「甲状腺機能低下症は一度なると治らないのでしょうか?」

もしあなたが医師から甲状腺機能低下症と診断されたなら、このような強い疑問や将来への不安を抱えているかもしれません。

インターネットで検索すると「治らない」「一生、薬が必要」といった情報が目に入り、気持ちが沈んでしまうこともあるでしょう。

しかし、どうか安心してください。

甲状腺機能低下症の多くは、医学的な意味での「完治(臓器が元の状態に戻ること)」は難しいものの、適切な治療と生活管理を続けることで、病気になる前と変わらない健やかな日常生活を送ることが十分に可能です(参考:甲状腺疾患診断ガイドライン2024 1, KOMPAS 2)。

この記事では、甲状腺機能低下症が「治らない」と言われる本当の理由から、具体的な治療法、そして病気と上手に付き合いながらQOL(生活の質)を高めていくための具体的な方法まで、専門的な視点から網羅的に解説します。

「治らない」という言葉の先にある、希望に満ちた未来を描くための一助となれば幸いです。

※この記事は疾患啓発を目的としています。

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甲状腺機能低下症は「治らない」のか?完治の可能性と病態の理解

まず、なぜ甲状腺機能低下症が「治らない」と言われるのか、その理由を正しく理解することが不安を解消する第一歩です。

「治らない」と言われる理由:甲状腺の細胞が一度壊れると元に戻らないメカニズム

甲状腺は、のどぼとけの下にある蝶のような形をした臓器で、体の新陳代謝を活発にする「甲状腺ホルモン」を分泌しています。

甲状腺機能低下症は、この甲状腺ホルモンが何らかの原因で不足してしまう状態です。

その原因の多くは、甲状腺の細胞そのものが破壊されてしまうことにあります。

一度破壊された甲状腺の細胞は、残念ながら現代の医療では再生させることができません。

そのため、甲状腺ホルモンを自力で十分に作り出す機能が元に戻らず、「治らない」という表現が使われるのです(参考:KOMPAS 2)。

完治が難しい代表的な原因疾患:橋本病(慢性甲状腺炎)

甲状腺機能低下症の最も一般的な原因は「橋本病(はしもとびょう)」、正式には「慢性甲状腺炎」と呼ばれる自己免疫疾患です。

自己免疫疾患とは、本来は体を守るはずの免疫システムが異常をきたし、自分自身の組織を攻撃してしまう病気です。

橋本病の場合、免疫システムが甲状腺を異物とみなして攻撃し、慢性的な炎症を引き起こします。

この炎症が長期間続くことで甲状腺の細胞が徐々に破壊され、ホルモンを十分に作れなくなってしまうのです(参考:甲状腺疾患診断ガイドライン2024 1, 京都医療センター 3)。

この免疫システムの異常を根本的に止める治療法はまだ確立されていないため、橋本病が原因の甲状腺機能低下症は完治が難しいとされています。

一時的に治る可能性のあるケース:亜急性甲状腺炎など(鑑別の重要性)

ただし、すべての甲状腺機能低下症が「治らない」わけではありません。

例えば、「亜急性甲状腺炎」という病気では、ウイルス感染などがきっかけで甲状腺に一時的な炎症が起こり、ホルモン分泌が低下することがあります。

しかし、この場合は炎症が治まれば甲状腺の機能も自然に回復することがほとんどです(参考:甲状腺疾患診断ガイドライン2024 1)。

他にも、薬剤の副作用や出産後の一過性のものなど、原因によっては機能が回復するケースもあります。

そのため、自分の症状の原因が何であるかを専門医に正しく診断してもらうことが非常に重要です。

「治らない」ことの意味:生涯にわたる甲状腺ホルモン補充療法の必要性

橋本病などが原因で甲状腺機能低下症と診断された場合、「治らない」という言葉は「病気が進行し続ける」とか「症状が悪化し続ける」という意味ではありません。

ここでの「治らない」は、「不足した甲状腺ホルモンを薬で補い続ける必要がある」という意味合いで使われます。

つまり、適切な治療を継続することで、体内のホルモンバランスを正常に保ち、症状をコントロールしながら健康な人と変わらない生活を送ることが可能だということです(参考:KOMPAS 2)。

