「最近、人の名前がすぐに出てこない」

「買い物の支払いで小銭の計算に戸惑うようになった」

 ご自身やご家族にこのような変化があり、「もしかして認知症の始まりではないか?」と不安を感じていませんか。

結論から申し上げますと、認知症の一歩手前の段階である「軽度認知障害(MCI)」であれば、正常な状態に回復する(リバートする)可能性は十分にあります

軽度認知障害は、認知症への「進行」と正常な状態への「回復」のちょうど分かれ道に位置しています。

この段階で適切な対策をとるかどうかが、その後の人生を大きく左右します。

この記事では、公的な医学データに基づく回復率の真実と、認知機能を改善するために今日から始められる具体的な対策について、分かりやすく解説します。

※この記事は疾患啓発を目的としています。

軽度認知障害でお困りの方へ

治験という方法で負担軽減費を受け取りながら、より良い治療の選択肢を見つける方が増えています。

※負担軽減費とは:治験協力者が負担する交通費や時間的拘束などがあるためお金が支給されます。

治験ジャパンでは参加者の皆様に医療費の負担を軽減しながら、最新治療を受ける機会のご提供が可能です。

【結論】軽度認知障害(MCI)は「正常に戻る」可能性があります

「認知症になったらもう治らない」というイメージをお持ちの方は多いかもしれません。

しかし、軽度認知障害(MCI)の段階は、まだ認知症ではありません。

脳の機能は低下し始めていますが、自立した生活は送れている状態であり、適切な介入によって認知機能が正常に戻る(リバートする)ことが多くの研究で示されています。

認知症とは違う?「MCI」は重要な分岐点

軽度認知障害(MCI)は、健常者と認知症の中間にあたる「グレーゾーン」の状態です。

 厚生労働省の定義では、記憶力などの認知機能に低下は見られるものの、日常生活への支障は「ない」または「あっても軽微」である状態を指します(参考:厚生労働省 1)。

この段階で最も重要なことは、「MCIは可逆的(元に戻りうる)である」という事実です。

認知症の神経細胞の死滅とは異なり、MCIの段階での機能低下は、原因を取り除くことや脳への刺激によって回復の余地が残されています。

データで見る回復率(リバート率)

実際に、どのくらいの人が正常な状態に戻っているのでしょうか。

日本神経学会が発行する『認知症疾患診療ガイドライン2017』によると、MCIと診断された人を追跡調査した複数の研究において、1年間で約16〜41%の人が正常な認知機能に戻ったと報告されています(参考:日本神経学会 2)。

一方で、何も対策をせずに放置すると、1年間で約5〜15%の人が認知症へ進行するとされています。

つまり、MCIは「認知症の入り口」であると同時に、「引き返せる最後のチャンス」でもあるのです。

軽度認知障害から回復するために今日からできる4つの対策

では、具体的に何をすれば回復の可能性を高められるのでしょうか。

国立長寿医療研究センターなどのガイドラインに基づき、効果が期待できる4つの対策を紹介します。

1. 運動療法:頭と体を同時に使う「コグニサイズ」

単に体を動かすだけでも脳の血流は良くなりますが、MCI対策として特に推奨されているのが「コグニサイズ」と呼ばれる運動です。

これは「コグニション(認知)」と「エクササイズ(運動)」を組み合わせた造語で、頭で課題をこなしながら体を動かすトレーニングです(参考:国立長寿医療研究センター 3)。

【自宅でできるコグニサイズの例】

  • 計算ウォーキング: 足踏みをしながら、「100から3を順番に引いていく(100, 97, 94…)」などの計算を行う。
  • しりとりステップ: 左右にステップを踏みながら、家族としりとりをする。

このように「二つのことを同時に行う(デュアルタスク)」ことが、脳の前頭葉を強く刺激し、神経細胞の活性化を促します。

2. 食事習慣:脳を守る「バランス食」と減塩

脳の健康は、毎日の食事から作られます。

特定の食材を大量に食べるのではなく、栄養バランスの改善が基本です。

  1. 生活習慣病の予防:
    • 糖尿病や高血圧は、脳血管性認知症のリスク要因です。野菜を先に食べる(ベジファースト)、塩分を控えるといった基本的な食生活が、結果として脳を守ります。
  2. 魚と野菜を意識する:
    • 青魚に含まれるDHA・EPAや、緑黄色野菜に含まれる抗酸化物質は、脳の神経保護に役立つと考えられています。国立長寿医療研究センターのハンドブック等でも、バランスの良い食事が推奨されています(参考:国立長寿医療研究センター 3)。

