慢性腎臓病(CKD)のステージ完全ガイド|数値・症状・生活改善まで解説

2025年10月8日

健康診断で「腎機能の低下」や「eGFRの数値が低い」と指摘され、不安な気持ちでこのページを開いた方も多いのではないでしょうか。

「自分の体は今どんな状態なんだろう?」「これからどうなってしまうの?」と、さまざまな疑問が浮かんでいることと思います。

この記事では慢性腎臓病(CKD)のステージについて、分かりやすく解説します。

この記事を読めば、以下のことが明確になります。

  • ご自身がどのステージに当たるのかがわかる「ステージ早見表」
  • ステージごとの症状と、進行を遅らせるために「できること」
  • 多くの方が不安に思う「透析」に関する正しい知識
  • かかりつけ医から腎臓専門医へ相談すべき具体的なタイミング

慢性腎臓病(CKD)の重症度・ステージセルフチェック

慢性腎臓病(CKD)の重症度は、単に一つの数値だけで決まるわけではありません。

一般的に「eGFR」と「尿たんぱく」という指標を組み合わせて、総合的に評価されます(参考:日本腎臓学会CKD診療ガイド 1)。

慢性腎臓病(CKD)のステージは「eGFR」と「尿たんぱく」で決まる

ご自身の健康診断の結果と見比べながら確認してみましょう。

  • eGFR(推算糸球体濾過量)
    意味: 腎臓が血液をどれだけきれいに濾過できているかを示す数値です。

    腎臓の働きの「量」を示し、この数値が低いほど腎機能が低下していることを意味します。

    分類: 腎臓の働き具合によって、G1(正常または高値)からG5(末期腎不全)までの5段階に分けられます。これを「G分類」と呼びます。

  • 尿たんぱく
    意味: 腎臓のフィルター機能が壊れ、本来は体内に留まるはずのたんぱく質が尿に漏れ出ているかを示す指標です。腎臓の「ダメージの質」を示します。

    分類: 尿たんぱくの量に応じて、A1(正常範囲)、A2(軽度)、A3(高度)の3段階に分けられます。これを「A分類」と呼びます。

リスクが一目でわかる慢性腎臓病(CKD)重症度分類

CKDのリスクは、この「G分類(eGFR)」と「A分類(尿たんぱく)」を掛け合わせて判断します。

下の図を見て、ご自身のeGFR値と尿たんぱくの結果がどこに位置するかを確認してください。

緑から赤に進むにつれて、腎不全や心血管疾患で死亡するリスクが高まるとされています(参考:日本腎臓学会CKD診療ガイド 2)。

eGFR区分 (mL/分/1.73㎡) 尿たんぱく区分
A1: 正常 A2: 軽度 A3: 高度
G1: 90以上
G2: 60〜89
G3a: 45〜59
G3b: 30〜44
G4: 15〜29
G5: 15未満

重要なのはたとえeGFR値が比較的良好(G1やG2)でも、尿たんぱくが多ければ(A3)、リスクは高くなるという点です。

逆にeGFR値が低下していても(G3a)、尿たんぱくがなければリスクは「黄」信号に留まります。

ご自身の状態を把握することが、対策の第一歩です。

自分の状態と「次の一歩」を知ろう

あなたのステージが確認できたら、次はそのステージが何を意味し、具体的に何をすべきかを知ることが大切です。

ステージ eGFR値(mL/分/1.73㎡) 主な症状 推奨されるアクション
G1 90以上 ほぼ無症状。ただし尿たんぱく等があれば腎障害は始まっている。 禁煙、肥満解消など生活習慣の改善。年1回の健診を継続。
G2 60〜89 ほぼ無症状。 生活習慣の改善に加え、高血圧・糖尿病など原疾患の管理。
G3a 45〜59 むくみ、貧血、だるさなどが出始めることがある。 かかりつけ医と相談の上、腎臓専門医の受診を検討。食事療法(減塩など)を開始。
G3b 30〜44 G3aの症状がより顕著に。夜間頻尿なども見られる。 腎臓専門医による治療が推奨される。食事療法(たんぱく質制限など)の強化。
G4 15〜29 尿毒症の症状(食欲不振、吐き気、かゆみなど)が出現。 腎臓専門医による治療が必須。腎代替療法(透析・腎移植)についての説明と準備を開始。
G5 15未満 腎不全の状態。放置すれば生命維持が困難に。 腎代替療法(透析・腎移植)の導入。

そもそも慢性腎臓病(CKD)とは?