甲状腺機能低下症の主な治療法と「治らない」中でも症状を改善する方法

では、具体的にどのような治療を行い、症状をコントロールしていくのでしょうか。

治療の基本と、治療がうまくいかないと感じたときはの原因について解説します。

治療の基本は甲状腺ホルモン補充療法(レボチロキシン)

甲状腺機能低下症の治療は非常にシンプルです。

不足している甲状腺ホルモンを、薬として経口で補う「甲状腺ホルモン補充療法」が基本となります。

一般的には「レボチロキシンナトリウム」(商品名:チラーヂンSなど)という合成甲状腺ホルモン薬が用いられます。

この薬は、もともと体内で作られる甲状腺ホルモンとほぼ同じ構造をしており、安全性が高く、長期間の服用に適しています。

通常、1日1回、朝に服用します(参考:KOMPAS 2)。

治療のゴールは「症状の改善」と「甲状腺機能の正常化」

治療の目標は、大きく分けて2つあります。

  • 自覚症状の改善: だるさ、むくみ、冷え、便秘、気力の低下といったつらい症状をなくすこと(参考:関西医科大学附属病院 4)。
  • 血液検査値の正常化: 血液中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)と甲状腺ホルモン(FT4)の値を正常範囲に維持すること。

医師は定期的に血液検査を行い、これらの値と患者さんの自覚症状を見ながら、薬の量をミリ単位で細かく調整していきます。

適切な量の薬を服用し続ければ、多くの人は症状が改善し、健康な状態を維持できます。

治療を続けても「治らない」「症状が改善しない」と感じる原因

「毎日きちんと薬を飲んでいるのに、なぜか体調がすっきりしない」と感じる方もいます。

その場合、以下のような原因が考えられます。

服薬量の不適切さや服薬アドヒアランス(指示通りの服用)の問題

薬の量が現在の体の状態に合っていない可能性があります。

また、飲み忘れがあったり、薬の吸収を妨げる他の薬(特に鉄剤など)と同時に服用したりしていると、効果が十分に得られないことがあります。

注意点

鉄剤(貧血の薬)などは甲状腺ホルモン薬の吸収を阻害することがあるため、服用時間をずらすなどの工夫が必要です。

服薬は必ず医師の指示通りに行い、水で服用することが基本です(参考:医薬品添付文書 5)。

他の病気や併発症状の可能性(うつ病、貧血など)

甲状腺機能低下症の症状は、うつ病、更年期障害、鉄欠乏性貧血、睡眠時無呼吸症候群など、他の病気の症状と非常によく似ています。

ホルモン値が正常なのに不調が続く場合は、別の原因が隠れている可能性も考えられます。

潜在性甲状腺機能低下症の難しさ

血液検査でTSHの値がわずかに高いものの、FT4は正常範囲内という「潜在性甲状腺機能低下症」の場合、症状が軽微であったり、症状がなかったりします。

この状態では、治療を開始しても効果を実感しにくいことがあります(参考:複十字病院 6)。

ストレスや生活習慣の影響

甲状腺ホルモンの値が安定していても、過度なストレス、睡眠不足、不規則な食生活といった生活習慣の乱れが、だるさや気分の落ち込みといった不調の原因になることも少なくありません。

専門医と連携した治療計画の見直しと調整の重要性

もし症状が改善しないと感じたら、自己判断で薬の量を変更したり、服用を中止したりするのは絶対にやめてください。

必ず主治医に相談し、現状を詳しく伝えましょう。

医師は原因を多角的に探り、薬の量の再調整や、他の病気の可能性を調べるなど、適切な対応をとってくれます。

「治らない」病気と上手に付き合う:日常生活でできること

甲状腺機能低下症は、薬物治療だけでなく、日々のセルフケアも症状の安定に大きく関わります。

ここでは、日常生活で意識したいポイントをご紹介します。

食生活の見直し:バランスの取れた食事とヨード(ヨウ素)摂取の注意点

基本は、特定の食品に偏らず、栄養バランスの取れた食事を心がけることです。

その上で、甲状腺ホルモンの原料となるヨード(ヨウ素)の摂取には少し注意が必要です。

ヨード摂取の注意

ヨードは昆布やわかめなどの海藻類に多く含まれます。不足しても過剰に摂取しても甲状腺の機能に影響を与える可能性があります。

日本の食生活では不足することは稀で、むしろサプリメントや昆布の常食による過剰摂取に注意が必要です。

日常的な食事で味噌汁や海苔を食べる程度であれば問題ありませんが、昆布だしを毎日大量に飲む、根昆布水を飲むといった習慣は避けましょう(参考:京都医療センター 3)。

