血友病と診断された方やご家族の中には、将来的にどれくらい生きられるのか不安に感じるケースが少なくありません。かつては寿命が短いというイメージが先行していたものの、現代の医療では大きな変化が起きています。
現在の治療環境において、血友病患者の寿命は一般の人に大きく近づいています。寿命に関する悲観的な見方は、過去のデータに基づく古い情報であることがほとんどです。
ただし、長寿化が実現した現代だからこそ、新たな課題も生まれています。それが加齢に伴う生活習慣の変化や、体重管理の難しさです。
とりわけ肥満は、関節への負担を増大させるだけでなく、生活習慣病を通じて健康寿命に影響を及ぼす可能性があります。この記事では、血友病を取り巻く予後の現状とともに、長く健やかに生きるために欠かせない適正体重の維持や肥満解消のアプローチをお伝えします。
※この記事は疾患啓発を目的としています。
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血友病の寿命はどこまで延びた?現代の予後と歴史的背景
血友病の人の寿命は、治療の進歩とともに大きく延びてきました。ただし、国や時代、重症度によってデータには違いがあります。
補充療法の進歩で一般人口に近い平均寿命に
現在、血友病を抱える方が天寿を全うすることは十分に可能です。血液凝固因子製剤の進歩と普及により、日常的な出血をコントロールしやすくなりました。
日本血栓止血学会の「インヒビターのない血友病患者に対する止血治療ガイドライン」は、出血していないときに不足する凝固因子を定期的に補う「定期補充療法」で、関節の障害や頭蓋内出血を防ぐ効果を示しています※1。
国立病院機構大阪医療センターの医師がまとめた2025年の解説(これまでの報告を整理した論文)では、先進国の血友病患者の平均余命は健康な人とほぼ同等になったとされています※2。
適切な健康管理を続ければ、就学や就労、家庭生活などのライフイベントを諦める必要はありません。医療技術の発展が、かつて存在した余命への不安を大きく和らげた形です。
「ほぼ同等」と「まだ差がある」――2つのデータの読み方
一方で、国ごとの調査を見ると、寿命の差がまだ残っていることもわかります。
2021年に報告された、オランダの血友病患者約1,000人を2001年から2018年まで追跡した研究では、平均余命(中央値)は77歳で、オランダの一般男性の83歳と比べて約6年短い結果でした。ただし、死亡率は45年間で着実に下がり、一般の人の水準に近づいています※3。
2007年に報告された、英国のHIVに感染していない血友病患者を調べた研究では、1977〜1999年の平均余命(中央値)は、重症の人で63歳、中等症・軽症の人で75歳でした※4。
データをまとめると
「健康な人とほぼ同等」という見方と「まだ数年の差がある」というデータは、どちらも報告されている事実です。寿命は時代とともに延び続けており、重症度によっても違いがあります。
昔はなぜ短命とされていたのか
昔の血友病といえば、若くして命を落とす危険が高い病気という認識が一般的でした。1985年に報告された、スウェーデンの血友病患者の寿命を約150年分調べた研究では、1831〜1920年の重症患者の平均余命(中央値)は11.4歳でした※5。
当時は有効な止血手段が確立されておらず、わずかな怪我でも命に関わる出血につながりやすかった背景があります。
また、頻回な関節内出血が引き起こす激しい痛みや運動障害によって、生活の質が著しく低下する深刻なケースも珍しくありませんでした。
その後、凝固因子の濃縮製剤と予防的な補充療法が広まると、同じ研究で1961〜1980年の重症患者の平均余命は56.8歳まで延びています※5。
- 1831〜1920年
スウェーデンの重症患者の平均余命(中央値)11.4歳
- 1961〜1980年
同 56.8歳(濃縮製剤と予防的な補充療法の普及後)
- 2001〜2018年
オランダの全国追跡調査
血友病患者全体の平均余命(中央値)77歳。一般男性(83歳)との差は約6年まで縮まっています。
