歩くたびに膝が痛み、階段の上り下りがつらい。立ち上がるのも一苦労で、以前のように自由に動けない。変形性膝関節症による痛みは、日々の生活の質(QOL)を大きく低下させることがあります。

保存療法を続けていても痛みが改善しないとき、「手術」という選択肢が現実味を帯びてきます。

しかし、いざ手術を考えると、「いつ決断するのが最適なのだろうか」「手術を受けるべきか、まだ待つべきか」「費用や入院期間、術後の生活はどうなるのか」といった、数多くの疑問や不安が浮かんでくるものです。

この記事では、変形性膝関節症の手術を検討している方々のそうした悩みに応えるため、手術の最適なタイミングを見極めるための判断基準から、具体的な手術の種類、費用、入院期間、そして術後の生活に至るまでを整理します。ご自身の状態を正しく理解し、納得できる選択をするための材料としてお使いください。

※この記事は疾患啓発を目的としています。

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変形性膝関節症とは?進行度と治療の全体像

膝の痛み、その正体は?疾患の概要と発症メカニズム

変形性膝関節症は、膝関節のクッションの役割を果たす軟骨が年齢とともにすり減り、炎症や骨の変形が生じることで痛みや動かしにくさが現れる疾患です。

初期は立ち上がりや歩き始めに痛む程度ですが、進行すると安静時にも痛みが続くようになり、膝に水が溜まる(関節水腫)こともあります。

加齢が主な原因とされていますが、肥満、遺伝的要因、過去の膝の怪我なども発症のリスクを高める要因です。日本整形外科学会も、関節軟骨の老化が主な原因で、肥満や素因(遺伝子)が関与し、骨折、靱帯や半月板損傷などの外傷、化膿性関節炎などの感染の後遺症として発症することがあると説明しています※1

軟骨がすり減ることで骨同士が直接こすれ合うようになり、それが強い痛みや関節の変形につながっていきます。

進行度(ステージ)で変わる症状と治療の考え方

変形性膝関節症の進行度は、レントゲン画像所見に基づき、一般的に「グレード」という分類で評価されます。

レントゲンのグレードで分かること、分からないこと

日本整形外科学会の変形性膝関節症診療ガイドライン2023によれば、重症度評価には Kellgren-Lawrence(KL)分類が広く用いられ、骨棘形成と関節裂隙狭小化をもってグレード0〜4の5段階に評価します。ただしKL分類が捉えているのは骨の形態変化だけです。同ガイドラインは、X線異常のないKLグレード0の一般住民でもMRIでは69%に軟骨病変、52%に骨髄病変、37%に滑膜炎が認められ、全体では89%に何らかの異常所見があると紹介しており、骨形態以外の病変の検出力はMRIに比べて低い点に注意が必要だとしています※2

  • グレード0:正常
  • グレード1(初期):軟骨のすり減りがわずかに始まる段階。自覚症状はほとんどないか、あっても軽い。
  • グレード2(軽度):軟骨のすり減りが進み、骨の棘(骨棘)が見られることも。立ち上がりや歩き始めに痛みを感じる。
  • グレード3(中等度):関節の隙間が明らかに狭くなる段階。階段の上り下りや正座が困難になり、痛みが強くなる。
  • グレード4(末期):軟骨がほぼなくなり、骨同士が直接ぶつかる状態。安静時や夜間にも強い痛みが生じ、歩行が困難になることも。

なお、KL分類そのものは画像所見による評価であり、症状の強さを直接示すものではありません。上の各段階に添えた症状は、あくまで臨床像の目安として読んでください。

治療は進行度に応じて選択されます。初期から中期にかけては保存療法が中心となり、それで効果が見られない場合や末期に至った場合に手術療法が検討されるのが一般的な流れです。

変形性膝関節症の治療は保存療法と手術療法

まず試したい保存療法とその限界

手術を考える前に、まず行われるのが保存療法です。これは手術以外の方法で症状の緩和を目指す治療で、主に以下の方法が組み合わせて用いられます。

  • 薬物療法:痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)の内服薬や外用薬、ヒアルロン酸注射など
  • 運動療法:膝周りの筋力(特に太ももの筋肉)を鍛えるトレーニングやストレッチ、水中ウォーキングなど
  • 装具療法:膝サポーターや足底板(インソール)を用いて膝への負担を軽減する
  • 物理療法:温熱療法や電気治療などで血行を促進し、痛みを和らげる

