「なんだか最近、足が冷たい」「少し歩くとふくらはぎが痛くなる」といった、足にまつわる些細な不調。年齢のせいだと見過ごしてはいないでしょうか。
もしかすると、その症状は「閉塞性動脈硬化症(へいそくせいどうみゃくこうかしょう)」という、足の血管が詰まる病気のサインかもしれません。
この病気は、放置すると歩行が困難になるだけでなく、最悪の場合、足を切断しなければならない可能性も潜んでいます。だからこそ、初期の段階で異変に気づき、適切な対応をとることが非常に重要です。
この記事では、ご自宅で簡単にできる閉塞性動脈硬化症のセルフチェック方法を詳しく解説します。さらに、もし気になる症状があった場合にどう行動すべきか、そして日々の生活でできる予防・改善策まで、あなたの足の健康を守るための情報を網羅的にお届けします。
ご自身の足の症状は大丈夫だろうか、という不安に寄り添い、その解消の一助となることを目指します。
※この記事は疾患啓発を目的としています。
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閉塞性動脈硬化症とは?足の血管が詰まる病気の基礎知識
まず、閉塞性動脈硬化症がどのような病気なのかを正しく理解することから始めましょう。
足の動脈硬化が引き起こす病態
閉塞性動脈硬化症とは
閉塞性動脈硬化症は、足の動脈が硬くなる「動脈硬化」によって血管の内側が狭くなったり、血の塊(血栓)で詰まったりして、血流が悪くなる病気です。主に骨盤から下の、太ももやふくらはぎ、足先へ血液を送る動脈に起こります(参考:日本循環器学会・日本血管外科学会 末梢動脈疾患ガイドライン2022 1)。
心臓から送り出された血液は、酸素や栄養素を全身に届ける重要な役割を担っています。
しかし、足への血流が滞ると、筋肉や皮膚、神経に必要な酸素や栄養が十分に行き渡らなくなり、冷えやしびれ、痛みといった様々な症状が現れるのです。
なぜ閉塞性動脈硬化症は起こるのか?主なリスク因子
動脈硬化を進行させる要因は、生活習慣と密接に関わっています。閉塞性動脈硬化症の主なリスク因子として、以下のものが挙げられます(参考:日本循環器学会・日本血管外科学会 末梢動脈疾患ガイドライン2022 1)。
特に喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を著しく進行させる最大の危険因子です。また、高血圧や糖尿病などの基礎疾患がある場合、血管へのダメージが蓄積しやすいため、注意深い管理が求められます。
放置するとどうなる?病気の進行と危険性
この病気はゆっくりと進行するため、初期症状に気づきにくいという特徴があります。しかし、適切な治療を受けずに放置してしまうと、症状は着実に悪化していきます。
放置は壊死・切断のリスクに
最初は冷えやしびれ程度だったものが、歩行時の痛みに変わり、やがては安静にしていても痛むようになります。さらに進行すると、足の傷が治らずに潰瘍(かいよう)ができ、最終的には組織が死んでしまう壊死(えし)に至ることもあります。
壊死した範囲が広い場合、残念ながら下肢の切断を選択せざるを得ないケースも少なくありません。早期発見と早期治療が、足の機能を守る上でいかに重要かがわかります(参考:日本循環器学会・日本血管外科学会 末梢動脈疾患ガイドライン2022 1)。
あなたの足は大丈夫?閉塞性動脈硬化症のセルフチェック項目
では、具体的にどのような点を確認すればよいのでしょうか。ご自身の足の状態を観察しながら、以下の項目をチェックしてみてください。
足の冷えやしびれ、感覚の異常に気づく
足の血流が悪くなると、まず現れやすいのが冷えやしびれです。特に、左右の足の温度を比べてみてください。片方の足だけが極端に冷たく感じる場合、その足の血流が低下している可能性があります。
また、足の指先を触ったときの感覚が鈍い、正座の後のようなジンジンとしたしびれが続くといった感覚の異常も注意すべきサインです。
歩くと足が痛む「間欠性跛行」の確認方法
閉塞性動脈硬化症の典型的な症状に「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」があります。これは、一定の距離を歩くと、ふくらはぎや太もも、お尻などに締め付けられるような、あるいは重苦しい痛みが生じ、少し休むと痛みが和らいで再び歩けるようになる、という特徴的な症状です(参考:日本循環器学会・日本血管外科学会 末梢動脈疾患ガイドライン2022 1)。
「どのくらいの距離を歩くと痛みが出るか」「坂道や階段で症状は強くなるか」「休憩すると何分くらいで楽になるか」を意識してみましょう。この症状は、病気の進行度を測る重要な指標となります。
足の皮膚の色や状態、爪の変化を観察する
