緑内障と診断され、「いつか見えなくなってしまうのか」「この先、仕事や運転はどうなるのか」と心配になるのは当然のことです。
しかし、適切な治療を早期から継続すれば、50代、60代で緑内障と診断されても、生涯にわたって日常生活に支障のない視機能を維持できる可能性はあります。
この記事では、失明までの期間の具体的な目安から、最新の治療法、治療費を支える公的支援、そしてご自身でできる生活習慣の改善まで、緑内障と向き合うために必要な知識を網羅的に解説します。
この記事を読めば、前向きに治療に取り組むための一歩を踏み出せるはずです。
緑内障、失明までの期間はどれくらい?
多くの方が最も知りたい「失明までの期間」について、結論からお伝えします。
過度に恐れる必要はありませんが、正しい知識を持つことが重要です。
平均20〜30年、ただし早期治療で未来は大きく変わる
緑内障は、診断されてから失明に至るまで、平均して20〜30年かかることが多いと言われています(参考:米国家庭医学会 1)。
これは何も治療をしなかった場合の一般的な目安です。
つまり、60代で発見された場合、適切な治療を行えば多くの方は生涯にわたり視機能を保てる可能性があるということです(参考:日本眼科医会 2)。
ただし、これはあくまで平均であり、病気の種類や発見された時点での進行度によって大きく変わります。
早期に発見し、適切な治療を開始すれば、病気の進行を大幅に遅らせることが可能です。
失明率は約5%、その多くは未治療・発見の遅れが原因
緑内障と診断された方全員が失明するわけではありません。
実際に失明に至る割合は、全体の約5%程度とされています(参考:米国緑内障研究財団「Glaucoma Research Foundation」 3)。
そして、その多くは病気に気づかず未治療のまま放置してしまったケースや、発見が大幅に遅れてしまったケースです。
治療を継続することで、失明のリスクは大きく下げることができます。
現代の医療では、緑内障は「失明する病気」から「生涯付き合っていく病気」へと変わってきています。
>>緑内障は治る時代が来る?最新の治療法と研究動向を徹底解説
「突然失明する」は誤解
「ある日突然、目が見えなくなる」というイメージは緑内障に対する大きな誤解です。
緑内障による視野の欠損は、自覚症状がないまま、長い年月をかけてゆっくりと進行します。
多くの場合、まず周辺の視野から少しずつ欠けていき、中心部の視力は末期まで保たれる傾向にあります(参考:米国緑内障研究財団「Glaucoma Research Foundation」 4)。
そのため、自分では異常に気づきにくく、気づいた時にはかなり進行していたというケースが少なくありません。
緑内障による視野の狭まり方(進行段階別)
進行段階 | 見え方の特徴と自覚症状 |
---|---|
初期段階 | ごく一部に自分では気づかない程度の視野欠損が始まります。日常生活への支障は全くありません。 |
中期段階 | 視野欠損が広がり始め、「つまずきやすい」「物にぶつかる」といった症状が出ることがあります。ただし、両目が互いの視野を補うため、まだ気づかない人も多いです。 |
後期段階 | 視野の中心部にも影響が出始め、文字が読みにくい、人の顔が認識しづらいなど、日常生活に明確な支障を感じるようになります。 |
末期段階 | 視野が極端に狭まり、筒の中から覗いているような状態(トンネルビジョン)になります。最終的に中心の視力も失われ、失明に至ります。 |
年齢で緑内障の進行速度は変わるのか
「60代だから、40代の人より進行が速いのでは?」という不安もあるかもしれません。
しかし、進行速度は年齢だけで決まるわけではありません。
50代、60代だから進行が速いわけではない
緑内障の進行速度は、年齢そのものよりも、診断された時点での進行度と眼圧の高さに大きく左右されます。
50代、60代であっても、初期段階で発見され、治療によって眼圧が適切にコントロールされていれば、進行は非常に緩やかです。
むしろ40代で発症し、気づかずに20年放置して60歳になった時点で見つかった場合の方が、視野の欠損は進んでいる可能性があります。
大切なのは「何歳か」ということよりも「どの段階で治療を始められるか」です。
治療を継続した場合の進行イメージ比較(40代・50代・60代・70代)
治療の目的は病気を完治させることではなく、視野欠損の進行を緩やかにし、生涯にわたって「見える」生活を維持することです。
- 40代で発見・治療開始:
適切な治療を続ければ、80代、90代になっても、日常生活に困らない程度の視野を維持できる可能性が非常に高いです。 - 60代で発見・治療開始:
初期〜中期であれば、治療を継続することで、多くの場合、生涯中心の良好な視力を保つことができます。 - 70代で発見・治療開始:
他の年代と同様、発見時の進行度によります。たとえ進行していても、治療によって進行速度を抑え、残された視機能を最大限守ることが目標となります。
緑内障の進行を抑える3つの基本治療
緑内障の治療は、眼圧を下げて視神経への負担を減らすことが基本です。
主な治療法は「点眼薬」「レーザー治療」「手術」の3つです(参考:メイヨークリニック 5)。
① 点眼薬(眼圧コントロールの基本)
最も基本となる治療法です。
様々な種類の点眼薬があり、房水(目の中を循環する液体)の産生を抑えたり、排出を促したりすることで眼圧を下げます。
毎日欠かさず点眼を続けることが、進行を抑える上で非常に重要です。
② レーザー治療
点眼薬だけでは十分に眼圧が下がらない場合や、副作用で点眼が続けられない場合などに行われます。
