「バージャー病は治るのだろうか」。
この病気と診断された方や、そのご家族が抱く切実な問いです。先の見えない不安を感じるのも無理はありません。
結論からお伝えすると、現状ではバージャー病を根本から「完全に治す(完治させる)」ことは難しいとされています。しかし、決して希望を捨てる必要はありません。適切な治療と生活習慣の見直しによって、症状を大幅に改善させ、病気の進行を食い止めることは十分に可能です。そして、QOL(生活の質)を維持・向上させながら、病気と上手に付き合っていく道筋は確かに存在します。
この記事では、バージャー病の完治の現状という厳しい現実から目をそらさず、その上で症状改善の最大の鍵となる「禁煙」の重要性、標準的な治療法から最新の先進医療、さらには日常生活で実践できる工夫や公的な支援制度までを包括的に解説します。
※この記事は疾患啓発を目的としています。
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バージャー病とは?その原因と病態を理解しよう
まずは、バージャー病がどのような病気なのか、その基本を正しく理解することから始めましょう。
バージャー病(閉塞性血栓性血管炎)とはどんな病気か
バージャー病とは
バージャー病は、正式には「閉塞性血栓性血管炎(へいそくせいけっせんせいけっかんえん)」と呼ばれる血管の病気です。主に手や足の末梢にある中小の動脈や静脈に炎症が起こり、その結果、血管の内側に血の塊(血栓)ができて詰まってしまうことで、血流が悪化します(参考:日本循環器学会 血管炎症候群の診療ガイドライン 1)。
この血流障害が、手足のさまざまな症状を引き起こす原因です。日本では厚生労働省の指定難病(指定難病47)に定められています(参考:厚生労働省 指定難病 2)。
なぜ発症するのか?主な原因とリスク因子
バージャー病の発症原因は、まだ完全には解明されていません。しかし、喫煙との間に極めて強い関連性があることが分かっています。患者さんのほとんどが喫煙者であるという事実は、この病気の性質を物語る重要なポイントです(参考:日本循環器学会 血管炎症候群の診療ガイドライン 1)。
タバコに含まれるニコチンなどの有害物質が血管に炎症を引き起こしたり、血管を収縮させたりすることが、発症や悪化の引き金になると考えられています。その他、遺伝的な要因や、自己免疫の異常が関与している可能性も指摘されていますが、現時点では喫煙が最大のリスク因子であることは間違いありません。
どんな症状が現れる?初期症状から進行まで
症状は、血流が悪くなった手足の末端から現れるのが一般的です。
初期には、手足の指先が白くなったり、冷たく感じたり、しびれたりといった症状が見られます。少し歩くとふくらはぎが痛くなり、休むと楽になる「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」も特徴的な症状の一つです。
病気が進行すると、安静にしていても痛みを感じる「安静時疼痛」が現れ、夜も眠れないほどの激しい痛みに悩まされることもあります。
重症化すると切断に至ることも
さらに重症化すると、指先に治りにくい潰瘍ができたり、最悪の場合、組織が死んでしまう壊疽(えそ)に至ることもあり、指や足の切断が必要になるケースも存在します。
診断はどのように行われる?検査方法について
バージャー病の診断は、問診や症状の確認から始まります。医師は手足の色や温度、脈の触れ具合などを詳しく診察します。
そして、診断を確定するため、より専門的な検査が行われます。
これらの検査結果を総合的に判断し、他の血管の病気(閉塞性動脈硬化症など)との違いを見極めた上で診断が下されます(参考:日本循環器学会 血管炎症候群の診療ガイドライン 1)。
バージャー病は「治る」のか?完治の現状と向き合う
さて、本題である「完治」の可能性についてです。この点について、希望と現実の両面を理解することが大切です。
「完治が難しい」と言われる理由
冒頭で述べた通り、現在の医療ではバージャー病を根本的に完治させる方法は確立されていません(参考:厚生労働省 指定難病 2)。