適度な運動と休息:疲労感やだるさへの対処法

甲状腺機能低下症の症状として、強い疲労感やだるさがあります。

治療によって症状が改善してきても、無理は禁物です。

まずはウォーキングやストレッチなど、軽めの運動から始めてみましょう。

適度な運動は新陳代謝を高め、体力や気力の向上につながります。

また、十分な休息と質の良い睡眠も非常に重要です。

心身を休ませる時間を意識的に作り、規則正しい生活リズムを心がけましょう。

ストレス管理と精神的ケア:心の健康を保つために

「治らない病気」と向き合うことは、精神的な負担になることもあります。

不安や落ち込みを感じたときは、一人で抱え込まないでください。

趣味に没頭する、リラックスできる音楽を聴く、自然の中で過ごすなど、自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。

必要であれば、カウンセリングなど専門家のサポートを受けることも有効な選択肢です。

定期的な検査の重要性:症状の変化を見逃さないために

治療が安定していても、体調の変化や年齢、体重の増減などによって必要な薬の量が変わることがあります。

そのため、医師の指示に従って定期的に血液検査を受け、甲状腺ホルモンの状態をチェックすることが不可欠です。

定期的な検査は、症状の再発を防ぎ、長期的に良好な状態を維持するための鍵となります。

治験を試すのも一つの方法

病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。

日本では甲状腺機能低下症でお困りの方に向け治験が行われています。治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。

  • 最新の治療をいち早く受けられることがある
  • 専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
  • 治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる

ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。

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不安を乗り越え、QOL(生活の質)を高めるためのヒント

病気と診断されたときの不安を乗り越え、自分らしい生活を送るためには、正しい知識と周囲のサポートが力になります。

  • 病気への正しい理解を深める:信頼できる情報源の選び方 インターネット上には様々な情報が溢れていますが、中には不正確なものや不安を煽るだけのものも少なくありません。病気について調べるときは、日本内分泌学会や日本甲状腺学会といった専門機関のウェブサイトや、医療機関が発信する情報を参考にするようにしましょう。
  • 患者会やサポートグループの活用:同じ境遇の人との繋がり 同じ病気を抱える人々と繋がることは、大きな精神的な支えになります。患者会やオンラインのコミュニティでは、治療に関する情報交換をしたり、日々の悩みや不安を共有したりすることができます。一人ではないと感じることは、病気と向き合う勇気を与えてくれるでしょう。
  • 家族や周囲の理解を得るコミュニケーションのコツ 甲状腺機能低下症の症状は、だるさや気力の低下など、外見からは分かりにくいため、「怠けている」と誤解されてしまうことがあります。家族や職場の人には、「こういう病気で、疲れやすい、集中力が続かないといった症状がある」と具体的に伝えることが大切です。病気について説明されたパンフレットなどを見せながら話すと、より理解を得やすくなります。
  • 専門医との良好な関係構築:セカンドオピニオンの考え方 長期にわたる治療では、主治医との信頼関係が非常に重要です。診察の際には、疑問に思ったことや不安なことをメモにまとめて持参し、積極的に質問しましょう。もし、治療方針に納得がいかなかったり、医師とのコミュニケーションがうまくいかないと感じたりした場合は、セカンドオピニオンを求めることもためらう必要はありません。