房水の通り道である「線維柱帯」にレーザーを照射し、房水の流れを改善して眼圧を下げます。
比較的身体への負担が少なく、外来で行うことができます。
③ 手術
点眼薬やレーザー治療でも進行が抑えられない場合に行われる、最後の選択肢です。
房水の新たな通り道を作る「線維柱帯切除術」などが代表的です。
近年は、より身体への負担が少ない「低侵襲緑内障手術(MIGS)」も登場しています。
50代、60代で緑内障と診断されたら考えるべきこと
緑内障と診断されたら、治療と並行して、今後の生活設計について考えることも大切です。
特に「運転」「仕事」「お金」の3点は、多くの方が不安に感じるポイントでしょう。
① 運転免許はいつまで?更新時の視野検査と注意点
緑内障だからといって、すぐに運転ができなくなるわけではありません。
運転免許の取得・更新には視力に加えて視野の基準が定められています。
普通自動車免許の場合、原則として両眼の視力が0.7以上(片眼それぞれ0.3以上)必要です。
もし一方の目が0.3未満の場合は、もう一方の目の視力が0.7以上かつ水平視野が150度以上あることが条件となります(参考:警視庁 6)。
定期的な眼科受診でご自身の視野の状態を正確に把握し、医師と相談しながら、運転を続けるかどうかを慎重に判断しましょう。
② 仕事への影響は?職種別の注意点と働き方の工夫
仕事への影響は、職種や求められる視機能によって異なります。
- デスクワーク中心の仕事:
中心視力が保たれていれば、多くの場合、仕事を続けることは可能です。
ただし、パソコンの画面が見えにくい場合は、モニターの輝度調整や拡大鏡の利用などの工夫が必要になることがあります。 - 運転や精密機械の操作が伴う仕事:
安全に関わるため、視野の状態によっては業務内容の変更や配置転換が必要になる可能性があります。
早めに会社に相談することが重要です。
③ 治療費と公的サポート
緑内障は長く付き合っていく病気のため、治療費も継続的にかかります。
経済的な負担を軽減するために、利用できる公的制度は確認しましょう。
高額療養費制度・医療費控除
- 高額療養費制度:
1ヶ月の医療費の自己負担額が上限を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。
手術などで高額な医療費がかかった月に適用されます(参考:厚生労働省 7)。 - 医療費控除:
1年間に支払った医療費の合計が10万円(または所得の5%)を超える場合に、確定申告をすることで所得税が還付される制度です。
通院の交通費も対象になる場合があります。
視覚障害者手帳の等級と受けられる補助金
病気が進行し、視野障害が一定の基準に達した場合は、身体障害者手帳(視覚障害)を申請することができます。
手帳を取得すると、等級に応じて様々な福祉サービスや補助金が受けられます(参考:厚生労働省 8)。
- 医療費の助成
- 税金の減免
- 公共交通機関の割引
- 補装具(白杖、拡大読書器など)の購入費補助
お住まいの市区町村の福祉担当窓口で詳細を確認できます。
緑内障の進行を悪化させないための生活習慣
治療とあわせて日々の生活習慣を見直すことも、視神経を守る上で補助的な役割を果たしてくれます。
食事:抗酸化作用のある栄養素を意識する
視神経のダメージには「酸化ストレス」が関わっていると考えられています(参考:東北大学病院 9)。
抗酸化作用のあるビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを多く含む、緑黄色野菜や果物をバランス良く摂ることを心がけましょう。
運動と血流:ウォーキングなど適度な運動を
ウォーキングやジョギングなどの適度な有酸素運動は、全身の血流を改善し、視神経に栄養を届けやすくする効果が期待できます。
ただし、急に頭に血がのぼるような激しい運動や、長時間下を向くヨガのポーズなどは眼圧を上げる可能性があるため、医師に相談しましょう。
睡眠とストレス:質の良い睡眠で視神経を休ませる
質の良い睡眠は、心身の回復だけでなく、視神経を休ませるためにも重要です。
また、過度なストレスは血圧を上昇させ、眼圧にも影響を与える可能性があります。
リラックスできる時間を作り、心穏やかに過ごすことを意識しましょう。
注意すべきこと:喫煙・過度な飲酒・うつぶせ寝など
- 喫煙:
血管を収縮させ、視神経への血流を悪化させる最大の危険因子です。必ず禁煙しましょう。 - 過度な飲酒:
適量であれば問題ありませんが、一度に大量の水分を摂取すると眼圧が上がることがあります。 - うつぶせ寝:
枕に目が圧迫され、眼圧が上昇する可能性があります。できるだけ仰向けで寝るようにしましょう。
定期検査の重要性と検査間隔の目安
緑内障治療において、定期的な検査は点眼薬と同じくらい重要です。
なぜ異常を感じなくても通院が必要なのか
緑内障は自覚症状がないままゆっくり進行するため、自分では病状の変化に気づくことができません。
定期的に視野検査や眼圧検査を受けることで、現在の治療が効果を上げているか、進行が止まっているかを客観的に評価できます。
もし進行が見られる場合は、治療法をより強力なものに見直す必要があります。
検査間隔の目安
検査の間隔は、病状の安定度によって異なりますが、一般的には3ヶ月〜半年に1回程度の眼圧測定、半年に1回〜1年に1回程度の視野検査を行うことが多いです。
必ず医師の指示に従って通院を続けてください。
【ご家族の方へ】家族をサポートするポイント
ご家族、特に親世代が緑内障と診断された場合、子世代のサポートが非常に大切になります。
- 通院への付き添いと医師の説明を一緒に聞く