変形性膝関節症診療ガイドライン2023は、このうち運動療法とNSAIDs外用薬について「実施することを強く推奨する」としています。一方、体重減少、装具療法(膝装具・外側楔状足底板)、ヒアルロン酸関節内注射、アセトアミノフェン、NSAIDs内服は「実施することを提案する」という弱い推奨にとどまり、鍼治療と灸治療は「実施しないことを提案する」とされています※2

運動療法については、日本整形外科学会が膝を支える筋肉を鍛える運動と膝の動きをよくする運動を挙げたうえで、運動の内容や回数はかかりつけ医とよく相談するよう呼びかけています※3

これらの保存療法は、多くの患者さんの痛みを和らげ、症状の進行を遅らせる効果が期待できます。

しかし、変形が進行してしまった場合、保存療法だけでは痛みのコントロールが難しくなり、日常生活に大きな支障をきたすことも少なくありません。

手術療法を検討する時期は?

保存療法を一定期間続けても痛みが十分に改善せず、生活の質(QOL)が著しく低下している状態が、手術療法を検討する一つの目安となります。

例えば、痛みのために外出をためらうようになったり、趣味や仕事を続けられなくなったりした場合、手術がQOLを回復させるための選択肢になります。

変形性膝関節症、手術を考える「最適なタイミング」とは

手術のタイミングは、単純に「いつ」と決められるものではなく、個々の患者さんの状態を多角的に見て判断されます。

手術適応はレントゲンだけでは決まらない

手術を決定する上でレントゲン画像の進行度は重要な指標ですが、それだけで全てが決まるわけではありません。

画像上は重度の変形があっても痛みをあまり感じずに生活している方もいれば、変形は軽度でも強い痛みに悩まされている方もいます。そのため、医師は画像所見に加えて、患者さん自身の状況を総合的に評価します。

痛みの程度と日常生活への影響を重視する

最も重要な判断基準の一つが、「痛みがどれだけ日常生活を妨げているか」という点です。

  • 少し歩くだけで強く痛む、歩行が困難
  • 夜、痛みで目が覚めてしまう(夜間痛)
  • 階段の上り下りが非常につらい
  • 仕事や家事、趣味の活動に著しい支障が出ている

このような状態が続く場合、手術によってQOLが大きく改善する可能性があるため、手術が積極的に検討されます。

保存療法を続けても痛みが取れないとき

薬物療法や運動療法などの保存療法を一定期間続けても、痛みが十分にコントロールできない場合も、手術への移行を考える目安となります。

「3〜6ヶ月」という期間の基準は存在しない

「保存療法を3〜6ヶ月続けても改善しなければ手術」という言い方を目にすることがありますが、こうした具体的な期間の基準は日本整形外科学会の診療ガイドラインには示されておらず、公的文献上の根拠は乏しいのが実情です。実際には、痛みの強さと生活への支障の程度をみながら、医師と相談して決めていくことになります。

保存療法で効果が得られない痛みを我慢し続けることは、さらなるQOLの低下を招く可能性があります。

進行度(グレード)と年齢のバランス

進行度がグレード3以上に進んでいる場合に手術が検討されやすい、と語られることがあります。ただし、グレードで手術適応を線引きする基準もまた、診療ガイドラインには示されていません。

年齢も重要な要素です。人工関節には耐用年数があり、獨協医科大学埼玉医療センター整形外科は、現在の人工関節の耐用年数は15〜20年以上と説明しています※4

そのため、比較的若い年齢で手術を受ける場合は、将来的に再置換手術が必要になる可能性も考慮に入れる必要があります。活動性の高い若年層〜中年層には、自分の関節を温存できる骨切り術などが選択されることもあります。

