「最近、親の物忘れがひどくなってきた気がする」

「自分も名前がパッと出てこないことが増えたけれど、もしかして認知症?」

年齢を重ねれば誰にでも記憶力の低下は訪れます。

しかし、それが誰にでも起こる「加齢による自然な変化」なのか、それとも治療やケアが必要な「認知症の初期症状」なのか、その判断に迷い、不安を感じている方は少なくありません。

結論から申し上げますと、加齢による物忘れと認知症には、医学的な観点からいくつかの「見分け方の基準」が存在します。

この記事では、信頼できる公的機関の情報に基づき、単なる物忘れと認知症の決定的な違い、家庭で確認できるチェックリスト、そして医療機関を受診すべきタイミングについて、わかりやすく解説します。

不安を解消し、適切な一歩を踏み出すためにお役立てください。

※この記事は疾患啓発を目的としています。

もの忘れ・軽度認知障害でお困りの方へ

治験という方法で負担軽減費を受け取りながら、より良い治療の選択肢を見つける方が増えています。

※負担軽減費とは:治験協力者が負担する交通費や時間的拘束などがあるためお金が支給されます。

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加齢による物忘れと認知症の決定的な違い

一般的に「物忘れ(良性健忘)」と「認知症による記憶障害」は、似ているようでその性質は全く異なります。

まずは以下の表で全体像を把握しましょう(参考:国立長寿医療研究センター 1)。

特徴加齢による物忘れ(良性)認知症による物忘れ(病的)
記憶の範囲体験の一部を忘れる体験の全体を忘れる
自覚忘れたという自覚がある忘れた自覚がない
ヒント言われれば思い出せる言われても思い出せない
進行進行しない、または極めて緩やか徐々に進行する
日常生活支障はない支障が出てくる

最大のポイントは「体験の一部」か「全体」か

最もわかりやすい違いは、忘れている範囲です。

  • 加齢による物忘れ:
    「朝ごはんに何を食べたっけ?」とメニューを忘れるのは、体験の一部が抜け落ちている状態です。これは脳の老化現象として一般的です。
  • 認知症:
    「朝ごはんを食べたこと自体」を忘れてしまい、「まだ食べていない」と主張するのが特徴です。体験した事実そのものが記憶から消滅しています(参考:国立長寿医療研究センター 1)。

「忘れた自覚」があるか、ないか

「最近物忘れがひどくて困っている」と本人が悩み、メモを取るなどの工夫をしている場合は、加齢による物忘れの可能性が高いと言えます。

一方で、認知症の場合は「忘れていること自体を忘れている」ため、本人には困っている自覚があまりありません。

「財布を盗まれた」「誰かが隠した」といった、他人のせいにする(物盗られ妄想)症状が出るのも、自覚の欠如や記憶障害に起因することがあります(参考:日本神経学会 2)。

日常生活への支障(ヒントがあれば思い出せるか)

「あの人の名前、なんだっけ…ほら、あの眼鏡の…」といった場合、後から「ああ、〇〇さんだ!」と思い出せるなら、それは脳の引き出しが開けにくくなっているだけの状態です。

しかし、認知症の場合はヒントを出されても記憶が繋がらず、会話が成立しにくくなったり、約束の日時そのものを認識できなくなったりと、社会生活に支障をきたし始めます(参考:国立長寿医療研究センター 1)。

進行のスピードとその他の症状(見当識障害など)

