潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性の炎症や潰瘍ができる病気ですが、その影響は腸だけにとどまりません。病気の活動性が高まると、腸そのものに重篤な状態を引き起こすだけでなく、皮膚や関節、目といった全身のさまざまな場所に症状が現れることがあります。これが「合併症」です。
合併症は、大きく分けて大腸に起こる「腸管合併症」と、大腸以外の全身に起こる「腸管外合併症」の二種類が存在します。これらの合併症について正しく知ることは、ご自身の体調変化にいち早く気づき、適切な対処につなげるために非常に重要です。病気との付き合い方を考える上で、合併症の知識は不可欠なものとなります。
この記事では、潰瘍性大腸炎の合併症について、その種類から具体的な症状、注意すべき悪化のサイン、そして治療法までを網羅的に解説します。合併症に対する不安を少しでも軽減し、日々の体調管理に役立てていただくための情報を提供します。
※この記事は疾患啓発を目的としています。
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潰瘍性大腸炎の合併症とは?
潰瘍性大腸炎の病態と合併症の関連性
潰瘍性大腸炎の基本的な病態は、大腸粘膜で起こる原因不明の慢性的な炎症です。このコントロールされていない炎症が、合併症を引き起こす根本的な要因と考えられています。
炎症が非常に強くなったり、長期間にわたって続いたりすることで、大腸の組織が深く傷つき、さまざまな腸管合併症につながります。また、炎症を引き起こす免疫システムの異常が、大腸だけでなく全身の他の臓器や組織を誤って攻撃してしまうことで、腸管外合併症が発症するとされています(参考:日本消化器病学会IBD診療ガイドライン2020 1)。
腸管合併症と腸管外合併症、二つのタイプを理解する
潰瘍性大腸炎の合併症は、その発生部位によって二つに大別されます。
これら二つのタイプを理解しておくことは、ご自身の体調変化が病気のどの側面に関連しているのかを把握する助けになります。
合併症発症のメカニズム:なぜ全身に症状が現れるのか
なぜ全身に症状が現れるのか
腸の病気である潰瘍性大腸炎が、なぜ全身に影響を及ぼすのでしょうか。その詳細なメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、免疫系の異常が大きく関与していると考えられています。本来、体を守るはずの免疫システムが、何らかの理由で自身の組織を攻撃してしまう自己免疫反応が背景にあります。大腸で過剰に作られた炎症性サイトカイン(免疫細胞が放出する物質)が血流に乗って全身を巡り、他の臓器で炎症を引き起こすという説が有力です。
命に関わる緊急事態も! 潰瘍性大腸炎の腸管合併症
腸管合併症の中には、急速に症状が進行し、命に関わる可能性のあるものも存在します。ここでは、特に注意が必要な腸管合併症について解説します。
大量出血:症状の危険性と緊急時の対応
大量出血の危険サイン
大腸の潰瘍が深くなり、血管が破れることで大量の出血が起こることがあります。便に大量の血液が混じる、あるいは血液そのものが排出されるといった症状が見られます。頻回の下血により貧血が進行し、めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、顔面蒼白などの症状が現れた場合は危険なサインです。このような症状が見られた際は、ただちに医療機関を受診する必要があります。
中毒性巨大結腸症:急速な悪化に注意
これは、大腸の炎症が非常に強くなり、腸管の動きが麻痺してガスが溜まり、大腸が風船のように大きく膨れ上がってしまう状態です。激しい腹痛、腹部の膨満感、38℃以上の高熱、頻脈(脈が速くなること)などが特徴的な症状です。
腸管穿孔(後述)のリスクが極めて高く、生命を脅かす緊急事態であり、迅速な診断と治療が求められます(参考:日本大学医学雑誌 2)。
腸管穿孔:腸に穴が開く重篤な状態
炎症によって腸の壁がもろくなり、穴が開いてしまう合併症です。中毒性巨大結腸症から移行するケースが多く見られます。
腸の内容物が腹腔内に漏れ出すことで、激しい腹痛と共に腹膜炎を引き起こします。腹膜炎になると、お腹全体が硬くなり、高熱や嘔吐、血圧低下といったショック症状を呈することもあります。緊急手術が必要となる、極めて重篤な状態です。
腸管狭窄・閉塞:食事が通らない苦痛と治療選択肢
長期間にわたる炎症が繰り返されると、腸の壁が厚く硬くなり、内腔が狭くなる「狭窄」が起こる場合があります。狭窄が進行すると、便や食べ物の通過が悪くなり、腹痛や嘔吐、腹部の張りといった症状(腸閉塞)を引き起こします。
治療としては、内視鏡を用いて狭窄部を広げるバルーン拡張術や、手術による狭窄部の切除が検討されます。
潰瘍性大腸炎と大腸がん:長期的なリスクと定期検査の重要性
定期的なサーベイランスが鍵
潰瘍性大腸炎を長期間(一般的に発症から7〜8年以上)患っている方は、炎症がない人と比較して大腸がんの発生リスクが高まることが知られています。特に、炎症の範囲が広い全大腸炎の患者さんではそのリスクが上昇します(参考:日本消化器病学会雑誌 3)。そのため、症状が落ち着いている寛解期であっても、定期的に大腸内視鏡検査(サーベイランス)を受け、がんやその前段階である異形成( dysplasia)の早期発見に努めることが非常に重要です。
腸管以外にも影響が及ぶ全身性の腸管外合併症
潰瘍性大腸炎の活動期に連動して現れることが多い腸管外合併症ですが、中には腸の症状とは無関係に発症・悪化するものもあります。
皮膚に現れる症状:結節性紅斑や壊疽性膿皮症など
皮膚の合併症は比較的よく見られます。代表的なものに、すねなどに痛みを伴う赤いしこりができる「結節性紅斑」や、深い潰瘍を形成する「壊疽性膿皮症」があります。これらの皮膚症状は、大腸の炎症活動性と関連して現れることが多いとされています。
