「肝機能の異常」を指摘され、「どうすれば治るのだろう…」「このまま悪化したらどうしよう…」と不安を抱えている方は少なくありません。
沈黙の臓器と言われる肝臓だからこそ、心配は尽きないことでしょう。
しかし、肝臓は非常に再生能力が高い臓器であり、原因に応じた適切な対策を講じることで、その機能は十分に回復する可能性があります。
この記事では、
- 肝機能障害が本当に治るのかという疑問への明確な回答
- 原因別に「何をすべきか」という具体的な対処法
- 改善までの期間の目安と再発させないための知識
上記3点を中心に分かりやすく解説します。
肝機能障害は治る可能性がある
健康診断などで肝機能の異常を指摘されると、すぐに「治らない病気なのでは?」と深刻に考えてしまうかもしれません。
しかし、まず知っておいていただきたいのは、肝機能障害は多くの場合、改善・回復が可能であるということです。
肝臓は再生能力が高い
肝臓はダメージを受けても自らを修復し、再生する非常に強い力を持っています(参考:日本肝臓学会 1)。
例えば、一部を切除する手術を行っても、健康な肝臓であれば数ヶ月で元の大きさに戻るほどです。
この驚くべき自己修復力があるからこそ、肝機能障害の原因となっている負担を取り除き、肝臓を休ませてあげることで、機能の回復が期待できるのです。
「治る」の定義とは?数値の正常化から肝臓の健康まで
治療における一つのゴールは、血液検査の数値を正常範囲内に戻すことです。
具体的には、以下の数値を基準値内に安定させることを目指します。
- AST (GOT): 5~40 U/L
- ALT (GPT): 5~40 U/L
- γ-GTP: 男性 10~50 U/L、女性 9~32 U/L (※基準値は検査機関により多少異なります)
これらの数値が改善し、安定することは、肝臓の炎症やダメージが治まっている証拠です。
放置は危険!肝硬変や肝がんへ進行するリスクも
「再生能力が高いなら大丈夫」と楽観視し、肝臓に負担をかけ続ける生活を送ることは非常に危険です。
再生能力には限界があり、長期にわたるダメージは肝臓を硬く変化させ、再生できない肝硬変(かんこうへん)や、命に関わる肝がんへと進行するリスクを高めます(参考:日本肝臓学会 2)。
手遅れになる前に、早期に原因を特定し、適切な対策を始めることが何よりも重要です。
原因別の特徴と治し方の方向性
肝機能障害を治すための第一歩は、ご自身の原因を正しく知ることです。
原因によって、とるべきアプローチは大きく異なります。
最も多い「アルコール性肝障害」
- 特徴: 長期間の過度な飲酒が原因で、特にγ-GTPの数値が高くなりやすい。
- 治し方の基本: まずは「禁酒・節酒」が絶対条件です。原因であるアルコールを断つことで、肝臓の回復が始まります(参考:厚生労働省 3)。
お酒を飲まない人もなる「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)」
- 特徴: 食べ過ぎや運動不足による肥満、糖尿病、脂質異常症などが背景にあります。
- 治し方の基本: 食事療法と運動療法が治療の中心です。内臓脂肪を減らし、体重をコントロールすることが直接的な改善に繋がります。
B型・C型などの「ウイルス性肝炎」
- 特徴: B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染により、肝臓に持続的な炎症が起こります。
- 治し方の基本: 抗ウイルス薬による専門的治療が必要です。ウイルスの活動を抑え込むことで、肝機能の悪化を防ぎます。
薬やサプリが原因の「薬剤性肝障害」とその他のケース
- 特徴: 特定の医薬品や漢方、サプリメントなどが原因で肝臓にダメージが及ぶことがあります(参考:厚生労働省 4)。
- 治し方の基本: 原因となっている薬剤の中止と医師への相談が必須です。自己判断で服用を続けないでください。
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肝機能障害を治すには?今日から始められるセルフケア
専門的な治療が必要な場合もありますが、多くの場合、生活習慣の見直しが肝機能回復の鍵を握ります。
ここでは、今日からすぐに始められるセルフケアを「即効性」と「根本改善」の両面から解説します。
まず取り組むべき3つの習慣
何から手をつければ良いか分からない方は、まず以下の3つを徹底しましょう。
これらは肝臓を休ませるための最も直接的で効果の高い方法です。
- 禁酒・節酒: アルコールが原因の方はもちろん、そうでなくても肝臓の回復期には負担を避けるべきです。まずは2週間の完全な禁酒を目指しましょう。