早期に手術を受けるメリットとデメリット

手術を早めの段階で受けることには、良い点と注意すべき点の両方があります。

良い点としては、痛みの原因を根本的に取り除くことで、早期にQOLを改善できることが挙げられます。痛みがなくなることで活動的になり、筋力低下を防ぎやすく、リハビリの効果も出やすい傾向があります。

一方で、特に若い方が人工関節置換術を受ける場合は、将来の再置換リスクを考慮しなくてはなりません。

人工膝関節置換術の主な合併症

どんな手術にもリスクは伴います。東京医科大学病院の整形外科人工関節センターは、主な合併症として、インプラント表面や関節周囲に細菌が増殖する感染、術後の安静で下肢の血流が低下して静脈内に血栓が生じる深部静脈血栓症、そして術後の身体活動による人工関節のゆるみや破損を挙げています。深部静脈血栓症は稀ながら肺塞栓症を起こす危険性があるため、術後の早期離床や弾性ストッキング、フットポンプで予防が行われます※5

手術を遅らせることのリスクと注意点

痛みを我慢して手術を先延ばしにすることにも、いくつかのリスクが伴います。

関節の変形がさらに悪化し、痛みが慢性化してしまう可能性があります。また、膝をかばうことで腰や反対側の膝など、他の関節に負担がかかり、新たな痛みの原因となることもあります。

変形が極度に進行すると、手術自体が技術的に難しくなったり、術後の回復に時間がかかったりするケースも考えられます。信州大学医学部附属病院の整形外科も、病期が進むにつれて手術の選択肢は限られ、最終的には人工関節のみになると説明しています※6

変形性膝関節症の主な手術方法と特徴

手術の方法は一つではありません。患者さんの年齢や活動レベル、変形の状態によって適した術式が選択されます。

人工膝関節置換術(TKA/UKA):どんな手術?

傷んだ関節の表面を金属やポリエチレンなどでできた人工の関節(インプラント)に置き換える手術です。膝関節全体を置き換える「全置換術(TKA)」と、傷んだ部分だけを置き換える「単顆置換術(UKA)」があります。

変形性膝関節症診療ガイドライン2023は、TKAについて高齢者の内側および外側に進行した変形性膝関節症に対して疼痛の軽減とADLの改善に有効で、QOLの向上にも有用としています。UKAについては、病変が内側あるいは外側の大腿脛骨関節に限局し、前十字靱帯の機能に問題がない症例で有効としており、対象が絞られる点に違いがあります※2

脛骨骨切り術(HTO):自分の関節を温存する治療

主にO脚変形が強い場合に、すねの骨(脛骨)の一部を切って角度を矯正し、膝の内側にかかっていた負担を外側に移すことで痛みを軽減する手術です。自分の関節を温存できるため、術後の活動制限が少なく、スポーツへの復帰も期待できる点が大きな利点です。

同ガイドラインは、膝周囲骨切り術を身体活動性が高い、あるいは比較的年齢の低い症例にとくに有用としています。人工膝関節置換術への移行をエンドポイントとした生存率は5年で91.2〜97%、10年で68〜97.6%、15年で55〜90.4%と報告間にばらつきがあり、術後に85.5%の患者がもとのスポーツに復帰し、79.5%が術前と同レベルの活動性を得られたとする報告も紹介されています※2

なお「65歳未満が良い適応」といった年齢の線引きが、ガイドラインに示されているわけではありません。

関節鏡視下手術:低侵襲な選択肢

小さなカメラ(関節鏡)を関節内に入れ、モニターで観察しながら行う手術です。損傷した半月板や遊離した軟骨の欠片を取り除くといった処置が主で、傷が小さく体への負担が少ないのが特徴です。

ガイドラインは変形性膝関節症の治療としては推奨していない

変形性膝関節症診療ガイドライン2023は、鏡視下半月板部分切除や鏡視下デブリドマンについて「有用性は限定的であり、治療法としては行わないことを提案する」としています。除痛効果や機能改善効果はヒアルロン酸注射や運動療法と差がなく、人工膝関節置換術への移行を抑える効果も認められなかったためです。ただし同ガイドラインは、病態の主体が半月板損傷や関節内の遊離体によるキャッチング・ロッキングなど機械的な機序で、保存療法では十分な改善が期待できない場合には、効果を十分に説明し承諾を得たうえで早期の関節鏡視下手術などを行うべきだとも述べています※2