3. 社会参加:会話と役割が脳を活性化する

「退職してから急に物忘れが増えた」というケースは少なくありません。

これは、人とのコミュニケーションや社会的役割が減少し、脳への刺激が減ることが一因です。

  1. 他者との交流:
    • 友人との会話、地域活動、習い事への参加は、高度な脳機能をフル活用します。
  2. 役割を持つ:
    • 家事を行う、ボランティアに参加するなど、「誰かの役に立っている」という感覚や責任感は、認知機能の維持に大きく貢献します。 引きこもりを防ぎ、外の世界とつながり続けることが、薬以上に強力なリハビリテーションとなります。

4. 睡眠と聴力のケア:見落としがちなリスク因子

意外に見落とされがちなのが、耳の聞こえと睡眠の問題です。

  1. 難聴のケア:
    • 難聴になると、脳に入ってくる情報量が激減し、脳が萎縮しやすくなります。聞こえにくさを感じたら、早めに耳鼻科を受診し、必要であれば補聴器を活用することが認知機能低下の予防になります(参考:日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 4)。
  2. 質の高い睡眠:
    • アルツハイマー型認知症の原因物質とされる「アミロイドβ」は、睡眠中に脳から排出されます。睡眠不足はゴミの排出を妨げるため、十分な睡眠時間を確保することが重要です。

軽度認知障害に「治療薬」はあるのか?

「病院に行けば、治る薬をもらえるのではないか?」と期待される方も多いでしょう。

ここでは、薬物療法の現状について解説します。

現在、MCIを「完治」させる特効薬はない

現時点では、「これを飲めばMCIが治る」と承認されている薬剤は存在しません

近年、アルツハイマー病の新しい治療薬(レカネマブ等)が登場し話題となりました。

ですが、これは原因物質を除去して「進行を抑制する」ための薬であり、失われた認知機能を元通りにする(治す)薬ではありません。

また、対象や投与条件も厳密に定められています。

基礎疾患の治療がカギとなる

「認知症の薬」はありませんが、MCIの原因となっている基礎疾患(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)を薬で治療することは非常に重要です。

脳の血管へのダメージを減らすことで、認知機能の低下を食い止め、改善に向かわせる土台を作ることができるからです。

早期発見が運命を分ける!チェックリストと受診の目安

MCIから回復できるか、認知症へ進行してしまうか。

その分かれ目は「早期発見・早期対応」にかかっています。

以下のようなサインがあれば、年齢のせいにせず、専門医への受診を検討してください。

【MCIの可能性を示すサイン】

  • 同じことを何度も言ったり聞いたりする。
  • 約束の日時や場所を間違えることが増えた。
  • 料理のレパートリーが減った、手順が分からなくなった。
  • 趣味や好きなことに対して興味がなくなった(無気力)。
  • 財布や通帳などを「盗まれた」と疑うようになった。

【受診先】

  • 物忘れ外来: 認知症の専門的な診断を行っています。
  • 脳神経内科・脳神経外科: 脳の画像検査などを含めた診断が可能です。
  • 精神科・老年精神科: うつ病などが原因の「仮性認知症」との鑑別も可能です。
治験を試すのも一つの方法

病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。日本では軽度認知障害の方に向け治験が行われています。

治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。

治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。


ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。

まとめ:MCIは「戻れる」チャンス。諦めずに対策を

軽度認知障害(MCI)は、決して絶望的な診断ではありません。

むしろ、「今ならまだ間に合う」「生活を見直すチャンスが得られた」と前向きに捉えるべき段階です。

  • MCIからは16〜41%の人が正常範囲に回復している。
  • コグニサイズ(運動)や食事、社会参加が回復のカギ。
  • 放置せず、早期に医療機関へ相談することが重要。

ご自身やご家族の将来を守るために、まずは今日、「散歩をしながら計算をする」「魚料理を一品増やす」といった小さな一歩から始めてみてください。

その行動が、脳の健康を取り戻す大きな力になるはずです。

参考資料・文献一覧

  1. 厚生労働省 e-ヘルスネット「軽度認知障害(MCI)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/kibou_00007.html
  2. 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」 https://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo_2017.html
  3. 国立長寿医療研究センター「あたまとからだを元気にするMCIハンドブック」 https://www.ncgg.go.jp/ncgg-overview/pamphlet/documents/mcihandbook-v2.pdf
  4. 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「難聴と認知症」 https://owned.jibika.or.jp/hearinglossanddementia