血流不足は、皮膚や爪にも変化をもたらします。足を高く上げたときに白っぽくなり、下げると赤紫色になるような色の変化はありませんか。
足の指の毛が抜けたり、皮膚が乾燥してカサカサになったりするのも血行不良のサインです。爪が厚く変形し、濁った色になることもあります。
足の甲やくるぶしの脈が触れにくいか確認する
健康な状態であれば、足にも脈を感じることができます。確認しやすい場所は2箇所です(参考:日本循環器学会・日本血管外科学会 末梢動脈疾患ガイドライン2022 1)。
- 足の甲の動脈(足背動脈):足の甲の真ん中あたり、親指と人差し指の骨の間を人差し指と中指で軽く押さえてみてください。
- くるぶしの動脈(後脛骨動脈):内くるぶしのすぐ後ろ(アキレス腱との間)を軽く押さえます。
左右の足で脈の強さを比べてみましょう。片方の脈が極端に弱い、または全く触れない場合は、その先の血流が滞っている可能性があります。
足の傷が治りにくい、潰瘍がある場合の注意点
血流が悪いと、組織の修復に必要な酸素や栄養が届きにくくなるため、靴擦れや水虫、巻き爪といった些細な傷でも治りが遅くなります。
いつまでもジクジクしている、傷の周りが黒ずんできた、といった場合は特に注意が必要です。症状が進行すると、治らない傷が深い潰瘍になることもあります。
【チェックシート】項目に当てはまるか確認してみよう
これまでの内容をリストにまとめました。ご自身の足と照らし合わせてみてください。
当てはまる項目があれば専門医へ
一つでも当てはまる項目があり、特に間欠性跛行の症状が疑われる場合は、自己判断で様子を見ずに、一度専門の医療機関へ相談することをおすすめします。
セルフチェックで気になる症状があったら?次の行動ステップ
セルフチェックで「もしかして…」と不安になったとき、次にどう行動すればよいのかを知っておくことが大切です。
迷わず専門医へ相談すべき理由
閉塞性動脈硬化症は、自然に治ることはありません。むしろ、時間とともに進行していく病気です。
症状が軽いうちに治療を始めれば、薬物療法や運動療法といった体への負担が少ない方法で症状の改善や進行の抑制が期待できます。重症化してからでは治療の選択肢が限られ、より大掛かりな治療が必要になる可能性が高まります。
早期発見・早期治療が、将来にわたって自分の足で歩き続けるための鍵となるのです(参考:日本循環器学会・日本血管外科学会 末梢動脈疾患ガイドライン2022 1)。
何科を受診すべき?適切な医療機関の選び方
足の症状で何科に行けばよいか迷うかもしれません。閉塞性動脈硬化症の診療を専門とするのは、主に以下の診療科です。
まずはかかりつけ医に相談し、専門の医療機関を紹介してもらうのも良い方法です。病院のウェブサイトなどで、下肢の血管疾患や閉塞性動脈硬化症の診療を行っているかを確認してから受診するとスムーズでしょう。
受診時に医師に伝えるべきことのポイント
診察をスムーズに進めるために、ご自身の症状について事前に整理しておくと役立ちます。医師に伝えるべきポイントは以下の通りです。
これらの情報をメモにまとめて持参すると、正確に状況を伝えることができます。
痛くない!閉塞性動脈硬化症の主な検査方法
最初の検査は痛くない「ABI検査」
「血管の検査」と聞くと、痛くて大変なイメージを持つかもしれませんが、最初に行われるのは体に負担の少ない簡単な検査です。代表的なのが「ABI(足関節上腕血圧比)検査」です。
これは、両腕と両足首の血圧を同時に測定し、その比率を計算する検査です。腕の血圧に比べて足首の血圧が低い場合、足の動脈に狭窄や閉塞がある可能性が高いと判断されます。検査はベッドに横になるだけで、痛みもなく5〜10分程度で終わります(参考:日本循環器学会・日本血管外科学会 末梢動脈疾患ガイドライン2022 1)。
この検査で異常が見つかった場合に、超音波(エコー)検査やCT検査といった、より精密な検査に進むのが一般的です。
病気の進行度を知る:閉塞性動脈硬化症のステージ分類
閉塞性動脈硬化症の重症度は、症状によって4つのステージ(I度〜IV度)に分類されます。これは「フォンタン(Fontaine)分類」と呼ばれ、治療方針を決める上での重要な指標となります(参考:日本循環器学会・日本血管外科学会 末梢動脈疾患ガイドライン2022 1)。
I度:冷感・しびれ感の段階
最も初期の段階です。足の冷たさやしびれ、色の変化などが主な症状で、まだ歩行には支障がありません。
この段階では自覚症状がないことも多く、他の病気の検査で偶然発見されるケースもあります。
II度:間欠性跛行の段階
特徴的な症状である「間欠性跛行」が現れるステージです。歩行によって足に痛みが生じ、休息が必要になります。