- 十分な水分摂取: 水分は体内の代謝を助け、老廃物の排出を促します。1日に1.5リットルを目安に、こまめに水を飲みましょう(参考:厚生労働省 5)。
- 質の良い睡眠: 肝臓の修復・再生は、睡眠中も行われます。最低でも6〜7時間の睡眠を確保し、体をしっかり休ませましょう。
<食事療法> 肝臓をいたわる食べ方と栄養素
肝臓の回復には、負担を減らしつつ、再生に必要な栄養をしっかり摂ることが重要です。
肝機能の回復を助ける栄養素:
- 良質なたんぱく質: 肝細胞の再生材料となります。(例: 豆腐、納豆、鶏むね肉、白身魚)
- ビタミン・ミネラル: 肝臓の代謝機能をサポートします。(例: 緑黄色野菜、きのこ類、海藻)(参考:国立がん研究センター 6)
避けるべきもの:
- 高脂肪食: 脂肪の分解は肝臓に大きな負担をかけます。(例: 揚げ物、脂身の多い肉、バター)
- 過剰な糖質: 使い切れなかった糖質は脂肪として肝臓に蓄積されます。(例: 菓子パン、ジュース、お菓子)(参考:大阪医科薬科大学病院 7)
- 鉄分の摂りすぎ: 鉄分が過剰になると肝臓にダメージを与えることがあります。レバーやサプリメントからの過剰摂取には注意が必要です。
具体的な食べ物リスト
- 推奨: 豆腐、青魚(サバ・イワシ)、ブロッコリー、ほうれん草、しじみ
- 注意: インスタント食品、スナック菓子、加工食品
<運動療法> 脂肪肝の改善に効果的な運動とは
特に脂肪肝が原因の場合、運動は非常に有効な治療法です。
- 推奨される運動: ウォーキング、軽いジョギング、水泳などの有酸素運動が効果的です。脂肪を燃焼させ、肝臓への脂肪の蓄積を減らします。
- 頻度と時間の目安: まずは「週3回以上、1回30分程度」を目標に始めましょう。「少し息が弾むけれど、会話はできる」くらいの強度が最適です。
サプリ・漢方・民間療法の効果とリスク
「肝臓に良い」とうたわれるサプリメントや健康食品は数多くありますが、安易な使用には注意が必要です。
- 自己判断でのサプリ摂取の危険性: 良かれと思って摂取したサプリが、かえって肝臓に負担をかける「薬剤性肝障害」の原因となることがあります。使用前には必ず医師や薬剤師に相談してください。
- 危険な民間療法・誤情報に注意:「極端な断食で肝臓をデトックス」「特定の食品だけを大量に食べる」といった科学的根拠のない民間療法は、栄養バランスを崩し、かえって状態を悪化させる危険があります。
医療機関ではどんな治療を行う?専門医による治し方
セルフケアと並行し、必要に応じて医療機関での専門的な治療が行われます。
- 原因疾患に対する根本治療が最優先: ウイルス性肝炎であれば抗ウイルス薬、自己免疫性肝炎であればステロイドや免疫抑制剤など、根本原因を取り除く治療が中心となります。
- 肝臓の炎症を抑え、機能を保護する薬物療法: 肝細胞の炎症を抑え、肝機能を保護・改善するための薬(グリチルリチン製剤、ウルソデオキシコール酸など)が処方されることがあります。
- 進行した場合の治療選択肢: 肝硬変まで進行してしまった場合は、合併症(腹水、黄疸など)に対する治療や、最終的な選択肢として肝移植が検討されることもあります。
肝機能障害が治るまでの期間は?数値改善までの道のり
「いつになったら良くなるのか」は、誰もが抱く疑問です。
改善までの期間は、原因や重症度によって異なりますが、ここでは一般的な目安を示します。
ただし具体的な期間は、個人差による部分が大きい点には注意が必要です。
ステージ別・改善期間の目安
- 軽度(アルコール性肝障害の初期、軽度の脂肪肝など):
生活習慣の改善(禁酒、食事療法など)を徹底することで、1〜3ヶ月で血液検査の数値に明らかな改善が見られるケースが多くあります。 - 中等度(慢性肝炎など):
肝臓に持続的な炎症がある状態です。生活習慣の改善に加え、薬物治療などを併用し、数ヶ月〜1年以上の継続的な治療と管理が必要になります。
改善プロセスの一例
※あくまで一例であり、具体的な期間は個人差による部分が大きい点には注意が必要です。
- 最初の1ヶ月: 禁酒や食事改善を始めると、最も反応が早いγ-GTPの数値が下がり始めます。体のだるさなどが軽減されることもあります。
- 3ヶ月後: 運動習慣が身につき、体重が2〜3kg減少すると、肝臓の脂肪が減り始め、ALT・ASTの数値も改善傾向を示します。
- 半年〜1年後: 良い生活習慣を継続することで、各種数値が基準値内で安定します。この後も油断せず、定期的な検査で状態をチェックしていくことが大切です。
根気強く続けるための心構え
数値は一直線に良くなるわけではなく、停滞したり、少し悪化したりすることもあります。
一喜一憂せず、長期的な視点で根気強く生活改善を続けることが、回復への最も確実な道です。
再発を防ぐための生活管理
一度数値が改善しても、元の不摂生な生活に戻れば、肝機能障害は容易に再発します。
