多くの方が日常的に耳にする「肥満」と、少し専門的に聞こえる「肥満症」。この二つの言葉を同じ意味合いで捉えている方も少なくないかもしれません。

しかし、単に「太っている」という見た目の問題だけでなく、医学的には両者の間には健康への影響を左右する、決定的かつ重要な違いが存在します(参考:日本肥満学会 1)。

この記事では、「肥満」と「肥満症」の明確な定義、診断に使われる具体的な基準、そしてなぜ「肥満症」が治療を要する病気として位置づけられるのかを、専門的な情報を基に分かりやすく解説していきます。ご自身の体の状態を正しく理解し、適切な健康管理への一歩を踏み出すための知識として、ぜひお役立てください。

※この記事は疾患啓発を目的としています。

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「肥満」と「肥満症」の基本的な定義

二つの言葉の違いを理解するためには、まずそれぞれの定義を正確に知ることが不可欠です。言葉は似ていますが、その意味するところは大きく異なります。

体脂肪の過剰蓄積を指す「肥満」とは?

「肥満」とは、病名ではありません。これは、単純に体脂肪が正常範囲を超えて、過剰に蓄積した「状態」を指す言葉です。健康への影響、つまり病気の有無は問わず、あくまで体格の判定基準の一つとして用いられます。

「肥満」とは

多くの国で肥満の判定にはBMI(Body Mass Index)という体格指数が使われており、この数値が一定の基準を超えている場合に「肥満」と判定されます(参考:日本肥満学会 1)。

つまり、健康診断などで「肥満です」と指摘されたとしても、それは直ちに「病気である」と告げられたわけではない、という点を理解しておくことが重要です。

治療が必要な病気としての「肥満症」

一方、「肥満症」は、治療の対象となる明確な「病気」です。

これは、前述の「肥満」という状態が原因となって、体に何らかの健康障害がすでに現れている、あるいは将来的に現れるリスクが非常に高いと医学的に判断された場合に用いられる診断名です。

肥満症は治療の対象となる病気

単に体脂肪が多いだけでなく、その過剰な脂肪が体に悪影響を及ぼし、放置すればより深刻な疾患につながる危険性がある。だからこそ、専門的な治療や管理が必要とされるのです(参考:日本肥満学会 1)。

決定的な違いは「健康障害の有無」:診断基準

「肥満」と「肥満症」を分ける最も重要な境界線は、肥満に起因する「健康障害」が存在するかどうか、という点にあります。ここでは、その診断基準をより具体的に見ていきます。

BMI 25以上が「肥満」の判断基準

日本では、日本肥満学会が定めた基準に基づき、BMIが25以上の場合を「肥満」と定義しています(参考:日本肥満学会 1)。BMIは国際的に用いられている体格指数で、以下の計算式で算出できます。

BMI = 体重(kg) ÷ (身長(m) × 身長(m))

例えば、身長170cm(1.7m)、体重75kgの方であれば、75 ÷ (1.7 × 1.7) ≒ 25.95となり、BMIは25を超えているため「肥満」と判定されることになります。ご自身の数値を一度計算してみることをお勧めします。

「肥満症」と診断されるための条件:関連する健康障害とは

「肥満症」と診断されるには、まずBMIが25以上の「肥満」であることが前提条件です。その上で、肥満が原因と考えられる以下のリストにあるような健康障害が一つ以上合併している場合に、初めて「肥満症」という診断が下されます(参考:日本肥満学会 1)。

つまり、「BMI 25以上の肥満」+「関連する健康障害」の二つが揃って、初めて治療対象となる病気と認識されるわけです。

肥満が引き起こす主要な健康障害の具体例

肥満症の診断基準となる健康障害には、さまざまなものがあります。代表的なものをいくつかご紹介します(参考:日本肥満学会 3)。

  • 耐糖能障害:2型糖尿病や、血糖値が高めの状態である境界型糖尿病が含まれます。
  • 脂質異常症:血液中の悪玉コレステロール(LDL)や中性脂肪が多すぎる、または善玉コレステロール(HDL)が少なすぎる状態です。
  • 高血圧:収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上が目安となります。
  • 高尿酸血症・痛風:血液中の尿酸値が高くなることで、関節の激しい痛みを引き起こす痛風発作のリスクが高まります。
  • 心血管疾患:心筋梗塞や狭心症といった冠動脈疾患、心不全などが該当します。
  • 脳血管疾患:脳梗塞や脳出血、一過性脳虚血発作などです。
  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS):睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりします。
  • 脂肪肝:肝臓に脂肪が過剰に蓄積する状態で、特に非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)が問題視されています。
  • 整形外科的疾患:変形性膝関節症や変形性股関節症、腰痛症など、体重の負荷が原因で関節に痛みや変形が生じます。
  • 月経異常・不妊:女性ホルモンのバランスが崩れ、月経周期の乱れや不妊の原因となることがあります。