一方で、かつての非加熱の血液製剤は多くの人の血漿を集めて作られ、ウイルスを不活化する技術も十分ではありませんでした。厚生労働省は、当時の製剤の投与を受けた人は肝炎ウイルスに感染している可能性が高いとしています※6。
その後、ウイルス対策を施した製剤や遺伝子組換え製剤へと移行が進み、自宅で患者自身が行う自己注射も広く行われるようになりました。
昔のネット情報に触れてショックを受ける方もいますが、過去と現在の治療環境は大きく異なります。
先天性と後天性で異なる生命予後の捉え方
一口に血友病といっても、生まれつき凝固因子が不足している先天性と、主に成人以降に発症する後天性の2種類が存在します。これまでお伝えしてきた長寿化の事実は、主に先天性血友病に対する治療実績に基づいたものです。
幼少期からのケアを続け、出血を予防し続けることで、生涯にわたり安定した状態を保ちやすくなります。
一方で後天性血友病は、高齢になってから自己免疫の異常などをきっかけに発症するケースが多く見られます。日本血栓止血学会の「後天性血友病A診療ガイドライン 2017年改訂版」によると、発症年齢の中央値は70歳で、自己免疫疾患(11.7〜18.4%)や腫瘍(5.5〜17%)などの病気を背景に発症することがあります※7。
発症時の年齢がもともと高いことや、別の病気を抱えていることが多いことから、予後の捉え方は先天性とは異なります。
後天性血友病は早期発見・早期治療が重要
同ガイドラインによると、日本の調査での死亡率は13.8〜25.0%で、主な死因は出血と、免疫抑制療法に伴う感染症です。皮下出血や筋肉内出血などが突然重篤な状態で現れることも多いため、早期発見と速やかな免疫抑制療法・止血治療の開始が命を繋ぐ要となります※7。
先天性と後天性の違いや、血友病そのものの仕組みを確かめたいときは、血友病の原因や遺伝の仕組みを解説した記事が参考になります。
長寿化に伴う新たな壁|肥満が血友病患者の「余命」を脅かすリスク
寿命が延びたことで、血友病の人も年齢とともに体重や生活習慣病の問題に向き合うようになりました。中でも肥満は、関節・心臓と血管・転倒の3つの面で健康に影響します。
関節症(血友病性関節症)の進行と寝たきりリスク
寿命が延びたことで、現代の患者は新たな健康課題に直面しています。中でも警戒すべき要因の一つが肥満です。世界血友病連盟(WFH)の治療ガイドラインは、血友病の人は一般の人と同じか、それ以上に肥満・高血圧・糖尿病になりやすいとしています※8。
ご自身の体重が「肥満」にあたるのか、治療が必要な「肥満症」なのかを確かめたいときは、肥満と肥満症の違いや診断基準を解説した記事が参考になります。
血友病では、過去に繰り返した関節内出血の積み重ねによって滑膜の炎症が慢性化し、軟骨や骨が徐々に破壊される「血友病性関節症」を発症するリスクが付きまといます。関節症を防ぐことは、定期補充療法の主な目的のひとつです※1。
膝や足首、股関節など、体重を支える下肢の関節にかかる負担は、体重が増えるほど大きくなります。米国疾病予防管理センター(CDC)の血友病患者の登録データの報告では、肥満が関節の動く範囲(可動域)を狭めることが紹介されています※9。
痛みが強くなれば自然と体を動かさなくなり、筋力が低下してさらに体重が増えるという悪循環に陥りやすくなります。
日本の血友病患者を対象にした令和5年度の厚生労働科学研究の報告では、筋肉の量や力が落ちる「サルコペニア」が膝や足首の関節症と関連し、健康な人より早い40代から見られました※10。歩行が困難になり寝たきりの状態へと至れば、健康寿命を縮める要因になります。
心血管系疾患・血栓リスクと凝固因子製剤治療のジレンマ
加齢に伴い一般の人と同様に気をつけなければならないのが、高血圧や脂質異常症をはじめとする生活習慣病です。肥満はこれらの病気の大きな要因となります。動脈硬化が進行すれば、心筋梗塞や脳梗塞といった心血管系疾患を招く危険性が高まります。
血友病の人は心筋梗塞になりにくい?