各手術の選択基準と簡易比較

どの手術を選択するかは、年齢、活動性、変形の程度、全身の状態などを総合的に判断して決定されます。

手術方法 主な対象 特徴
人工膝関節置換術 高齢者、末期の変形 疼痛軽減とADL改善に有効、安定した成績
脛骨骨切り術 比較的年齢が低く、活動性が高い 自分の関節を温存、スポーツ復帰も可能
関節鏡視下手術 半月板損傷などによる機械的症状 低侵襲だが、変形性膝関節症の治療としてはガイドラインが推奨せず適応は限られる

最終的な術式の決定は、専門医との十分な相談の上で行われます。

ガイドラインの構成から見える、手術適応の決めにくさ

ここまで見てきた推奨の出方には、一つの偏りがあります。保存療法には15のクリニカルクエスチョンが立てられ、それぞれに推奨の強さが示されているのに対し、手術療法でクリニカルクエスチョンとして推奨度が示されているのは鏡視下手術ただ一つ、しかも「行わないことを提案する」という内容です。膝周囲骨切り術、人工膝関節単顆置換術、人工膝関節全置換術はいずれも、推奨度を伴わない背景疑問(バックグラウンドクエスチョン)として解説されるにとどまっています※2

基準表に当てはめて決まる手術ではない

つまり「どの術式を、どのタイミングで受けるべきか」は、推奨度という形では線引きされていません。だからこそ手術のタイミングは、画像のグレードや年齢の数字に当てはめて決まるのではなく、痛みの強さ、生活への支障、活動性、そして本人がどんな生活を取り戻したいかを、医師と突き合わせて決めるしかない領域になります。同ガイドライン自身も、その目的は「支援」であって「規制」や「命令」ではなく、治療法の選択は益と害を医療利用者と提供者の間で議論して決められるべきだと述べています。

治験を試すのも一つの方法

病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。日本では変形性膝関節症でお困りの方に向け治験が行われています。

治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。

治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。

  • 最新の治療をいち早く受けられることがある
  • 専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
  • 治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる

ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。

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手術の費用、入院期間、そして術後の生活への影響

手術にかかる費用はどのくらい?医療費助成制度も活用

変形性膝関節症の手術費用は、術式や入院期間によって異なります。「人工膝関節置換術なら3割負担で40〜60万円程度」といった金額が語られることもありますが、こうした目安を裏づける公的な資料は確認できず、診療報酬も2026年6月に改定されているため、額そのものを固定的に受け取らないほうが安全です。

むしろ押さえておきたいのは、窓口で支払う額には制度上の上限があるという点です。

高額療養費制度は2026年8月から見直されている

厚生労働省の高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が上限額を超えた場合に、その超えた額を支給する仕組みです。令和8年(2026年)8月からの制度では、70歳未満・年収約370万〜約510万円の方が医療費100万円の治療を受けた場合、自己負担は約9.3万円まで抑えられると同省が例示しています。同月からは月単位の上限に加えて年単位の「年間上限」も新設されました。窓口での支払いを最初から上限額までにとどめるには、マイナ保険証を利用するか、事前に「限度額適用認定証」を入手しておく必要があります。上限額は年齢や所得によって異なるため、詳しくはご加入の健康保険組合や市区町村の窓口にご確認ください※7

入院期間の目安と術後のリハビリテーション

入院期間は手術方法や病院の方針、患者さんの回復状況によって変わります。人工膝関節置換術では、獨協医科大学埼玉医療センター整形外科が通常2〜3週間前後で杖歩行と階段昇降が可能となり自宅退院になるとしています※4

骨切り術も同センターで2〜3週間程度、通常2週間前後で杖歩行と階段昇降ができるようになり自宅退院という説明です※8。骨切り術のほうが長期入院になるとは限らない点は、意外に思われるかもしれません。

