「うつ病で休職することになったけれど、傷病手当金がもらえないケースがあるって本当?」
「生活費が心配で、治療に専念できない……」
うつ病による休職は、体調の辛さに加えて「お金の不安」が大きくのしかかります。
健康保険の傷病手当金は、働けない期間の生活を支える重要な制度ですが、特定の条件を満たさない場合や誤った手続きによって「不支給(もらえない)」となってしまうケースが存在します(参考:全国健康保険協会 1)。
この記事では、うつ病で傷病手当金がもらえない代表的な6つの理由と、不支給を防ぐための正しい知識、万が一の対処法を分かりやすく解説します。
「自分は対象外かもしれない」と焦る前に、まずはこの記事で状況を整理し、安心して療養できる環境を整えましょう。
※この記事は疾患啓発を目的としています。

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うつ病でも傷病手当金が「もらえない」代表的な6つのケース
傷病手当金は、病気やケガで働けなくなった際に支給されるものですが、無条件でもらえるわけではありません。
特にうつ病の場合、以下の6つのケースに該当すると支給されない、あるいは支給がストップする可能性があります。
1. 仕事が原因のうつ病である(労災保険の対象)
最も誤解が多いのがこのケースです。
傷病手当金は、あくまで「業務外(プライベートなど)」の病気やケガに対する給付です(参考:全国健康保険協会 1)。
長時間労働やパワハラなど、「明らかに仕事が原因」でうつ病を発症した場合、それは「労災(労働災害)」の扱いとなります。
この場合、健康保険の傷病手当金ではなく、労災保険の「休業補償給付」を申請する必要があります。
原則として、この2つを重複して受け取ることはできません。
※ただし、精神障害の労災認定には調査に時間を要することが多いため、実務上は一時的に健康保険の傷病手当金を受給し、後から労災が認定された時点で返還・調整を行う手続きをとることも一般的です(参考:厚生労働省 5)。
2. 医師により「労務不能」と判断されていない
傷病手当金の支給には、医師による「労務不能(仕事ができない状態)」の証明が必須です(参考:全国健康保険協会 1)。
たとえ本人が「辛くて会社に行けない」と感じていても、医師が医学的見地から「労務可能」と判断した場合、申請書への証明が得られず、手当金は支給されません。
また、自己判断で通院を中断している期間については、医師は病状の経過を確認できないため証明を行うことができず、その期間分は不支給となる可能性があります(参考:厚生労働省 4)。
3. 休職中も会社から給与が出ている
傷病手当金は「給与が出ない(生活費がない)期間の補償」です。
そのため、会社の福利厚生などで休職中も給与が満額支払われている場合は支給されません。
ただし、支払われている給与額が「傷病手当金の支給額(給与の約3分の2)」よりも少ない場合は、その差額分だけ受け取ることができます(参考:全国健康保険協会 1)。
4. 加入期間や待期期間の条件を満たしていない
制度上の厳格な条件を満たしていないケースです。
- 待期期間の不成立: 支給には「連続して3日間」仕事を休む待期期間が必要です。この3日間に有給休暇や公休日(土日祝)が含まれていても問題ありませんが、この期間中に一部でも出勤してしまうと「連続した3日間」が成立せず、待期が完成しません(参考:全国健康保険協会 1)。
- 国民健康保険(国保)の加入者: 自営業やフリーランス等が加入する国民健康保険には、原則として傷病手当金の制度がありません(※新型コロナウイルス感染症に関する特例を除く)。
- 退職後の継続給付の条件: 退職後も引き続き給付を受ける場合、資格喪失日の前日(退職日等)までに継続して1年以上被保険者であった必要があります(在職中の受給にはこの期間要件はありません)(参考:全国健康保険協会 2)。
5. 申請書の不備や提出期限(時効)切れ
事務的なミスも不支給の原因になります。
特に注意が必要なのが「時効」です。
傷病手当金の申請権は、労務不能であった日ごとに、その翌日から2年で時効により消滅します。
ためらいや体調不良で申請を後回しにしすぎると、過去の分が請求できなくなる恐れがあります(参考:全国健康保険協会 1)。
6. 退職日に出勤してしまった
休職のまま退職し、その後も傷病手当金をもらい続けようと考えている方にとって、最大の落とし穴がこれです。
退職後の継続給付を受けるための絶対条件の一つに、「資格喪失日の前日(退職日)に傷病手当金を受けているか、または受けられる状態(労務不能かつ待期完成)にあること」があります(参考:全国健康保険協会 2、厚生労働省 3)。
もし、退職日に「最後の挨拶だから」「引き継ぎがあるから」と無理をして出勤してしまうと、「退職日には労務可能であった」とみなされ、その翌日以降の受給資格(継続給付の権利)をすべて失ってしまいます。
「仕事が原因」なら傷病手当金ではなく「労災」です
うつ病の原因が職場にある場合、「傷病手当金」と「労災保険」のどちらを使うべきか迷う方が多くいます。
ここで違いを整理しておきましょう。
傷病手当金と労災保険の違い
| 項目 | 傷病手当金(健康保険) | 休業補償給付(労災保険) |
| 対象 | 業務外の病気・ケガ | 業務上(仕事・通勤)の病気・ケガ |
| 給付額 | 給与(標準報酬月額)の約3分の2 | 給与(給付基礎日額)の約8割(特別支給金含む) |
| 治療費 | 3割負担 | 原則0円(全額補償) |
| 期間 | 通算1年6ヶ月 | 治癒するまで(または傷病年金へ移行) |
見ての通り、労災保険の方が補償内容は手厚くなっています。
明らかに業務上の強い心理的負荷が原因であれば、労災申請を検討すべきです(参考:厚生労働省 5)。
どちらを申請すべきか?
「会社が労災を認めたがらない」「認定に時間がかかる」というケースも少なくありません。
その場合は、まず当面の生活費を確保するために「健康保険の傷病手当金」を申請しつつ、「もし労災と認定されたら返還・調整します」という手続きをとる方法があります。
自己判断で諦めず、医師や社労士、労働基準監督署などの専門機関に相談することをお勧めします。
申請しても「不支給」と言われた場合の対処法
万が一「不支給決定通知書」が届いた場合でも、すぐに諦める必要はありません。
- 不支給の理由を確認・修正する
通知書には必ず理由が記載されています。「書類の記載ミス」「期間の重複」など、事務的な不備であれば、訂正して再申請することで認められる場合があります。
- 審査請求(不服申し立て)を行う
正当な理由があるにもかかわらず認められなかった場合、決定を知った日の翌日から3ヶ月以内に、各地方厚生局の社会保険審査官に対して「審査請求」を行うことができます。
- 障害年金の申請を検討する
傷病手当金の支給期間(通算1年6ヶ月)が終了しても、うつ病が治癒せず働けない状態が続いている場合は、「障害年金」への切り替えを検討しましょう。障害年金は、原則として初診日から1年6ヶ月経過していること(障害認定日)などが要件となりますが、長期的な経済的支えとなります。なお、傷病手当金と障害年金の両方を受け取れる期間については、金額の調整が行われます(参考:全国健康保険協会 1)。
うつ病で傷病手当金を受け取るための3つのポイント