ここでは慢性腎臓病(CKD)の定義や早期発見の重要性を解説します。

CKDの定義と診断基準

慢性腎臓病(CKD: Chronic Kidney Disease)とは、以下のいずれか、または両方が3ヶ月以上続く状態を指します(参考:日本腎臓学会CKD診療ガイド 3)。

  • 腎障害の存在: 尿たんぱくなどの尿検査異常、画像診断や血液検査、病理所見で腎臓の障害が明らかである。
  • 腎機能の低下: eGFRが60mL/分/1.73㎡未満である。

簡単に言えば、「腎臓に何らかのダメージがある」か、「腎臓の働きが健康な人の60%未満に落ちている」状態が慢性的に続いている病気です。

なぜ早期発見が重要?気づきにくい初期症状と腎臓の役割

腎臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、機能がかなり低下するまで自覚症状がほとんど現れません。

むくみや貧血といった症状が出始めるステージG3の頃には、すでに腎機能は正常の半分近くまで落ち込んでいる場合もあります。

腎臓は単に尿を作るだけでなく、

  • 体内の老廃物を排出する
  • 血圧をコントロールする
  • 血液を作るホルモンを分泌する
  • 体液のバランスやイオンを調整する
  • 骨を丈夫にするビタミンDを活性化する

など、生命維持に不可欠な多くの役割を担っています。

機能が失われると、これらの働きがすべて滞り、全身に深刻な影響が及ぶ可能性があります。

だからこそ、症状がないうちから検査値の小さな変化に気づき、早期に対策を始めることが重要なのです。

日本人に多い背景とリスク因子

日本では成人の約8人に1人がCKDと推計されており、新たな国民病とも言われています(参考:厚生労働省 4)。

その最大の原因は、糖尿病や高血圧といった生活習慣病の増加とされています。

長期間の高血糖や高血圧は、腎臓内の細い血管を傷つけ、フィルター機能を徐々に破壊していきます。

その他、加齢、肥満、喫煙、家族歴などもCKDの重要なリスク因子です。

>>糖尿病の原因は?気になる初期症状からチェック要項まで解説

>>痩せているのに脂質異常症?原因と対策を徹底解説

【ステージ別】慢性腎臓病(CKD)の症状・原因・対策

慢性腎臓病(CKD)のステージ別に症状や対策を解説します。

ステージG1・G2(軽度):自覚症状はないが、腎臓からの危険信号

  • 症状と状態: この段階では自覚症状は全くありません。

    しかし、尿たんぱくが出ている場合、腎臓は何らかのダメージを受けているサインを発しています。

  • やるべきこと: 糖尿病、高血圧、脂質異常症など、腎臓に負担をかける原因疾患の治療が最優先です。

    同時に、減塩、適度な運動、禁煙、適正体重の維持といった生活習慣の改善に取り組みましょう。

    年に一度の定期健診を欠かさず、eGFRと尿たんぱくの推移をチェックすることが大切です。

ステージG3a・G3b(中等度):むくみ・貧血が出始める重要時期

  • 症状と状態: eGFRが60を切ると、腎機能の低下が体に影響を及ぼし始めます。

    老廃物の排出が滞り始めることで、足のむくみ(浮腫)や、貧血による動悸・息切れ、だるさなどを感じる人が出てきます。

    夜間にトイレに起きる回数が増えることもあります。このステージは、その後の進行スピードを左右する非常に重要な時期です。

  • やるべきこと: かかりつけ医と連携し、腎臓専門医への相談を始めるべき段階です。

    治療の基本は、血圧と血糖の厳格な管理です。食事療法も本格的にスタートします。

    特に食塩の制限は血圧管理と腎保護に直結するため、1日6g未満を目標にします(参考:日本腎臓学会CKD診療ガイド 5)。

    ステージG3bからは、たんぱく質やカリウムの制限が検討されることもあります。

    必ず医師や管理栄養士の指導のもとで行いましょう。

ステージG4(高度):専門医との連携が必須

  • 症状と状態: 腎機能が正常の30%未満になると、体内に老廃物や毒素が溜まり、「尿毒症」と呼ばれる様々な症状が現れます。

    食欲不振、吐き気、全身のかゆみ、集中力の低下などが代表的です。