放置は生命に関わることも

これらの健康障害は、いずれも生活の質を大きく低下させ、放置すれば生命に関わる事態を招く可能性も否定できません。

あなたはどちらに当てはまる?自身の状態をチェックするポイント

ご自身が「肥満」なのか、それとも「肥満症」の可能性があるのかを確認するためには、2つのステップが必要です。

第一に、ご自身のBMIを計算し、25以上であるかどうかを確認します。

第二に、定期的な健康診断の結果を見返し、上記で挙げたような健康障害に関連する項目(血糖値、血圧、コレステロール値など)に異常がないかをチェックすることです。もしBMIが25以上で、かつ健康診断で何らかの異常を指摘されている場合、それは「肥満症」のサインかもしれません。

なぜ「肥満症」は病気なのか?「太っている=自己責任」という誤解を解く

「太っているのは、本人の意思が弱いからだ」「自己管理ができていないだけ」といった考え方が、社会には根強く残っています。しかし、医学的な観点から見ると、特に「肥満症」は単なる自己責任論で片付けられる問題ではありません。

肥満症がもたらす深刻な健康リスクと合併症

肥満症を治療が必要な「病気」と位置づける最大の理由は、それがもたらす健康リスクの深刻さにあります。前述した健康障害は、それぞれが独立した病気であると同時に、互いに悪影響を及ぼし合います。

「死の四重奏」に注意

例えば、肥満に高血圧、脂質異常症、耐糖能障害が加わった状態は「死の四重奏」とも呼ばれ、これらが重なることで動脈硬化が急速に進行し、心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる病気を引き起こすリスクが飛躍的に高まることが知られています(参考:厚生労働省 e-ヘルスネット 4)。

意志の力だけでは難しい?肥満症の医学的背景

肥満症に至る背景には、単なる食べ過ぎや運動不足といった生活習慣だけでなく、非常に複雑な要因が絡み合っています。食欲をコントロールするホルモンのバランスの乱れ、遺伝的な体質、ストレス、睡眠不足、不規則な生活リズム、さらには社会経済的な環境まで、個人の意志だけではコントロールが難しい要素が数多く存在します(参考:日本肥満学会 1)。

肥満症は自己責任ではありません

これらの要因が複雑に絡み合い、体の代謝システムそのものに変調をきたした結果が「肥満症」という病気です。だからこそ、精神論で乗り越えようとするのではなく、医学的な根拠に基づいた専門的なアプローチが必要不可欠となるのです。

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よく似た言葉「メタボリックシンドローム」との関係性

肥満に関連する言葉として、「メタボリックシンドローム(メタボ)」もよく知られています。肥満症とは診断の視点が少し異なりますが、密接な関係にあります。

メタボリックシンドロームの定義と診断基準

メタボは「内臓脂肪の蓄積」に着目

メタボリックシンドロームは、特に「内臓脂肪の蓄積」に着目した概念です。診断の必須項目として、まず内臓脂肪の蓄積の指標となるウエスト周囲径(腹囲)が基準値(男性≧85cm、女性≧90cm)を超えていることが求められます(参考:厚生労働省 e-ヘルスネット 2)。

その上で、以下の3つの項目のうち、2つ以上が当てはまる場合にメタボリックシンドロームと診断されます(参考:厚生労働省 e-ヘルスネット 2)。

  • 高血圧:収縮期血圧≧130mmHg または 拡張期血圧≧85mmHg
  • 高血糖:空腹時血糖値≧110mg/dL
  • 脂質異常:中性脂肪≧150mg/dL または HDLコレステロール<40mg/dL

肥満症とメタボリックシンドロームの密接な関連性

両者は、どちらも過剰な脂肪蓄積が原因で健康に問題が起きている状態を指す点で共通しており、診断される人は重なる場合が多くあります。

ただし、その切り口に違いがあります。メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積を基盤とした動脈硬化性疾患(心筋梗塞や脳卒中など)のハイリスク群を早期に発見することに主眼を置いています。

一方、肥満症はより広く、肥満に起因する健康障害全般(睡眠時無呼吸症候群や関節疾患なども含む)を対象としています。

もし「肥満症」と診断されたら?治療の必要性と選択肢

万が一、健康診断や医療機関で「肥満症」の可能性を指摘された場合、それはご自身の健康と向き合う重要な機会です。決して軽く考えず、適切な対応を取ることが求められます。