スムーズに受給し、安心して治療に専念するためのポイントは以下の3点です。
1. 定期的に通院し、医師に現状を正しく伝える
「お金がないから通院回数を減らす」のは避けるべきです。
医師は診察していない期間の証明書を作成することはできません。
定期的に通院し、「食欲がない」「眠れない」「家事も手につかない」など、具体的な生活の困難さを医師に伝え、カルテに記録してもらうことが、確実な証明につながります(参考:日本うつ病学会 6)。
2. 申請書の期間と医師の証明期間を合わせる
申請書(本人記入)の「申請期間」と、医師意見書の「労務不能と認めた期間」は一致している必要があります。
ここがズレていると、健保組合から確認が入り、審査が長引く原因になります。
3. 会社との連携をスムーズに行う
傷病手当金の申請書には、会社が記入する「事業主の証明」欄(出勤していないこと、給与を払っていないことの証明)が必要です。
休職中は会社との連絡が心理的に負担になりがちですが、申請書を郵送でやり取りする手順を人事担当者と事前に確認しておくと、負担が減り、手続きもスムーズに進みます(参考:厚生労働省 4)。

病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。日本ではうつ病でお困りの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
最新の治療をいち早く受けられることがある
専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
うつ病に関するよくある疑問
Q. うつ病の「疑い」だけで診断書がない場合でも申請できますか?
A. できません。傷病手当金には医師の診断・証明が必須です。
「調子が悪いから会社を休んだ」という自己判断だけでは支給されず、必ず医療機関を受診し、医師による労務不能の証明を受ける必要があります。
Q. 退職してしまいましたが、今から申請できますか?
A. 在職中に条件(1年以上の被保険者期間、退職日に傷病手当金を受けられる状態であること等)を満たしていれば、退職後も期間の残りの分を申請可能です。
ただし、一度でも就労可能な状態になると、その後の受給権は消滅します(参考:全国健康保険協会 2)。
Q. 申請してから振り込まれるまで何ヶ月かかりますか?
A. 一般的に、不備がなければ申請書を提出してから2週間〜1ヶ月程度で振り込まれます。
ただし、初回申請や審査が必要な場合(労災疑義など)は時間がかかることもあるため、生活費には余裕を持っておくことが大切です。
まとめ
うつ病で傷病手当金がもらえないケースには、必ず制度上の「理由」があります。
- 労災(仕事原因)ではないか?
- 医師による労務不能の証明はあるか?
- 退職日に出勤していないか?
これらを事前にチェックし、正しく申請すれば、制度は療養生活の強い味方となります。
もし不安な点があれば、主治医や加入している健康保険組合、または社会保険労務士などの専門家に相談してみてください。
経済的な不安を一つずつ解消し、ご自身の回復を最優先に考えましょう。
参考資料・文献一覧
- 全国健康保険協会「傷病手当金について」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/hiroshima/kouhou/2023051601.pdf
- 全国健康保険協会「『傷病手当金』について(研修会資料)」 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/chiba/kenpoiin/kenpoiinkensyukai/291102002/291102003/291102004.pdf
- 厚生労働省 こころの耳「Q&A 第8回 退職後、傷病手当金の仕組みはどうなっているの?」 https://kokoro.mhlw.go.jp/mental-health-qa/mh-qa008/
- 厚生労働省 こころの耳「こころの病気 解説」 https://kokoro.mhlw.go.jp/mental-health-qa/mh-qa007/
- 厚生労働省「精神障害の労災認定」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120215-01.pdf
日本うつ病学会「日本うつ病学会治療ガイドライン Ⅱ.うつ病(DSM-5)/ 大うつ病性障害 2016」 https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/20190724.pdf