    カリウムが排出できなくなると、不整脈など命に関わる状態を引き起こすリスクも高まります。

  • やるべきこと: このステージでは、腎臓専門医による包括的な管理が不可欠です。

    食事療法はより厳格になり、薬物療法も複雑化します。

    腎機能の低下を緩やかにすると同時に、将来必要になる可能性のある「腎代替療法(透析・腎移植)」についての情報提供を受け、心の準備と具体的な準備(シャント手術など)を開始する時期でもあります。

ステージG5(末期腎不全):腎代替療法(透析・腎移植)の準備段階

  • 症状と状態: 腎機能が15%未満になった状態です。

    自力での老廃物や水分の排出が極めて困難になり、放置すれば生命を維持できません。尿毒症の症状もさらに悪化します。

  • やるべきこと: 自分のライフスタイルに合った腎代替療法を選択し、スムーズに導入できるように準備を進めます。

    血液透析、腹膜透析、腎移植の3つの選択肢があり、それぞれのメリット・デメリットについて医師と十分に話し合い、意思決定をします。

腎臓を守るために今日から始める治療と生活習慣

腎臓を守るために改善すべき生活習慣を解説します。

慢性腎臓病(CKD)ステージ別の食事療法まとめ

食事療法は、CKDの進行を抑えるための最も重要な治療法の一つです(参考:日本腎臓学会CKD診療ガイド 6)。

  • 減塩(全ステージで重要): 1日6g未満が目標です。

    高血圧の改善、尿たんぱくの減少、むくみの解消に繋がり、腎臓への負担を直接的に軽減します。

  • たんぱく質制限(G3b以降で検討): 過剰なたんぱく質は、体内で老廃物となり腎臓に負担をかけます。

    ただし、厳しすぎる制限は栄養失調を招くため、必ず医師や管理栄養士の指導のもと、適正な量を守ることが重要です。

  • カリウム制限(G3b以降で検討): 腎機能が低下するとカリウムが排出されにくくなり、血中のカリウム濃度が上がると危険な不整脈を引き起こすことがあります。

    生野菜や果物、いも類に多く含まれます。

  • リン制限(G4以降で検討): リンの排泄も低下し、骨がもろくなったり、血管の石灰化を進めたりします。

    加工食品や乳製品に多く含まれます。

運動療法のポイントと注意点

ウォーキングなどの有酸素運動は、血圧や血糖のコントロールを助け、心血管疾患の予防にも繋がります。

無理のない範囲で、毎日30分程度続けることが推奨されます。

ただし、体調が悪い時や、医師から運動を制限されている場合は控えましょう。

薬物療法と血圧・血糖の管理

血圧を目標値(診察室血圧130/80mmHg未満など)にコントロールすること、糖尿病がある場合は血糖値を良好に保つことが、腎臓を守るための基本とされています。

降圧薬や血糖降下薬のほか、腎臓を保護する作用のある薬(ARB、ACE阻害薬、SGLT2阻害薬など)が用いられます(参考:米国腎臓財団 7)。

定期検査の重要性と通院頻度の目安

CKDは自覚症状が出にくい病気だからこそ、定期的な血液検査・尿検査で腎機能の状態を客観的に把握し続けることが不可欠です。

通院頻度はステージによって異なり、G1-G2では年1~2回、G3では3~6ヶ月に1回、G4以降は1~2ヶ月に1回が目安とされています。

知っておきたいお金の制度

ステージが進むにつれて通院頻度や薬の種類が増え、医療費も増加する傾向にあります。

特に透析治療には高額な費用がかかりますが、後述する公的制度を利用することで自己負担は大幅に軽減される可能性があります。

利用できる医療費助成制度(高額療養費制度・自立支援医療など)

  • 高額療養費制度:1ヶ月の医療費の自己負担額が上限を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度です。所得によって上限額は異なります。
  • 自立支援医療(更生医療):人工透析や腎移植など、腎不全の治療にかかる医療費の自己負担を軽減する制度です。
  • 特定疾病療養受療証:人工透析が必要になった場合、この証を提示することで1ヶ月の自己負担額が原則1万円(上位所得者は2万円)になります(参考:東京都保健医療局 8)。