重症の血友病には、心筋梗塞や脳卒中をある程度起こしにくくする面があるとされています※8。英国の研究でも、虚血性心疾患による死亡率は一般の人の62%でした※4。
一方、日本の血友病患者77人(年齢の中央値55歳)を調べた同じ厚生労働科学研究では、高血圧が36%、脂質異常症が26%、糖尿病が16%にみられ、心臓の血管に石灰化が強く見られる人も22%いました※10。「起こしにくい面がある」ことと「生活習慣病を持つ人が少なくない」ことは、どちらも事実です。
ここで生じるのが、血友病特有のジレンマです。心筋梗塞や脳梗塞を起こした場合、通常であれば血液を固まりにくくする抗血小板薬や抗凝固薬を使用します。
しかし、出血しやすい血友病の患者にこれらの薬を使うと、重い出血のリスクが高まります。関西医科大学附属病院の血液内科医がまとめた2026年の総説(これまでの研究を整理した論文)は、凝固因子の値や薬の組み合わせを考えながら、一人ひとり慎重に判断する必要があるとしています※11。欧州血液学会などがまとめた2023年の診療指針でも、抗血小板薬を2種類併用する場合は、凝固因子の値を一定以上(20%程度以上)に保つことが目安とされています※12。
出血を止めるための凝固因子製剤と、血栓を防ぐための治療を両立させるのは簡単ではありません。そのため、そもそも血管を詰まらせる原因となる肥満や生活習慣病を予防しておくことが、長生きのための大切な対策になります。
体重増加が引き起こす日常生活での転倒・頭蓋内出血の懸念
体重過多は、体のバランスを崩しやすくする原因でもあります。特に関節症を抱えている状態では歩行時の安定性が損なわれやすく、ちょっとした段差でのつまずきや転倒のリスクが大きくなります。
転倒による打撲や骨折は健常者にとっても厄介ですが、止血機能が低下している患者にとっては命に関わる事態に発展する可能性があります。
頭を打ったときの出血に注意
最悪のケースとして想定されるのが、転倒による頭部への強い衝撃から生じる頭蓋内出血です。これは現代においても死因となり得る重大な合併症で、オランダの研究でも主な死因のひとつでした※3。
素早く動きにくい体型は、日常生活に潜む危険を回避する力を弱め、間接的に余命を脅かす一因にもなります。
肥満解消が血友病患者の余命・健康寿命に関わる理由
体重を適正に保つことは、関節を守るだけでなく、治療を続けやすくすることにもつながります。
関節への負荷軽減による活動量維持と健康寿命の好循環
体重を適正な範囲にコントロールすることは、関節への物理的な負担を和らげる有効な方法のひとつです。膝や足首の痛みが軽減されれば、日常的な歩行や軽い運動を継続しやすくなります。
体を動かす習慣が根付けば心肺機能の低下を防ぎ、全身の血液循環を良好に保つ効果が期待できます。
令和5年度の厚生労働科学研究の報告では、40〜65歳の血友病患者の身体活動量は厚生労働省が推奨する量を下回っており、下肢の運動を促す必要があると指摘されています※10。
この好循環は、単なるダイエットの枠を超えて、寝たきり予防などを通じて健康寿命の維持につながります。活動的な生活を維持できる期間、すなわち健康寿命をどこまで延ばせるかは、日々の体重管理にかかっているという見方もできます。
体重適正化による凝固因子製剤投与量の最適化と合併症抑制
血液凝固因子製剤の投与量は、患者の体重に基づいて計算されます※1。体重が増えると、十分な止血効果を得るために必要な製剤の量も増えざるを得ません。肥満が凝固因子製剤の使用量を増やすことは、CDCの報告でも触れられています※9。
投与量が増えれば治療にかかる医療費の負担が増大するだけでなく、注射の負担も重くなりやすくなります。
さらに、肥満は糖尿病などの生活習慣病につながります。基礎疾患が増えればそれだけ服用する薬の種類も増え、薬の飲み合わせ(相互作用)による思わぬ副作用を招く危険も高まります。
減量によって体重を適正値に戻すことは、治療全体をシンプルで安全なものへ近づけ、合併症を遠ざけることにつながります。
安全に減量を進めるための実践的な生活管理アプローチ
血友病の人の減量は、出血を起こさないことを最優先に進めます。運動も食事も、主治医や専門家と相談しながら取り組むのが基本です。
関節出血を防ぎながら行える運動強度の見極め
いきなり激しい運動を始めない