その主な理由は二つあります。一つは、発症の根本的なメカニズムがまだ完全には解明されていないこと。そしてもう一つは、一度炎症によって閉塞してしまった血管を、完全に元の健康な状態に戻すことが非常に難しいという病態の特性にあります。
慢性的に続く炎症と血管の閉塞という性質上、対症療法が中心とならざるを得ないのが現状です。
しかし、症状の改善や進行抑制は十分に可能
「完治は難しい」という事実は、決して「治療法がない」「良くならない」という意味ではありません。ここが非常に重要なポイントです。
適切な治療を継続することで、痛みを和らげ、潰瘍を治癒させ、病気の進行を食い止めることは十分に可能です。治療によって血流が改善すれば、安静時の痛みがなくなり、歩ける距離が延びるなど、日常生活の質(QOL)は大きく向上します。
治療の大きな目標
バージャー病の治療における大きな目標は、完治ではなく、症状をコントロールし、病気の進行を止め、QOLを維持・向上させることにあるのです。
症状改善の鍵は「禁煙」にある理由
バージャー病の治療を語る上で、絶対に避けて通れないのが「禁煙」です。これは数ある治療法の中でも、最も重要で、最も効果的なものとされています。
禁煙がバージャー病の進行を止める最大の治療法
なぜ禁煙がそれほど重要なのでしょうか。喫煙は、バージャー病の根本的な原因である血管の炎症を誘発し、悪化させます。タバコのニコチンは血管を強く収縮させ、血流をさらに悪くする作用を持っています(参考:日本循環器学会 血管炎症候群の診療ガイドライン 1)。
喫煙継続は「火に油」
喫煙を続けることは、例えるなら、火事に油を注ぎ続けるようなものです。どんなに優れた薬を使ったり、高度な手術を受けたりしても、喫煙という最大のリスク因子を取り除かなければ、病状は悪化の一途をたどり、再発のリスクも極めて高くなります。禁煙こそが、この悪循環を断ち切る唯一かつ最大の治療法なのです。
禁煙による具体的な改善効果とは
禁煙を徹底することで、多くの患者さんで劇的な症状の改善が見られます。血管へのダメージが止まることで炎症が落ち着き、血流が徐々に改善していきます。
具体的には、手足の冷感やしびれの緩和、痛みの軽減、潰瘍の治癒促進といった効果が期待できます。発症後に禁煙を始めたことで、病気の進行が止まり、切断を免れたというケースは少なくありません。改善までの期間には個人差がありますが、禁煙は早ければ早いほど効果的です。
禁煙を成功させるためのサポートとヒント
長年の喫煙習慣を断ち切るのは、決して簡単なことではありません。しかし、今は専門家のサポートを受けながら禁煙に取り組める時代です。
禁煙外来では、医師の指導のもと、ニコチンパッチや内服薬といった禁煙補助薬を使いながら、比較的楽に禁煙を進めることができます。健康保険が適用される場合も多いので、まずは専門機関に相談することが成功への近道です。
また、家族や周囲の人の理解と協力も、禁煙を続ける上で大きな支えとなります。
バージャー病の主な治療法とアプローチ
禁煙を大前提とした上で、症状を緩和し、血流を改善させるためのさまざまな治療法が用いられます。
薬物療法:症状緩和と進行抑制を目指す
薬物療法は、治療の基本の一つです。症状や進行度に合わせて、複数の薬剤が組み合わせて使われます。
その他、痛みが強い場合には鎮痛剤が、潰瘍に細菌感染が起きた場合には抗生物質が処方されます(参考:日本循環器学会 血管炎症候群の診療ガイドライン 1)。
血行再建手術:閉塞した血管をバイパスする
薬物療法で十分な効果が得られない場合や、重症化している場合には、外科的な治療が検討されます。その代表がバイパス手術です。
これは、詰まってしまった血管を迂回する新しい血液の通り道(バイパス)を作る手術です。患者さん自身の静脈などを使い、閉塞部分の前後をつなぎ合わせることで、末端への血流を確保します。
ただし、バージャー病は末梢の細い血管に病変が多いため、手術が適応となるケースは限られます。
カテーテル治療:血管を広げる低侵襲な選択肢