栄養指導や生活支援、障害年金について

CKDの食事療法は複雑なため、管理栄養士による栄養指導を保険適用で受けることができます。

また、腎機能の低下が一定の基準に達すると身体障害者手帳が交付され、様々な福祉サービスを受けられるようになります。

さらに、病気によって仕事や生活に支障が出た場合には障害年金を受給できる可能性もあります。

詳しくは病院のソーシャルワーカーや市区町村の窓口にご相談ください。

新たな治療法を試すのも一つの方法

病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。

日本では慢性腎臓病(CKD)でお悩みの方に向け治験が行われています。

治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。

例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。

治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。

・最新の治療をいち早く受けられる
・専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
・治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる

ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。

実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。

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慢性腎臓病(CKD)に関するよくある疑問

慢性腎臓病(CKD)に関するよくある疑問とその回答を紹介します。

Q. eGFRがいくつになったら透析が必要ですか?

A. 一概に「eGFRがいくつになったら」という明確な基準はありません。

一般的にeGFRが10を切り、尿毒症の症状(吐き気、食欲不振など)が強くなったり、心不全やカリウム値の異常など、内科的な管理が困難になったりした場合に総合的に判断されます。

eGFRが15を切るステージG5になると、透析の準備を始めるのが一般的とされています。

Q. 食事制限はステージに関わらず全員必要ですか?

A. 全員が同じ制限を必要とするわけではありません。

どのステージでも「減塩」は基本ですが、「たんぱく質」「カリウム」「リン」の制限は、主にステージG3b以降で、個々の血液検査データを見ながら検討されます。

自己判断で過度な制限を行うと栄養不足になる危険もあるため、必ず医師や管理栄養士に相談してください。

Q. 慢性腎臓病は治りますか?

A. 残念ながら、一度失われた腎機能が完全に元通りに「治る」ことはありません。

しかし、適切な治療と生活習慣の改善によって、病気の進行を大幅に遅らせ、残った腎機能を長く保つことは可能とされます。

治療の目標は「完治」ではなく、「進行を抑制し、生涯にわたって腎臓と上手に付き合っていくこと」です。

Q. 家族に何ができますか?

A. ご家族のサポートは非常に重要です。

まずは病気について正しく理解し、過度に不安を煽らないことが大切です。

食事面では、減塩メニューを一緒に考えたり、調理法を工夫したりする協力が大きな助けになります。

また、定期的な通院への付き添いや、本人の不安を聞いてあげる精神的なサポートも力になります。

まとめ

慢性腎臓病(CKD)は、eGFRと尿たんぱくの2つの指標を組み合わせてステージを正しく理解することから対策が始まります。

ご自身の現在地を知ることで、進むべき道筋が明確になります。

また、いたずらに不安がるのではなく、かかりつけ医や腎臓専門医、管理栄養士といった専門家と相談し、「今できること」を一つひとつ着実に始めることが大切です。

CKDは早期に発見し、早期に対策を始めるほど、その進行を穏やかにすることができます。

この記事が、あなたが前向きな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

参考資料・文献一覧
1.日本腎臓学会CKD診療ガイド2013 https://jsn.or.jp/guideline/pdf/CKD_evidence2013/gainenn.pdf
2.日本腎臓学会CKD診療ガイド2013 https://jsn.or.jp/guideline/pdf/CKD_evidence2013/gainenn.pdf
3.日本腎臓学会CKD診療ガイド2013 https://jsn.or.jp/guideline/pdf/CKD_evidence2013/gainenn.pdf
4.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/jinshikkan/dl/100311-1b_0003.pdf
5.日本腎臓学会CKD診療ガイド https://jsn.or.jp/data/gl2024_ckd_ch08.pdf
6.日本腎臓学会CKD診療ガイド https://jsn.or.jp/data/gl2024_ckd_ch08.pdf
7.米国腎臓財団 https://www.kidney.org/kidney-topics/ace-inhibitors-and-arbs
8.東京都保健医療局 https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kenkou/nanbyo/tokui_taisaku/touseki/touseki_josei

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