術後の回復において重要な役割を担うのがリハビリテーションです。東京医科大学病院では、手術翌日にドレーンや尿カテーテルを抜去したうえで、スタッフの見守りのもと歩行器を使った歩行訓練が始まります。退院の目安は抜糸翌日以降で杖歩行が安定し階段昇降などが可能になったときで、術後2〜3週間が入院リハビリ期間の目安とされています※5

膝の曲げ伸ばしの練習や筋力トレーニング、歩行訓練などを理学療法士の指導のもとで行います。痛みのない安定した膝の機能を取り戻すうえで、このリハビリに取り組むことが大きな比重を占めます。

術後の痛みの管理と回復過程

手術直後は、麻酔が切れると手術による痛みが生じます。この痛みは鎮痛薬などでコントロールされます。

東京医科大学病院は、人工膝関節全置換術では手術前にあったような関節の痛みは基本的になくなるものの、関節周囲の筋肉をはがす手術操作のため手術後の痛みがしばらく続くこと、それは手術前の痛みとは種類の異なる痛みであり、術後に取れていくものだと説明しています。退院後の外来リハビリの目安は週1〜3回、期間は3ヶ月程度とされています。

仕事復帰や日常生活への影響は?

仕事への復帰時期は、仕事内容と術式によって大きく異なります。

高位脛骨骨切り術について、信州大学医学部附属病院の整形外科は、椅子に座ってできる事務職であればすぐに復職でき、立ち仕事であれば2ヶ月半〜3ヶ月程度、重いものを持ったりしゃがみ込む作業がある場合は骨がしっかりくっついてからが望ましいとしています。自動車の運転についても、手術部位への悪影響はないものの交通安全の観点から松葉杖が外れてから(手術後およそ2ヶ月)を勧めています※6

人工膝関節置換術後の生活で気をつけること

東京医科大学病院は、人工膝関節置換術後の膝の可動域について一般的に120度を目標にリハビリを行うとしたうえで、正座をすることはできないと明記しています。生活様式については、和式生活も可能だが椅子・ベッドを使用する洋式生活を中心に切り替えることを推奨、階段や浴室、トイレには手すりをつけると安全としています。また体重増加は人工関節に悪影響があるため適切な体重維持が呼びかけられており、運転や職場復帰、スポーツの開始時期はいずれも主治医に相談するよう案内されています※5

スポーツや趣味活動への復帰については、手術方法や回復の程度によるため、必ず主治医に相談してください。

手術を決める前に確認したいこと

セカンドオピニオンで別の医師の意見を聞く

手術は体への負担も伴う大きな決断です。主治医から手術を勧められた場合でも、すぐに決断する必要はありません。

別の医療機関の医師に意見を求める「セカンドオピニオン」を活用することも、納得のいく治療選択のために有効な方法です。異なる専門医の意見を聞くことで、提示された治療法への理解が深まったり、別の選択肢が見つかったりすることもあります。

信頼できる医療機関・医師の選び方

手術を受ける医療機関や医師を選ぶ際は、膝関節外科を専門としているか、手術の実績が豊富か、といった点が参考になります。

資格の面では、日本整形外科学会の「整形外科専門医」が一つの目安になります。同学会によれば、整形外科専門医は大学医学部で6年間教育を受け卒業後、医師国家試験に合格し、さらに医師として6年間主に整形外科を中心に研修を修め、専門医試験に合格した医師で、合格後も5年ごとに資格更新があります。同学会のサイトでは都道府県や勤務先名から専門医を検索できます※9

また、最も大切なのは、医師が患者さんの話に耳を傾け、治療法のメリットだけでなくリスクや限界についても丁寧に説明してくれる(インフォームドコンセント)かどうかです。信頼関係を築ける医師を見つけることが、安心して治療に臨むための第一歩です。

手術への不安を軽減するために、事前にできること

手術への不安を和らげるためには、まず正しい情報を得ることが重要です。分からないことや心配なことはリストアップしておき、診察の際に医師に質問しましょう。

ここまでに挙げた診療ガイドラインや大学病院の説明を、診察の場で使える質問の形に組み替えると、次のようになります。

  • 自分の膝はKL分類でどのグレードか。X線以外の検査で分かることはあるか
  • 勧められている術式は、診療ガイドラインではどう位置づけられているか
  • この病院での入院期間とリハビリの目安、退院の条件は何か
  • 術後に制限される動作は何か。続けられる運動や仕事は何か
  • 感染や深部静脈血栓症が起きたとき、どう対応することになるか
  • 高額療養費制度を使った場合、自分の自己負担の上限はいくらになるか