このステージはさらに、200m以上歩ける「IIa」と、200m未満で痛みが出る「IIb」に細分化されることもあります。日常生活への支障が出始める段階です。
III度:安静時疼痛の段階
病気がさらに進行し、歩いていない時、特に夜間などに横になっているだけでも足に強い痛みを感じるようになります。
血流が著しく悪化している状態で、足を心臓より低い位置に垂らすと痛みが少し和らぐことがあります。睡眠が妨げられるなど、生活の質(QOL)が大きく低下します。
IV度:潰瘍・壊死の段階と緊急性
最も重症なステージ「重症下肢虚血」
最も重症なステージです。血流が極端に不足し、足の指などに治りにくい潰瘍ができたり、組織が黒く変色して壊死したりします。
壊死した部分から細菌感染を起こすと、全身に影響が及ぶ敗血症など、命に関わる状態になる危険性もあります。この段階は「重症下肢虚血(じゅうしょうかしきょけつ)」とも呼ばれ、緊急の治療と下肢の切断を回避するための最大限の努力が必要とされます(参考:日本循環器学会・日本血管外科学会 末梢動脈疾患ガイドライン2022 1)。
治験を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。日本では閉塞性動脈硬化症でお困りの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
- 最新の治療をいち早く受けられることがある
- 専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
- 治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
閉塞性動脈硬化症の予防と改善のために今日からできること
閉塞性動脈硬化症の治療は、医療機関で行うものだけではありません。病気の進行を抑え、症状を改善するためには、日々の生活習慣を見直すことが不可欠です。
生活習慣の改善がカギ:禁煙、食生活、適度な運動
予防と改善の基本は、動脈硬化そのものを進行させないことです。
(参考:日本循環器学会・日本血管外科学会 末梢動脈疾患ガイドライン2022 1)
基礎疾患(高血圧、糖尿病など)の適切な管理
高血圧、糖尿病、脂質異常症といった基礎疾患は、動脈硬化の強力な推進役です。
かかりつけ医の指導のもと、薬物療法や食事療法をきちんと続け、血圧や血糖値、コレステロール値を良好な状態にコントロールすることが、足の血管を守ることに直結します。定期的な通院と検査を怠らないようにしましょう。
足のケアと日常で気をつけたいポイント
血流の悪い足は、非常にデリケートで傷つきやすい状態です。日常的なフットケアが重症化を防ぎます。
よくある質問(FAQ)
動脈硬化によって一度変化してしまった血管を、完全に元の状態に戻すことは困難です。しかし、適切な治療と生活習慣の改善によって、病気の進行を食い止め、血流を改善し、症状を和らげることは十分に可能です。治療の目標は、症状をコントロールし、より良い生活の質を維持することに置かれます。
閉塞性動脈硬化症は主に50代以降に多く見られる病気ですが、若い世代でも発症のリスクはゼロではありません。特に、家族に動脈硬化性の病気を持つ人がいる場合や、若くして糖尿病や高血圧、脂質異常症を発症している場合、また喫煙習慣がある場合は、年齢に関わらず注意が必要です。
医師の許可があれば、ウォーキングが最も推奨される運動療法です。痛みが出る手前で休憩し、痛みが引いたらまた歩く、というサイクルを繰り返します。これにより、血流を補う新しい血管の発達が期待できます。ただし、自己判断で過度な運動を行うのは危険な場合もあるため、必ず専門医に相談してから開始してください。
日々の血圧測定や、糖尿病の方は血糖値の自己測定を行うことが、基礎疾患の管理に繋がり、結果的に閉塞性動脈硬化症の予防・改善に役立ちます。また、毎日足を観察する「フットケア」を習慣にし、小さな傷や色の変化など、わずかな異変も見逃さないようにすることが大切です。
まとめ
閉塞性動脈硬化症は、足からのSOSサインを見逃さず、早期に発見し、適切な治療を開始することが何よりも重要な病気です。足の冷えやしびれ、歩行時の痛みといった症状は、決して年齢のせいと片付けずに、血管の健康状態を示すバロメーターとして捉える必要があります。
気になるサインがあれば迷わず受診を
この記事でご紹介したセルフチェック項目を定期的に確認し、一つでも気になるサインがあれば、どうか迷わずに専門の医療機関を受診してください。病気の進行度を正しく理解し、禁煙や食事の見直し、適度な運動といった生活習慣の改善に取り組むことが、あなたの足を守り、これからも自分の足で歩き続ける未来へと繋がっていきます。