治療の目的は健康障害の改善と予防

肥満症治療の最大の目的は、単に体重を減らすことではありません。最も重要なのは、現在起きている健康障害(高血圧や糖尿病など)を改善・コントロールし、将来起こりうる、より深刻な合併症(心筋梗塞や脳卒中)を予防することにあります(参考:日本肥満学会 1)。

まずは3〜5%の減量から

体重の減少は、あくまでその目的を達成するための手段の一つです。目標としては、まず現体重の3〜5%程度の減量でも、多くの健康障害が改善することが医学的に示されています(参考:日本肥満学会 3)。

肥満症の主な治療アプローチ:生活習慣改善から専門的な治療まで

肥満症の治療は、段階的に行われるのが一般的です。

基本となるのは、食事療法、運動療法、そして自身の行動パターンを見直す行動療法の3つです(参考:日本肥満学会 1)。専門家の指導のもと、エネルギー摂取量を適切にコントロールし、定期的な運動を取り入れ、健康的な生活習慣を身につけていくことが治療の根幹となります。

これらの基本的な治療法で十分な効果が得られない場合や、健康障害のリスクが非常に高い場合には、医師の判断のもとで薬物療法が検討されることもあります。さらに、重度の肥満症に対しては、外科的治療が選択肢となるケースも存在します。

専門機関への相談が大切な理由

「ダイエットなら自己流でできる」と考える方もいるかもしれませんが、肥満症の治療は医学的な管理のもとで行うべきです。不適切な食事制限や過度な運動は、かえって健康を害するリスクがあります。

何よりも、背景にある健康障害の状態を正確に評価し、一人ひとりの状態に合わせた安全で効果的な治療計画を立てるためには、専門家の知識が不可欠です。気になる症状や健康診断の結果があれば、まずはかかりつけ医や、肥満症を専門とする内科、内分泌科などの医療機関に相談することから始めましょう。

まとめ

「肥満」と「肥満症」は、似ているようで全く異なる概念です。単なる体格を表す「肥満」に対し、「肥満症」は健康障害を伴い、医学的な治療が必要な病気として明確に区別されています。その決定的な違いは、肥満が原因となる健康障害の有無にあります。

ご自身のBMIと健康診断の結果などを照らし合わせ、もし肥満症の可能性があると感じたなら、それは決して「自己責任」の問題として抱え込むべきではありません。

早期に専門家へ相談し、適切なアドバイスを受けることが、将来の深刻な健康リスクを回避するための確かな一歩です。この記事で得た知識が、あなたの健やかな未来を守るためのきっかけとなることを願っています。

肥満・肥満症に関するよくある疑問

BMIが25未満でも肥満症と診断されることはありますか?

日本における「肥満症」の定義では、BMI 25以上の「肥満」であることが前提条件です。したがって、BMIが25未満の場合、通常は肥満症とは診断されません。ただし、BMIが正常範囲でも内臓脂肪が多い「隠れ肥満(内臓脂肪型肥満)」の可能性はあり、高血圧や糖尿病などの健康障害が見られる場合は注意が必要です。

肥満症の治療にはどのような費用がかかりますか?保険は適用されますか?

肥満症は医学的な診断名がつく「病気」ですので、医師が必要と判断した診察、検査、薬の処方など、治療の大部分には健康保険が適用されます。自己負担額は年齢や所得に応じた割合(通常は1〜3割)となります。ただし、一部の先進的な治療法やサプリメント、自由診療のダイエットプログラムなどは保険適用外となるため、治療を始める前に医療機関へ確認することをお勧めします。

肥満症は子供にも起こりますか?診断基準は大人と同じですか?

はい、子供にも肥満症は起こり、「小児肥満症」と呼ばれます。ただし、診断基準は大人とは異なります。子供は成長過程にあるため、単純なBMIだけでは評価できません。年齢別・性別の肥満度判定曲線などを用いて評価し、大人と同様に肥満に関連する健康障害(脂肪肝、高血圧など)の有無を考慮して総合的に診断されます。

肥満症を防ぐために、日常生活で具体的に何をすれば良いですか?

肥満症の予防には、健康的な生活習慣を継続することが基本です。具体的には、主食・主菜・副菜のそろったバランスの良い食事を心がけ、過度な間食や糖質の多い飲料を避けることが重要です。また、ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動を週に150分程度を目安に定期的に行うこと、十分な睡眠時間を確保すること、ストレスを上手に管理することも予防に繋がります。