近年、注目されているのがカテーテルを用いた血管内治療です。足の付け根などから細い管(カテーテル)を血管内に挿入し、先端についた風船(バルーン)で狭くなった血管を内側から押し広げたり、ステントという金属の筒を留置して血管を支えたりします。
手術に比べて体への負担が少ない低侵襲な治療法であり、重症な虚血肢(血流が極端に悪い状態)の患者さんに対しても有効なケースが増えています。
その他の外科的治療法
上記の治療でもコントロールが難しい激しい痛みに対しては、痛みの信号を伝える交感神経をブロックする「交感神経節ブロック」という治療が行われることがあります(参考:日本循環器学会 血管炎症候群の診療ガイドライン 1)。
最終手段としての切断
そして、あらゆる治療法を尽くしても壊疽が進行し、生命に危険が及ぶ場合には、残念ながら患部を切断する手術が選択されることもあります。
治験を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。日本ではバージャー病でお困りの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
- 最新の治療をいち早く受けられることがある
- 専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
- 治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
最新・先進治療の可能性を探る
標準的な治療法では改善が難しい重症例に対して、新たな治療法の研究開発が進んでいます。これらは、未来への希望の光です。
自己単核球移植:再生医療による血管新生への期待
再生医療の分野から生まれた新しい治療法です。患者さん自身の骨髄液や血液から、血管の元になる細胞(単核球)を取り出し、それを血流の悪い足の筋肉に注射します。
移植された細胞が新しい血管(側副血行路)を作り出すことを促し、血流を再開させるという画期的な治療法です。先進医療として一部の医療機関で実施されており、安静時疼痛や潰瘍の改善に高い効果が報告されています(参考:厚生労働科学研究成果データベース 3)(参考:広島大学病院 4)。
超音波治療:非侵襲で血流改善を目指す
体に負担をかけない非侵襲的な治療法として、低出力の超音波を患部に照射する治療も開発されています。
超音波の振動が血管の内側の細胞を刺激し、血管を新生させる物質を放出させることで、血流の改善を促すと考えられています。この治療法も、痛みの緩和や潰瘍の治癒に効果が期待されており、実用化に向けた研究が進められています。
臨床研究段階にある新たな治療法
その他にも、血管の新生を促す遺伝子を直接投与する遺伝子治療や、血管の炎症を根本から抑える新しい薬剤の開発など、世界中でさまざまな臨床研究が行われています。これらの研究成果が、将来のバージャー病治療を大きく変えるかもしれません。
日常生活でできる症状緩和と進行抑制の工夫
治療と並行して、日々の生活の中で少し工夫をすることも、症状の緩和や進行の抑制につながります。
冷えから手足をどう守る?保温と血行促進のポイント
血流が悪い手足にとって、冷えは大敵です。厚手の靴下や手袋、カイロなどを活用し、常に保温を心がけてください。ぬるめのお湯での入浴や足湯も血行促進に効果的です。
熱いお湯は火傷に注意
ただし、熱いお湯は火傷のリスクがあるため注意が必要です。締め付けの強い衣類や靴は血行を妨げるので避け、ゆったりとしたものを選びましょう。
ケガや感染症の予防がなぜ重要か
血流が悪いと、小さな傷も治りにくく、そこから細菌が感染して潰瘍や壊疽の原因になることがあります。深爪をしない、靴擦れに気をつけるなど、手足にケガをしないよう細心の注意を払うことが重要です。
毎日足を観察し、清潔に保つフットケアを習慣化することで、トラブルの早期発見につながります。
適度な運動と栄養バランスの取れた食事
無理のない範囲でのウォーキングなどの運動は、足の筋肉を使い、血行を良くする効果があります。痛みが出たら無理せず休む、ということを繰り返すのがポイントです。