関節の痛みと腫れ:関節炎や仙腸関節炎の注意点
手足の大きな関節(膝、足首、肘など)が腫れて痛む「末梢性関節炎」が起こることがあります。これは腸の症状と連動することが多いです。
一方で、背骨や骨盤の関節に炎症が起こる「体軸性関節炎(仙腸関節炎や強直性脊椎炎)」は、腸の症状とは必ずしも連動せず、持続的な腰痛や背中のこわばりを引き起こす場合があります。
目に起こる症状:ぶどう膜炎や上強膜炎を見逃さない
目の合併症も見逃せません。目の充血や痛み、視力低下、まぶしさを感じるなどの症状があれば、「ぶどう膜炎」の可能性があります。また、白目の表面が充血して痛む「上強膜炎」も起こりえます。
目の症状は放置すると視力に影響を及ぼすこともあるため、異常を感じたら速やかに眼科を受診することが大切です。
肝臓・胆道系の合併症:原発性硬化性胆管炎の理解
原発性硬化性胆管炎(PSC)とは
頻度は高くありませんが、重篤な合併症として「原発性硬化性胆管炎(PSC)」があります。これは、肝臓内外の胆管(胆汁の通り道)に炎症が起こり、胆管が狭くなったり詰まったりする病気です。初期は無症状ですが、進行すると皮膚のかゆみや黄疸、疲労感などが現れます。定期的な血液検査で肝機能の数値をチェックすることが早期発見につながります。
その他の腸管外合併症:骨粗鬆症や腎障害、血栓塞栓症など
その他にも、多彩な合併症が報告されています。
治験を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。日本では潰瘍性大腸炎でお困りの方に向け治験が行われています。
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治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
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ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
合併症の悪化サインを見逃さない! 日常生活で意識すること
合併症、特に重篤な腸管合併症は早期発見が何よりも重要です。日々の体調管理の中で、悪化のサインに気づくためのポイントを解説します。
体調変化に注意すべき具体的な兆候リスト
以下の症状は、合併症の始まりや病状悪化のサインである可能性があります。一つでも当てはまる場合は注意が必要です。
定期的な受診と検査が早期発見の鍵となる理由
症状が落ち着いている寛解期であっても、定期的な通院を続けることが合併症の早期発見には不可欠です。定期的な血液検査では、炎症の程度や貧血の有無、肝機能などをチェックできます。
また、長期罹患している場合は、大腸がんのリスクを調べるための定期的な大腸内視鏡検査が極めて重要です。自覚症状がない段階で異常を発見できる可能性が高まります。
「いつもと違う」と感じたら:速やかに医師へ相談するタイミング
「いつもと違う」を大切に
何よりも大切なのは、ご自身の「いつもと違う」という感覚です。症状の種類や程度は人それぞれ異なります。普段の自分の体調を基準として、明らかに異常だと感じる変化があれば、次の受診日まで待たずに、かかりつけの医療機関に連絡し、指示を仰ぐようにしてください。特に、前述した「具体的な兆候リスト」にあるような症状が現れた場合は、ためらわずに速やかな相談が必要です。
合併症と診断されたら?治療と症状管理の選択肢
万が一、合併症が発症した場合でも、さまざまな治療法が存在します。医師と相談しながら、最適な方法を選択していくことになります。
緊急手術が必要となるケースと準備
中毒性巨大結腸症や腸管穿孔、コントロールできない大量出血、薬物療法に反応しない重症例などでは、緊急手術(大腸全摘術など)が必要となることがあります。命を救うための重要な選択肢であり、日頃から主治医と手術の可能性について話し合っておくことも、いざという時の心の準備につながるかもしれません。
薬物療法による合併症の進行抑制と症状緩和
多くの合併症は、原因となっている大腸の炎症を強力に抑えることで改善が期待できます。ステロイド、免疫調節薬、生物学的製剤、JAK阻害薬など、潰瘍性大腸炎そのものの治療を強化することが、合併症の治療にも直結します。
関節炎や皮膚症状など、それぞれの症状に対して対症療法(痛み止めや塗り薬など)が併用されることもあります。
日常生活でできる合併症予防とセルフケアのヒント
予防の基本は寛解の維持
合併症の最大の予防策は、潰瘍性大腸炎自体の活動性をコントロールし、寛解状態を長く維持することです。処方された薬を自己判断で中断せず、継続的に服用することが基本となります。それに加え、栄養バランスの取れた食事、十分な休養、ストレス管理を心がけることも、病状を安定させる上で助けになります。体調が良い時でも暴飲暴食を避け、体に負担の少ない生活を送ることが大切です。
まとめ
潰瘍性大腸炎の合併症は、腸管内にとどまらず、皮膚や関節、目など全身に影響を及ぼす多様な病態があることをご理解いただけたかと思います。大量出血や中毒性巨大結腸症といった緊急を要するものから、QOL(生活の質)に影響を与える関節痛まで、その種類はさまざまです。
最も重要なのは、それぞれの合併症について理解を深め、その悪化のサインを早期に察知することです。定期的な医療機関での診察と検査はもちろんのこと、「いつもと違う」と感じるご自身の体調変化に対する意識的な観察が、重篤な事態を避けるための鍵となります。
合併症に対する不安は尽きないかもしれませんが、知識を持つことで冷静に対処できる場面も増えます。何か気になる症状や不安なことがあれば、決して自己判断せずに専門医に相談し、適切な医療を受けるようにしてください。
