に感じるかもしれませんが、ご自身の体調管理のために有効な手段です。
治験を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。日本では潰瘍性大腸炎でお困りの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
- 最新の治療をいち早く受けられることがある
- 専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
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ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
潰瘍性大腸炎による便秘・しぶり腹の具体的な対処法
医師の診断と指導のもと、日常生活でも症状を緩和するためにできることがあります。ここでは、いくつかの具体的な対処法を紹介します。
日常生活で取り入れられる食事と水分摂取の工夫
食事は腸に直接影響を与えるため、内容には注意が必要です。基本は、消化が良く、腸への負担が少ない食事を心がけること。
特に便秘症状がある場合は、水溶性食物繊維(海藻類、熟した果物、大麦など)を適度に取り入れると、便を柔らかくする助けになることがあります。
不溶性食物繊維の摂りすぎに注意
一方で、不溶性食物繊維(ごぼう、きのこ類、豆類など)は、摂りすぎるとかえってお腹の張りを強くすることがあるため、ご自身の体調と相談しながら調整が必要です(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1)。
また、便を柔らかくするためには十分な水分摂取が欠かせません。こまめに水分を補給する習慣をつけましょう。
軽度な運動が腸の働きを助けることも
体調が良い日には、ウォーキングやストレッチなどの軽い運動を取り入れるのがおすすめです。適度な運動は、全身の血行を促進し、腸の蠕動(ぜんどう)運動を活発にする効果が期待できます。
ただし、決して無理は禁物です。腹痛が強いときや体調が優れないときは、運動を控えてゆっくりと休養してください。
症状緩和のための薬物療法と種類
潰瘍性大腸炎による便秘やしぶり腹の根本的な原因は、大腸の「炎症」です。したがって、治療の基本は、この炎症を抑えるための薬物療法となります。
主に使用されるのは、5-ASA製剤、ステロイド、免疫調節薬、生物学的製剤などです。これらの薬で炎症をコントロールし、寛解状態に導くことが、便通異常の改善につながります。
症状や炎症の範囲に応じて、5-ASA製剤やステロイドの坐薬・注腸薬を肛門から投与する局所療法が選択されることもあります(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1, 日本消化器病学会 炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン 2)。
便秘薬の選び方と使用上の注意点
便秘症状が辛い場合、医師の判断で便秘薬が処方されることがあります。その際、よく用いられるのは酸化マグネシウムなどの「浸透圧性下剤」です。これは、腸から水分を引き寄せて便を柔らかくするタイプの薬で、腸への刺激が比較的少ないとされています。
市販の刺激性下剤の自己使用は避ける
繰り返しになりますが、市販の下剤、とりわけ刺激性の強いものを自己判断で使用することは避けてください。必ず医師に相談し、処方された薬を指示された用法・用量で服用しましょう(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1)。
ストレス管理とリラックスが大切な理由
ストレスは自律神経のバランスを乱し、腸の機能を低下させる大きな要因の一つです。潰瘍性大腸炎の症状自体がストレスになることも多く、悪循環に陥りやすい側面があります。
意識的にリラックスできる時間を作ることが大切です。趣味に没頭する、ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる、音楽を聴くなど、ご自身に合った方法で心と体を休ませてあげましょう。
知っておきたい潰瘍性大腸炎の全体像と治療
便秘やしぶり腹という症状を理解すると同時に、潰瘍性大腸炎という病気そのものについて知っておくことも、病気と上手く付き合っていく上で重要です。
便秘以外の主な症状と合併症
潰瘍性大腸炎の主な症状は、下痢や血便、腹痛ですが、その他にも発熱、体重減少、貧血、全身の倦怠感などが現れることがあります。
また、炎症が腸だけでなく、関節、皮膚、目などに及ぶ「腸管外合併症」を引き起こすことも知られています。気になる症状があれば、どんな些細なことでも主治医に相談することが大切です(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1)。
潰瘍性大腸炎の診断プロセスと治療方針
診断は、症状の問診に加えて、血液検査、便検査、そして大腸内視鏡検査によって大腸粘膜の状態を直接観察することで確定します。
治療の目標は、まず薬物療法によって炎症を鎮め、症状のない「寛解」状態に導くこと(寛解導入療法)。そして、その良好な状態をできるだけ長く維持すること(寛解維持療法)です。治療法は、病気の範囲や重症度、患者さんの状態に合わせて選択されます(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1)。
長期的な視点で症状と向き合う生活
潰瘍性大腸炎は、残念ながら現在の医学では完治が難しい病気であり、症状が落ち着いている「寛解期」と、悪化する「再燃期」を繰り返すことが多いのが特徴です。
寛解期でも治療の継続を
そのため、症状がない寛解期であっても、自己判断で薬を中断せず、医師の指示通りに治療を継続することが再燃を防ぐ上で極めて重要になります。病気と長く付き合っていくという視点を持ち、焦らず、根気強く治療に取り組む姿勢が求められます(参考:日本消化器病学会 患者さんとご家族のためのIBDガイド 1)。
まとめ
潰瘍性大腸炎の症状は下痢だけとは限らず、「便が出ない」「便意はあるのに出ない」といった便秘やしぶり腹の症状が現れることも少なくありません。これは主に、炎症が直腸に限局している場合や、炎症そのものが便の通過を妨げていることが原因で起こります。
「下痢よりは良い」と自己判断したり、市販の便秘薬で対処したりすることは、病状の悪化を見逃すことにつながりかねません。
これまでにない便通の異常を感じた場合は、それが潰瘍性大腸炎の活動性が変化しているサインである可能性を考え、速やかに専門医に相談することが何よりも重要です。
日々の便の状態を記録し、医師と正確な情報を共有しながら、適切な治療を受けることで症状の改善は期待できます。一人で悩みを抱え込まず、医療機関や患者会などのサポートも活用しながら、ご自身の体と向き合っていきましょう。