また、食生活では、抗酸化作用のあるビタミンCやEを多く含む野菜や果物を積極的に摂り、バランスの取れた食事を心がけることが、血管の健康維持に役立ちます。
ストレス管理と心のケア
難病と向き合う生活は、大きな精神的ストレスを伴います。ストレスは血管を収縮させ、症状を悪化させる一因にもなり得ます。
信頼できる医師や家族に不安な気持ちを話したり、趣味やリラックスできる時間を持ったりして、心穏やかに過ごす工夫も大切です。
難病指定されているバージャー病、支援制度を活用しよう
バージャー病は指定難病であるため、さまざまな公的支援を受けることができます。これらの制度を積極的に活用し、経済的・社会的な負担を軽減しましょう。
特定医療費(指定難病)助成制度とは
一定の重症度基準を満たす場合、医療費の自己負担分の一部が助成される制度です。申請には、指定医による診断書(臨床調査個人票)などが必要となります(参考:厚生労働省 指定難病 2)。
手続きについては、お住まいの地域の保健所や市区町村の担当窓口で相談できます。
その他の生活支援制度と相談窓口
症状の程度によっては、身体障害者手帳の交付対象となる場合があります。手帳を取得すると、税金の控除や公共料金の割引など、さまざまな福祉サービスが受けられます。
また、病気によって仕事ができない場合には、傷病手当金などの所得保障制度もあります。地域包括支援センターや保健所は、こうした制度の利用や療養生活全般に関する相談に乗ってくれる身近な窓口です。
難病療養の相談窓口
※難病の療養生活全般については、各都道府県・指定都市に設置された「難病相談支援センター」も、療養・就労・各種制度の相談に対応する身近な窓口です。
患者会やコミュニティの活用
同じ病気を抱える仲間とつながることも、大きな支えになります。患者会では、療養生活に関する情報交換をしたり、悩みを分かち合ったりすることができます。一人で抱え込まず、こうしたコミュニティを活用することも検討してみてください。
バージャー病に関するよくある疑問
最後に、バージャー病に関するよくある疑問にお答えします。
初期症状としては、手足の指先が冷たく感じたり、白っぽくなったり、しびれたりすることが多いです。また、歩行時にふくらはぎなどが痛む「間欠性跛行」も特徴的なサインの一つです。
手足の保温、ケガの予防(特にフットケア)、無理のない範囲での運動、バランスの取れた食事、ストレス管理などが重要です。これらを日々の生活で実践することで、症状の悪化を防ぎ、QOLを維持することにつながります。
バージャー病が直接的に生命を脅かすことは稀であり、余命に大きく影響する病気ではないとされています。ただし、重度の壊疽による感染症などを放置すると危険な状態になる可能性はあるため、適切な治療と管理を続けることが極めて重要です。
患者の多くは20代から40代の喫煙男性ですが、女性が発症することもあります。近年、女性の喫煙率の増加に伴い、女性患者の割合も増える傾向にあります。
現在のところ、明確な遺伝性は認められていません。しかし、家族内で発症する例も報告されており、何らかの遺伝的な素因が関わっている可能性は否定できません。
まとめ
バージャー病は、確かに「完治」が難しい病気です。しかし、この記事で解説してきたように、それは決して諦めを意味するものではありません。
希望を持って病気と向き合う
治療の絶対的な土台である「禁煙」を徹底すれば、病気の進行を食い止め、症状を改善させる道が開けます。その上で、薬物療法、血行再建手術、カテーテル治療、そして自己単核球移植や超音波治療といった先進医療まで、あなたの状態に合わせた多様な治療の選択肢が存在します。
日常生活でのセルフケアを続け、利用できる社会的な支援制度を上手に活用することで、QOLを保ちながら病気と前向きに付き合っていくことは十分に可能です。
もしあなたがバージャー病に関する不安や疑問を抱えているなら、決して一人で悩まず、まずは専門の医師に相談してください。そして、ご自身に合った治療計画を立て、希望を持って一歩ずつ前に進んでいきましょう。