「不調が治らない」と感じたら:専門医の選び方と受診のタイミング

もしあなたが甲状腺機能低下症を疑っている、あるいは治療中にもかかわらず不調が続いているなら、専門医の受診を検討しましょう。

専門医(内分泌代謝科)を受診するメリット

甲状腺疾患の専門は「内分泌代謝科」です。

専門医は、甲状腺疾患に関する深い知識と豊富な診療経験を持っています。

症状や血液検査のわずかな変化から病状を的確に判断し、よりきめ細やかな薬の量調整や、他の病気との鑑別診断を行うことができます(参考:関西医科大学附属病院 4)。

信頼できる専門医を見つけるポイント

信頼できる専門医を探すには、日本内分泌学会や日本甲状腺学会のウェブサイトで公開されている「専門医リスト」を参考にするのが一つの方法です(参考:日本内分泌学会 7)。

また、かかりつけ医からの紹介や、地域の医療機関の評判を調べるのも良いでしょう。

症状が改善しない場合の再受診の目安

以下のような場合は、次回の予約を待たずに早めに受診を相談しましょう。

再受診のチェックリスト

  • 薬を飲んでいるのに、以前のようなだるさやむくみが再発した
  • 急激な体重の増減があった
  • 気分の落ち込みが激しく、日常生活に支障が出ている
  • 動悸や息切れ、ひどい汗など、これまでになかった症状が現れた

これらの症状は、薬の量が合わなくなっているサインや、他の病気の可能性を示している場合があります。

まとめ

「治らない」ではなく「付き合っていく」病気

甲状腺機能低下症は、確かに「完治」を目指す病気ではないかもしれません。しかし、それは決して絶望的な病気ではないということを、どうか忘れないでください。

「治らない」という言葉は、見方を変えれば「生涯にわたって適切にコントロールしていく病気」と言い換えることができます。

適切なホルモン補充療法を続け、生活習慣を整えることで、症状に悩まされることなく、仕事や趣味、家庭生活を存分に楽しむことが可能です。

「治らない」という言葉に縛られず、ご自身の体と向き合い、専門医と二人三脚で治療を進めていくこと。

そして、日々の生活の中でQOLを高める工夫を続けること。

それが、甲状腺機能低下症と上手に付き合い、充実した人生を送るための最も大切な鍵となります。

この記事が、あなたの不安を少しでも和らげ、前向きな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

FAQ(よくある質問)

Q: 甲状腺機能低下症は難病指定されていますか?
A: 一般的な原因である橋本病(慢性甲状腺炎)は、国の指定難病には含まれていません。ただし、先天性の甲状腺機能低下症や、下垂体の異常が原因で起こる中枢性甲状腺機能低下症など、一部の特殊なケースは指定難病や小児慢性特定疾病の対象となる場合があります(参考:先天性甲状腺機能低下症マススクリーニングガイドライン 8)。
Q: 橋本病と診断されたら一生薬を飲み続けなければなりませんか?
A: 多くの場合は、生涯にわたって甲状腺ホルモン薬の服用が必要になります。ただし、甲状腺の破壊の程度が軽度であったり、出産後の一時的なものであったりした場合は、状態が安定すれば薬を減らしたり、中止したりできるケースも稀にあります。必ず自己判断せず、医師の指示に従ってください。
Q: 甲状腺機能低下症で避けるべき食べ物はありますか?
A: 基本的に、特定の食品を厳しく制限する必要はありません。ただし、甲状腺ホルモンの原料であるヨード(ヨウ素)を過剰に摂取することは、甲状腺機能に影響を与える可能性があるため注意が必要です。昆布を毎日大量に食べる、ヨウ素を含むサプリメントを摂取するといったことは避けましょう(参考:京都医療センター 3)。
Q: 症状がなくても薬は飲み続ける必要がありますか?
A: はい、必要です。症状がないのは、薬によって体内の甲状腺ホルモンが適切な量にコントロールされているからです。自己判断で服用をやめてしまうと、数週間から数ヶ月でホルモンが不足し、再び症状が現れてしまいます。体調が良いときこそ、きちんと服薬を続けることが大切です。
Q: 甲状腺機能低下症で見た目に変化はありますか?
A: 治療せずに放置すると、特有の見た目の変化が現れることがあります。代表的なものに、顔や手足がむくむ「粘液水腫(ねんえきすいしゅ)」、髪の毛が抜けやすくなる、眉毛の外側3分の1が薄くなる、皮膚が乾燥してカサカサになるといった症状があります。適切な治療を行えば、これらの症状は改善します(参考:KOMPAS 2)。