加齢による物忘れは、数ヶ月単位で急激に悪化することは稀です。

一方、アルツハイマー型認知症などは進行性です(※急速に進行する場合は、慢性硬膜下血腫など別の脳疾患の可能性もあるため注意が必要です)。

また、認知症の特徴として、記憶だけでなく「見当識(けんとうしき)」の障害が現れます。

「今日が何月何日かわからない」「ここがどこかわからない」といった症状は、単なる物忘れでは通常起こりません(参考:大阪大学 3)。

その物忘れは危険信号?認知症セルフチェックリスト

「これって大丈夫?」と迷った時に確認したい、初期段階に見られるサインをまとめました。

ご自身やご家族の様子と照らし合わせてみてください(参考:国立長寿医療研究センター 1)(参考:大阪大学医学部附属病院 4)。

初期段階によくある「会話・行動」のサイン

  • [ ] 同じことを何度も聞く・言う
    (数分前に話した内容を繰り返し質問する)
  • [ ] 置き忘れ・しまい忘れが増えた
    (財布や鍵などの貴重品を頻繁に探し回る)
  • [ ] 日付や曜日がわからなくなる
    (ゴミ出しの曜日を間違える、予約日をすっぽかす)
  • [ ] 慣れた道で迷う
    (散歩のコースやスーパーへの道順がわからなくなる)
  • [ ] 家電製品やATMの操作ができなくなる
    (リモコン操作や電話の掛け方がわからなくなる)

家族が気づきやすい「性格・生活」の変化

記憶以外の変化は、同居している家族の方が気づきやすいものです。

  • [ ] 怒りっぽくなった
    (以前は穏やかだったのに、些細なことで激高する)
  • [ ] 身だしなみに無頓着になった
    (入浴を嫌がる、季節外れの服を着る、化粧をしなくなる)
  • [ ] 料理の味が変わった・レパートリーが減った
    (手順の複雑な料理を作らなくなった、味付けが極端に濃い・薄い)
  • [ ] 趣味や好きなことに興味を示さなくなった
    (以前は楽しんでいた囲碁や手芸などをやらなくなる)

※これらの項目に複数当てはまる場合は、専門機関への相談を検討してください。

認知症と物忘れの境界線「MCI(軽度認知障害)」とは

「物忘れよりは重いが、認知症というほど生活に支障はない」。

このようなグレーゾーンの状態をMCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)と呼びます。

正常でも認知症でもない「グレーゾーン」

MCIは、認知機能の低下は見られるものの、自立した生活は送れている状態です。

実は、このMCIの段階で気づけるかどうかが、その後の運命を大きく左右します。

なぜMCIの段階で気づくことが重要なのか

認知症に完全に移行してしまうと、現代の医学では完治させて元の状態に戻すことは困難です。

しかし、MCIの段階であれば、適切な予防や生活習慣の改善によって、一部の方は健常な状態に戻る(リバーシブル)可能性があります。

医療機関のデータでは、MCIの方の約30%前後が正常に回復するという報告もあります(参考:JCHO可児とうのう病院 5)。

あるいは、認知症への移行を遅らせることも期待できます。

「歳のせいだろう」と放置せず、この段階で適切な対策を打つことが極めて重要です(参考:国立長寿医療研究センター 6)。

病院へ行くべきタイミングと受診の手引き

「まだ早いかもしれない」と躊躇している間に、症状が進んでしまうことがあります。

以下のような状況であれば、早めに専門医へ相談することをおすすめします(参考:大阪大学医学部附属病院 4)。

こんな症状があったら専門医へ(受診の目安)

  • チェックリストの項目が多く当てはまる場合
  • 本人は「大丈夫」と言い張るが、家族から見て明らかに様子がおかしい場合
  • 「お金を盗られた」などの妄想が出ている場合
  • 半年前に比べて、明らかに症状が悪化していると感じる場合

何科を受診すべき?

認知症の診断や治療を行っている主な診療科は以下の通りです(参考:JCHO可児とうのう病院 5)。

  • 物忘れ外来(専門外来として設置されている場合)
  • 脳神経内科
  • 精神科・老年精神科
  • 老年内科

かかりつけ医がいる場合は、まずそこで相談し、専門病院を紹介してもらうのもスムーズな方法です。

本人が受診を嫌がる場合の誘い方

初期の認知症の方は、不安やプライドから受診を強く拒否することがあります。

「ボケた扱いをするな」と怒らせてしまうことも少なくありません。

そういった場合は、「認知症の検査に行こう」と正面から伝えるのではなく、以下のようなアプローチが有効です。

  • 「健康診断の一環として、脳の状態も診てもらおう」
  • 「最近眠れていないみたいだから、一度相談に行ってみよう」
  • 「私も心配だから、一緒についてきてほしい(ついでに受診)」