体重を減らしたいからといって、いきなり激しいジョギングや高負荷の筋力トレーニングを始めるのは非常に危険です。無理な運動は関節内出血や筋肉内出血を誘発し、かえって状態を悪化させてしまいます。
減量のための運動は、安全性を最優先して慎重に選ぶ必要があります。
水中歩行や水泳は、浮力によって関節への負担を抑えつつエネルギーを消費できる運動です。また、椅子に座ったまま行えるストレッチや、軽い負荷のエアロバイクなども選択肢に入ります。
運動を開始する前には必ず主治医や理学療法士と相談し、現在の関節の状態に応じた適切な運動強度を見極めてもらうことが大切です。
日本血栓止血学会のガイドラインでは、運動の前にあらかじめ凝固因子を補う「予備的補充療法」の目安が、リハビリなどの軽い運動と、体育やスポーツなど運動量の多い場合とに分けて示されています※1。定期補充療法のタイミングに合わせて運動を行うことで、出血リスクを抑える工夫も求められます。
運動を始める前に、主治医に確認しておきたい点を整理しました※1。
抗血栓薬や生活習慣病治療薬との相互作用に注意した栄養アプローチ
運動と並んで重要なのが、毎日の食事内容の見直しです。体重を減らすための基本は適切なカロリー制限にありますが、栄養バランスが偏ると骨密度が低下し、骨折のリスクを高めてしまいます。
令和5年度の厚生労働科学研究の報告では、血友病患者に骨粗しょう症が多く見られ、ビタミンDが不足している人も多くいました※10。カルシウムやビタミンD、良質なタンパク質を過不足なく摂取するよう心がけます。
すでに高血圧や脂質異常症などを併発しており、複数の薬を服用している場合は特に注意が必要です。特定の食品が薬の効き目に影響を与えたり、相互作用によって思わぬ体調不良を引き起こしたりすることがあります。
食事制限は専門家と一緒に
自己流の極端な食事制限は避け、医療機関の管理栄養士から具体的なアドバイスを受けることで、安全なペースでの減量を目指してください。
治験を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。日本では血友病でお困りの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
- 最新の治療をいち早く受けられることがある
- 専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
- 治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
血友病と寿命に関するよくある質問(FAQ)
定期的な補充療法を自己判断で中断した場合、生命を脅かす事態を招く危険性が高まります。関節内での出血が頻繁に起こるようになり、痛みや関節の変形が進行します。
さらに懸念されるのは、脳出血や消化管出血といった命に関わる大出血のリスクです。定期補充療法には頭蓋内出血を防ぐ役割もあり※1、寿命が延びたのは適切な治療を継続しているという前提があってこその事実です。治療からの離脱は寿命を縮めることにつながりかねないと認識しておく必要があります。
治療の続け方や、遺伝子治療など新しい治療の選択肢を知りたいときは、血友病は治るのかを遺伝子治療の現状とあわせて解説した記事もあわせてご覧ください。
肥満そのものが凝固因子製剤の効き目を打ち消すわけではありません。しかし、製剤の量は体重をもとに計算されるため※1、体重が増えれば必要となる製剤の量も増加します。
また、肥満は関節の可動域を狭めることが報告されており、関節への負担が増えることで、関節症が進んでしまうケースがあります。適切な量を保つための投与スケジュールも、主治医とあらためて相談しておくと安心です。
まとめ
血友病患者の平均寿命は、医療技術の進歩によって一般の人に大きく近づいています。「若くして命を落とすのではないか」と悲観する必要はありません。正しい治療を続ければ、人生の選択肢は大きく広がっています。
長生きのために押さえておきたいこと
一方で、寿命が延びた現代だからこそ、関節の保護と生活習慣病の予防を両立するための「肥満解消・適正体重の維持」が、質の高い長寿を全うする上で重要な鍵となります。過度な体重増加は関節への負担を増やし、生活習慣病のリスクを高める要因にもなります。
長く健やかに生きるために、自身の体重管理や安全な運動方針について主治医としっかり連携し、無理のないペースで生活習慣の改善に取り組んでみてください。