ご家族とよく相談し、術後の生活のサポート体制について話し合っておくことも大切です。医師と十分にコミュニケーションを取り、手術や術後の見通しについて理解を深めることが、漠然とした不安の解消につながります。

まとめ

変形性膝関節症の手術を受ける最適なタイミングは、レントゲンの進行度だけで決まるものではありません。

痛みの強さ、日常生活への支障の度合い、保存療法の効果、年齢、そしてご自身がどのような生活を取り戻したいかという希望など、さまざまな要素を総合的に考慮して判断されます。

手術は、長年悩まされてきた痛みから解放され、生活の質を大きく改善する可能性を秘めた治療法です。しかし、費用や入院期間、術後のリハビリなど、乗り越えるべき過程も存在します。

最終的に大切なのは、ご自身の症状やライフスタイルに合った最良の選択を、専門医と十分に相談しながら見つけていくことです。この記事が、後悔のない決断を下すための一助となれば幸いです。

FAQ(よくある質問)

Q1: 変形性膝関節症の手術の基準はありますか?
明確に定められた単一の基準はありません。日本整形外科学会の診療ガイドラインにも、グレードや保存療法の継続期間で手術適応を線引きする基準は示されていません。実際には、痛みの程度やQOLの低下具合、年齢、活動性、本人の希望などを総合的に評価して判断されます。
Q2: 人工膝関節手術の入院費用はいくらくらいですか?
医療費の総額は高額になりますが、健康保険が適用され、さらに高額療養費制度によって窓口負担に上限が設けられます。令和8年(2026年)8月からの制度では、厚生労働省の例示として、70歳未満・年収約370万〜約510万円の方が医療費100万円の治療を受けた場合の自己負担は約9.3万円までとされています。上限額は年齢と所得で変わるため、マイナ保険証の利用または「限度額適用認定証」の申請とあわせて、ご加入の保険者にご確認ください。
Q3: 変形性膝関節症ステージ3の場合、必ず手術が必要ですか?
必ずしも手術が必要というわけではありません。ステージ(グレード)3であっても、保存療法で痛みがコントロールできており、日常生活に大きな支障がなければ、そのまま経過を観察することもあります。手術を検討するのは、保存療法では痛みが十分に取れず、QOLが著しく低下している場合です。
Q4: 手術後の痛みはいつまで続きますか?
人工膝関節置換術では、手術前にあった関節の痛みは基本的になくなりますが、関節周囲の筋肉をはがす手術操作による痛みがしばらく残り、術後に徐々に取れていきます。退院後の外来リハビリの目安が3ヶ月程度とされていることから、機能の回復にはその程度の期間を見込んでおくとよいでしょう。回復の速さには個人差があります。
Q5: 手術後の生活で、してはいけないことはありますか?
手術方法によって異なります。人工膝関節置換術を受けた後は正座ができなくなり、生活様式も和式より椅子・ベッドを使う洋式中心への切り替えが勧められます。体重増加は人工関節に悪影響があるため適切な体重維持も必要です。重いものを持つこと、ジャンプや激しい接触を伴うスポーツについては制限されることが一般的で、具体的な範囲は必ず主治医の指示に従ってください。
Q6: 変形性膝関節症の手術に「名医」はいますか?どうやって探せば良いですか?
いわゆる「名医」の定義は難しいですが、一つの指標として、日本整形外科学会認定の「整形外科専門医」であることや、膝関節外科を専門とし手術件数が豊富な医師であることが挙げられます。同学会のサイトでは都道府県や勤務先から専門医を検索できます。病院のウェブサイトで医師の専門分野や実績を確認したり、かかりつけ医に専門医を紹介してもらったりする方法もあります。最も重要なのは、患者さんと真摯に向き合い、十分に説明してくれる信頼できる医師を見つけることです。