本人の尊厳を傷つけないよう、配慮のある言葉選びを心がけましょう。

脳の健康を守るために今からできる予防習慣

認知症は、発症の20年以上前から脳内での変化が始まっていると言われています。

MCIの方も、健康な方も、今日から脳に良い習慣を取り入れましょう(参考:国立長寿医療研究センター 6)。

食事・運動・コミュニケーションの重要性

  • 食事: バランスの良い食事を心がけましょう。生活習慣病(高血圧、糖尿病など)の管理も重要です。
  • 運動: 有酸素運動(ウォーキングなど)は、脳の血流を良くし、神経細胞を活性化させます。
  • コミュニケーション: 人との会話は脳への高度な刺激になります。社会活動への参加や、家族・友人との交流を絶やさないことが大切です。

デュアルタスク(ながら作業)のススメ

「2つのことを同時に行う」ことは、脳の前頭葉を鍛えるのに有効であり、国立長寿医療研究センターでは「コグニサイズ」として推奨されています(参考:国立長寿医療研究センター 6)。

  • 計算をしながら歩く(100から7を順番に引いていく、など)
  • しりとりをしながら洗濯物をたたむ
  • 歌を歌いながら料理をする

これらを楽しみながら生活に取り入れてみてください。

治験を試すのも一つの方法

病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。日本ではもの忘れや軽度認知障害でお困りの方に向け治験が行われています。

治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。

治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。


ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。

まとめ

認知症と単なる物忘れの違いは、「体験の全体か一部か」「自覚があるかないか」が大きな判断基準となります。

しかし、素人判断は危険な場合もあります。

もしご家族の様子が「いつもと違う」と感じたり、チェックリストで気になる点があったりした場合は、MCI(軽度認知障害)という「戻れる可能性のある段階」であることも含めて、早めに専門医へ相談することが、本人と家族の穏やかな未来を守ることに繋がります。

恐れすぎず、まずは正しい知識を持って、冷静に見守ることから始めましょう。

もの忘れや軽度認知障害に関するよくある疑問

Q. 若い人でも認知症になりますか?

A. はい、65歳未満で発症する認知症を「若年性認知症」と呼びます。

働き盛りの世代に発症するため、うつ病や更年期障害と間違われやすい傾向があります。

仕事上のミスが極端に増えた等の異変があれば、早めに専門医へ相談してください(参考:厚生労働省 7)。

Q. ストレスで物忘れがひどくなることはありますか?

A. あります。過度なストレスや疲労、うつ状態などは、脳の働きを鈍らせ、一時的に記憶力や集中力を低下させることがあります(仮性認知症とも呼ばれます)。

この場合は、原因となるストレスのケアや休養、治療によって改善が見込めます(参考:日本神経学会 2)。

参考資料・文献一覧

  1. 国立長寿医療研究センター「もの忘れと認知症の違いはどのようなものでしょうか?」 https://www.ncgg.go.jp/dementia/about/007.html
  2. 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo_2017.html
  3. 大阪大学「認知症かな?と思ったら」 https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/story/2019/2k9inj
  4. 大阪大学医学部附属病院「もの忘れ検査入院案内」 https://oumm.office.osaka-u.ac.jp/alumni/files/copy8_of_.pdf
  5. JCHO可児とうのう病院「もの忘れ外来」 https://kani.jcho.go.jp/patient/outpatient/%E3%82%82%E3%81%AE%E5%BF%98%E3%82%8C%E5%A4%96%E6%9D%A5/
  6. 国立長寿医療研究センター「MCIハンドブック」 https://www.ncgg.go.jp/ri/mcihandbook/

厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について」 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000547179.pdf