本当のゴールは、健康な状態を維持し続けることです。
改善した生活習慣を継続することが最大の予防策: 「治療」として行っていた食事や運動を、当たり前の「生活習慣」として定着させることが重要です。
定期的な血液検査と腹部エコー検査の重要性: 自覚症状がなくても、年に1〜2回は定期的に検査を受け、肝臓の状態を客観的にチェックしましょう。
新たな治療法を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。
日本では肝機能障害でお悩みの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。
例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
・最新の治療をいち早く受けられる
・専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
・治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。
実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
肝機能の異常を指摘されたらどうする?受診の流れとよくある質問
最後に、実際に異常を指摘された際の具体的な行動と、よくある疑問にお答えします。
まずは何科を受診すべき?
健康診断で異常を指摘された場合、まずはかかりつけ医に相談するか、専門である消化器内科や肝臓内科を受診してください。
よくある質問
Q. 肝機能障害は完全に治りますか?
A. 肝硬変まで進行していなければ、原因を取り除き適切な生活改善を行うことで、数値を正常化させ、肝臓の機能を回復させることは十分に可能です。
Q. 即効性のある治し方はありますか?
A. 魔法のような方法はありませんが、原因がアルコールであれば「禁酒」が最も即効性のある対策です。肝臓への負担を断つことが回復の第一歩です。
Q. 薬だけで治せますか?
A. 薬はあくまで肝臓の働きをサポートするものです。特に生活習慣が原因の場合、食事や運動、禁酒といった根本原因の改善なくして完治は望めません。
Q. どれくらいで数値が下がりますか?
A. 軽度であれば1〜3ヶ月で改善が見られることが多いです。ただし、個人差が大きいため、焦らず治療を続けることが大切です。
Q. お酒を少しなら飲んでも大丈夫?
A. 医師から許可が出るまでは、禁酒を続けるのが原則です。数値が改善した後も、以前のような飲み方をすれば再発のリスクが高まります。適量を守り、休肝日を設けることが大切です。
まとめ
この記事では肝機能障害を治すための具体的な方法を、原因別の対策から改善までの期間、セルフケア、専門治療まで網羅的に解説しました。
- 肝臓は「沈黙の臓器」ですが「回復力のある臓器」です。
- 原因を特定し、今日できるセルフケアから始めましょう。
- 再発防止こそが治療の真のゴールです。
- 一人で抱え込まず、不安なときは専門医に相談してください。
健康診断の結果は、あなたの体が発している大切なサインです。
この記事をきっかけに、ご自身の生活習慣を見直し、健康な肝臓を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。
参考資料・文献一覧
1.日本肝臓学会 https://www.jsh.or.jp/lib/files/citizens/booklet/understanding_liver_disease.pdf
2.日本肝臓学会 https://www.jsh.or.jp/lib/files/citizens/booklet/understanding_liver_disease.pdf
3.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/dl/120329_6.pdf
4.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1i02.pdf
5.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000205776.pdf
6.国立がん研究センター https://www.ncc.go.jp/jp/information/knowledge/liver/004/index.html
7.大阪医科薬科大学病院 https://hospital.ompu.ac.jp/liver_disease/shokuji.html
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