知っておきたい身近な薬が出来るまで

2020年7月31日

病気になれば、大半の人が「薬を使って治そう」と考えるでしょう。

薬は非常に身近なものです。
しかし「どこで生まれたか」「どんな技術や知識が受け継がれてきたか」「現在どのようにして作られているのか」など、詳しく知る人はあまり多くはありません。

今回の歴史や、新しい薬ができるまでの流れについてご説明します。きっと薬の見方が変わるでしょう。

薬の歴史

薬の歴史について
薬は、現代を生きる日本人にとって「当たり前にあるもの」と認識されています。薬の歴史や起源などの知識は、専門職や研究に携わる人以外だと、ほとんど知られていないでしょう。

一般人にとっては、謎が多いともいえる「薬」。
いったいどこで生まれ、どのように受け継がれてきたのか、薬の起源・歴史について解説していきます。

薬の起源

薬の起源については諸説ありますが、その歴史はかなり古く、人類の歴史とともに歩んできました。
たとえば、縄文時代に生きた縄文人の住居の跡には、薬として使用されたと思われる植物がたくさん発見されているそうです。草木や花・鉱物・昆虫など、自然界のさまざまなものを集め、どのような効果があるかを試していったと考えられています。[注1]

海外に目を向けてみます。
ヨーロッパにおける薬の起源は、紀元前4000年頃までさかのぼります。当時は東西問わず、植物が盛んに薬として使用されていたようです。メソポタミア文明を作り上げたシュメール人が残したとされる粘土板には、多くの植物名が「薬用」として記載されています。
中国で有名なのは、西暦100年頃に書かれたとされる「伸農本草経(しんのうほんぞうきょう)」です。この薬物古文書によって、西暦100年あたりには既に薬があったと考えられています。[注2]

[注1]中外製薬:くすりの起源は
https://www.chugai-pharm.co.jp/ptn/medicine/history/history001.html
[注2]日本製薬工業協会(製薬協):1.くすりの歴史
http://www.jpma.or.jp/medicine/med_qa/info_qa55/q01.html

日本での薬

日本における薬の歴史は、平安時代までさかのぼります。当時、都の東市には「薬廛(やくてん)」と呼ばれる薬を扱う店があったといわれており、そこで取り扱われていたのは国内の薬だけではなく、インドや宋の国から輸入された薬もあったそうです。
ただこの時代、東市に出入りできたのは上流階級の人間のみだったと考えられています。庶民は薬の代わりに草を薬と信じて飲むか、呪術に頼って病気と闘っていたようです。

鎌倉時代になると、積極的な貿易活動が見え始めたこともあり、宋から茶種や茶の薬用効果に関する知識などが、日本に伝えられるようになりました。また当時の将軍・源実朝から宋との通行の自由を許されていた僧侶が、宋から医術を持ちかえったことをきっかけに、薬草の知識を中心とした医学が広く知れ渡ったと考えられています。

室町時代誕生したのが、中国の「体医局方」よりも有用性が高い「和剤局方」です。
その実用性と汎用性の高さから、薬を安価にしかも大量生産できるようになったと考えられています。
安土桃山時代には、それまで内科分野だけだった薬に対し「南蛮外科」という分野が、キリスト教と共に伝来されます。これにより、擦り傷や切り傷に対して「軟膏を塗る」という概念が生まれました。

そして徳川15代が一時代を築いたとされている江戸時代。
医師としての腕前もあった徳川家康を皮切りに、薬学や売薬業は一気に普及したといわれています。有名な水戸黄門こと水戸光圀公が掲げる印籠は、薬入れです。

近代の薬

近代になると、薬の作り方はより進化します。
それまでは、有効とされていた植物、動物、鉱物の増産に力を入れていましたが、近代になるとそれらに含まれる有効成分のみを抽出し、その成分の研究や科学的な調合に力を入れるようになったそうです。
現代でも用いられる鎮痛剤「モルヒネ」は、近代に生まれた薬のひとつです。1804年にドイツの薬剤師F.W.セルチュルナーが阿片に含まれる有効成分のみを結晶として取り出し、モルヒネを作り出しました。これを機にアスピリンやキニーネ(抗マラリア薬)といった数多くの薬も開発され、現代薬学の基礎として受け継がれています。

以上のことより、薬の起源は諸説あるものの、その目的は昔も今も変わらず、その時代を生きる人々の健康維持増進目的で作られていたことがわかります。

薬が出来るまで

薬ができるまで
薬が病気に対して有効かどうかを調べ、かつ世に出すかどうかは、多くの手順を踏み、長い期間を経ないといけません。昔のように最初から薬の有効性を患者や病人で調べるということはなくなりました。
以下で、薬ができるまでの流れについて解説します。

基礎研究

基礎研究とは、薬を新しく作るきっかけを発見し、可能性を広げることを目的とした作業です。基礎研究初手のほとんどは、薬となるタネ探しから始まります。
具体的に研究者が行うこととして挙げられるのは「患者がどのような症状や苦しみを抱えているのか」を調べることです。薬を使うのは、人間もしくは動物が前提とされています。多くの人の役に立つ薬を作るためにも、対象となる病気を患っている患者の現状把握は欠かせません。