高齢になると、一度に多くの情報を理解するのが難しくなることがあります。一緒に説明を聞き、治療方針を共有することで、本人の安心につながります。 - 点眼薬の管理を手伝う
複数の種類の目薬を処方されている場合、さす時間や順番を間違えてしまうことがあります。カレンダーに印をつけたり、お薬ケースを活用したりして、正しい点眼をサポートしましょう。 - 変化に気づき、不安に寄り添う
「最近よくつまずく」「テレビが見えにくそう」といった生活の中での小さな変化に気づけるのは、一番近くにいるご家族です。何よりも、「見えなくなるかもしれない」という本人の不安な気持ちに寄り添い、話を聞いてあげることが大きな支えとなります。
新たな治療法を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。
日本では緑内障でお悩みの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。
例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
・最新の治療をいち早く受けられる
・専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
・治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。
実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
まとめ:正しく知り、緑内障と長く付き合う
緑内障は、一度失われた視野を取り戻すことができない病気です。
しかし、現代の医療ではその進行を効果的に食い止めることができます。
悲観しすぎず、病気を正しく理解し、信頼できるかかりつけ医と共に、ご自身の「見える」生活を長く守っていきましょう。
少しでも不安な点があれば、遠慮なく医師に相談してください。
緑内障に関するよくある疑問
緑内障に関するよくある疑問とその答えを紹介します。
Q. 緑内障になっても失明しない人はいますか?
A. はい、大多数の方は失明しません。早期に発見し、生涯にわたって真面目に治療を続ければ、日常生活に支障のない視力を維持できる方がほとんどです。
失明に至るケースは、未治療で放置した場合や、発見が極端に遅れた場合などが大半を占めます。
Q. 緑内障の末期の症状はどのようなものですか?
A. 緑内障の末期では、視野が著しく狭くなり、中心部しか見えない「トンネルビジョン」と呼ばれる状態になります。
さらに進行すると、その中心部の視力も失われ、明暗がわかる程度になり、最終的に失明(光を全く感じない状態)に至ります。
生活の質(QOL)が著しく低下するため、そうなる前に進行を食い止める治療が不可欠です。
Q. 緑内障の進行が治療しても止まらないことはありますか?
A. 残念ながら、現在の治療法では視野欠損の進行を完全に「止める」ことは難しく、「進行を最大限遅らせる」ことが目標となります。
点眼薬やレーザー、手術など様々な治療を駆使しても、眼圧が十分に下がらなかったり、もともとの視神経が非常に脆弱であったりする場合、進行が止まらないケースも稀にあります。
しかし、ほとんどの場合は、適切な治療によって進行速度を大幅に緩やかにすることが可能です。
Q. 緑内障で受けられる補助金は具体的にいくらですか?
A. 補助金の具体的な金額は、お住まいの自治体や取得した身体障害者手帳の等級、所得状況などによって大きく異なります。
一例として、視覚障害で手帳を取得した場合、医療費の自己負担分が助成されたり、補装具(拡大読書器など)の購入費用の9割が支給されたりする制度があります。
まずは市区町村の役所の障害福祉課などに相談し、ご自身の状況でどのような助成が受けられるかを確認することが重要です。
参考資料・文献一覧
1.米国家庭医学会 https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2023/0300/glaucoma.html
2.日本眼科医会 https://www.gankaikai.or.jp/health/56/
3.米国緑内障研究財団(Glaucoma Research Foundation) https://glaucoma.org/articles/glaucoma-facts-and-stats
4.米国緑内障研究財団(Glaucoma Research Foundation) https://glaucoma.org/articles/glaucoma-facts-and-stats
5.メイヨークリニック https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/glaucoma/diagnosis-treatment/drc-20372846
6.警視庁 https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/menkyo/menkyo/annai/other/tekisei03.html
7.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
8.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000149288.pdf
9.東北大学病院 https://www.hosp.tohoku.ac.jp/release/news/10176.html
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