現状把握が済んだあとは、その病気のメカニズムの徹底的な研究が始まります。患者の痛みや苦しみは身体のどの作用が働いてしまうことで起こるのか、病気との関連性を徹底的に研究することで、何に効く薬を開発すれば良いのかが明確になるのです。

ここまで明確にしたあとは、薬の候補となる成分や化合物の選出を行います。
集めた情報をもとにどのような物質を生み出せばよいのか、もしくは新規物質に手を付けるべきなのかを分析して、スクリーニング検査を繰り返し行うのです。検査してきた候補のなかからよりよいものを取捨選択し、次のステップへと移ります。
ここまでの工程で約2~3年以上はかかるといわれています。

非臨床検査

上述したように、現代医学では薬の有効性をいきなり人間で試すことはしません。人工的に育てられた細胞を用いて、薬の候補に関する有効性と安全性を調べます。
薬の成分は、細胞に働きかけるのが原則です。候補となる薬の成分が身体のなかでどのように吸収・分解され、体内の細胞へと散らばっていくのかといった基礎的な情報を把握するには、人工的に作られた細胞でも充分可能なのです。

企業によっては「非臨床検査」と呼ぶところもあれば、「薬効薬理試験」「安全性試験」「物性試験」「薬物動態試験」というように、それぞれの検査ごとに名前を付け、分けて考えているところもあります。行なっていることや目的に大きな違いはありません。すべては患者の役に立つ可能性が高い薬を作るためです。
ちなみにこの非臨床試験の期間は約3〜5年と考えられています。

治験(臨床試験)

薬は、人体に投与した際の有効性と安全性を調べる必要があります。そこで行われるのが臨床試験、すなわち治験です。
治験は臨床試験のひとつで、薬を人に投与した際の具体的なデータを算出するのに特化しています。

基本的に治験は3つの段階に分かれており、それぞれの段階をクリアして初めて次のステップに進めます。
以下はその段階ごとの特徴をまとめた表です。

段階 特徴
第Ⅰ相試験 対象は健康な成人。健康な成人に投与しても「安全性」が保たれているかを試験するのが目的。また薬剤が身体にどのように吸収されて排泄されていくかも確認可能。
第Ⅱ相試験 対象は少人数の患者。投与量や期間、間隔にパターンを持たせそれぞれの条件における効き目や副作用の度合を調べて最適を選び抜くのが目的。
第Ⅲ相試験 対象は大多数の患者。今までより実践に近い形で薬を投与し、有効性と安全性を調べるのが目的。また既存の薬と比較し特化した特徴や有効性が勝っているかどうかも調べる。

これら3つの段階を経て「有効性があり、安全性も保障されていると薬である」と判断されるまでは約3年~7年かかるといわれています。

承認申請・審査

調査や検査の結果に基づき、有効性と安全性が証明された薬は、厚生労働省に対して承認申請を行います。
厚生労働省はその申請を医薬品医療機器総合機構に回し、審査を依頼します。

薬事・食品衛生審議会の審議に回り、最終的には厚生労働大臣の許可を求めます。ここで許可をもらえた薬が、「医薬品」となるのです。
承認申請から審査終了までは約1〜2年かかるといわれれています。

以上のように、どんなに開発がスムーズに進んだとしても、新しい薬ができるまではおよそ9年~17年の年月が必要です。
日々研究機関が、試行錯誤を繰り返しながら薬を開発しているのが伺えます。

薬は人類が病気と戦う手段として試行錯誤の結果生まれた

現在薬は非常に身近な存在ですが、決して「当たり前のもの」ではありません。
人類が古代から病気と戦う手段として試行錯誤を繰り返し、その結果生まれたのが薬です。
現在でも、感染症など数多くの病気に対抗するべく、世界中の研究者が薬の開発を進めています。

【注】
[注1]中外製薬「くすりの起源は」
https://www.chugai-pharm.co.jp/ptn/medicine/history/history001.html
[注2]日本製薬工業協会「1.くすりの歴史」
http://www.jpma.or.jp/medicine/med_qa/info_qa55/q01.html

ここで解決!治験に関するFAQ

治験とはなんですか?
治験とは、『医薬品の製造販売承認申請の際に提出すべき資料のうち臨床試験の試験成績に関する資料の収集を目的とする試験の実施』、つまり、「国から薬としての販売承認を受けるために行う臨床試験」のことです。
治験ボランティアはアルバイト/バイトなのですか?
法的にはアルバイト/バイトではありません。治験ボランティア参加は負担軽減費(謝礼金)の支給がありますが、時間的拘束や、交通費などの負担を軽減する目的でお支払いするもので、治験協力費ともよばれます。
治験って安全ですか?副作用はありませんか?
治験薬は事前に生体への安全性を確認し、問題ないと予想されるものだけが使用され、治験実施についても、国の基準に沿い、参加者の方の安全に配慮した綿密な治験実施計画書に基づいて慎重に進められています。
健康被害が生じた場合は?
治験薬の副作用などにより、何らかの健康被害が生じた場合には、治験薬との因果関係が否定できない場合に限り、治験依頼者(製薬メーカー)から補償を受けることができます。補償の扱いは治験により異なりますので、それぞれの治験説明の際、医師や治験コーディネーターが詳しくお話しします。
都合のいい日程で参加ができますか?
治験の日程は予め決められております。決められた期間内での選択できる場合は、その日程内で調整していただきます。