「肝硬変と言われたけれど、今日から何を食べればいいの?」
「レバーやしじみは肝臓に良いと聞いていたのに、ダメって本当?」
肝硬変の診断を受けた患者さん、またはその食事を管理するご家族は、毎日の食事を「何を食べてはいけないのか」という不安とともに迎えることが多いです。
結論から申し上げますと、肝硬変には「誰でも一律で食べてはいけない食品」は存在しません。
初期の段階(代償期)であれば、バランスの良い食事を摂ることが基本であり、過度な制限は必要ありません(参考:日本肝臓学会 1)。
しかし、あなたの病状(代償期か非代償期か)や合併症(静脈瘤や腹水、黄疸、脳症など)の有無によって、「食べてはいけないもの」が変化するという複雑な事実があります。
特に、「肝臓に良い」という一般通説(レバーやしじみ等)が、病態によっては「食べてはいけないもの」に反転するケースもあり、正しい知識が必要です。
この記事では、最新のガイドラインに基づき、病状別に「注意すべき食品」を整理し、安全に食事を楽しむための知識を徹底解説します。
※この記事は疾患啓発を目的としています
命に関わる危険も?即座に避けるべき3つの食品カテゴリ
肝硬変において最も優先すべきは、合併症による急変を防ぐことです。
特に以下の3つのカテゴリは、条件に当てはまる場合、直ちに制限する必要があります。
①【食道静脈瘤がある方】硬いもの・熱いもの・刺激物
食道静脈瘤がある場合、血管は非常に脆く、破れやすい状態になっています。
ここに物理的な刺激が加わると、破裂による大出血(吐血)を引き起こすリスクがあります。
栄養素の問題以前に、物理的な「硬さ」や「刺激」を避けることが最優先です。
注意すべき食品リスト
- 硬い食品: 固焼きせんべい、ナッツ、フランスパン、魚の骨、硬いスナック菓子など。
- 熱すぎるもの: 沸騰したてのスープやお茶(食道の粘膜を傷つけます)。
- 強い刺激物: 極端に辛い香辛料など。
コーヒーについて
かつては刺激物として避けられることもありましたが、現在ではコーヒーの摂取は肝がんの発生リスクを低下させる可能性が示されており、ガイドラインでも推奨されています(参考:日本肝臓学会 1)。
ただし、食道静脈瘤がある場合は「熱すぎる温度」が刺激となるため、人肌程度に冷ましてから飲むようにしましょう。
②【免疫力が低下している方】刺身・生卵などの「生もの」
肝機能が低下すると、身体の免疫システムも弱まります。健康な人なら問題ない微量の菌でも、肝硬変の患者さんにとっては命取りになることがあります。
特に注意が必要なのが、夏場の魚介類に含まれるビブリオ・バルニフィカスという細菌です。
肝疾患のある方が感染すると、重篤な敗血症を引き起こし、致死率が高くなることが知られています(参考:厚生労働省 2)。
避けるべき食品
- 生の魚介類: 刺身、寿司、加熱不十分な魚介類。
- 生の肉・卵: ユッケ、生卵など。
魚・肉・卵は必ず中心まで火を通すことを鉄則としてください。
③【腹水・むくみがある方】塩分の多い加工食品・汁物
お腹に水が溜まる(腹水)や、足のむくみがある場合、塩分は最大の敵です。
体内の塩分濃度が高まると、身体は水分を溜め込もうとし、症状が悪化します。ガイドラインでは、腹水がある場合の塩分制限として1日5g〜7gが推奨されています(参考:日本肝臓学会 1)。
制限の目安
- 1日の塩分摂取量:5g〜7g程度。
- 水分制限:腹水やむくみが高度な場合や、血中のナトリウム濃度が低い場合には、主治医の指示により水分制限(例:1日1,000mL程度)が必要になることがあります(参考:日本消化器病学会・日本肝臓学会 3)。
注意すべき「隠れ塩分」食品
漬物、ハム・ソーセージ、インスタント麺のスープ、干物など。
「肝臓に良い」は間違い?肝硬変患者が誤解しやすい「鉄分」の罠
ここが多くの患者さんが混乱するポイントです。一般的に「肝臓=レバーやしじみ」という通説がありますが、病状によっては逆効果となることがあります。
レバー・しじみ・ウコンは食べてはいけない?
C型肝炎やNASH(非アルコール性脂肪肝炎)に由来する肝硬変の場合、肝臓は鉄分を過剰に溜め込みやすい状態になっていることがあります。
過剰な鉄分は活性酸素を生み出し、肝臓の細胞を傷つけ、病気の進行を早めてしまいます(参考:広島県 4)。
注意が必要な食品(鉄分が多いもの)
- レバー、その他の内臓類。
- しじみ、アサリ、カキなどの貝類。
- ウコン(製品によっては鉄分を多く含む場合があります)。
結論:
特にC型肝炎やNASHの方は、自己判断で「肝臓に良さそうだから」とレバーやしじみの濃縮エキス等を摂取するのは避け、主治医に相談してください。
赤身肉と白身魚、どっちを選ぶべき?
鉄分制限が必要な場合、タンパク質源の選び方も重要です。
- 控えめにすべき: 赤身の肉や魚(マグロ、かつお、血合い部分)。
- 推奨される食材: 鶏肉、白身魚、豆腐・大豆製品、卵(加熱調理)。
【ステージ別チェック】代償期と非代償期の食事ルール
肝硬変の食事療法は、病状が落ち着いている「代償期」と、症状が出ている「非代償期」で大きく方針が変わります(参考:日本消化器病学会・日本肝臓学会 3)。
① 代償期(自覚症状がほとんどない時期)
腹水や黄疸、脳症など合併症のない時期です。この時期の目標は「現在の肝機能を維持し、筋肉を落とさないこと」です。
特定の食品を極端に制限する必要はありません。
「バランスの良い食事」を心がけ、食べ過ぎ(過栄養)による脂肪肝の悪化を防ぎましょう。
もちろん、禁酒は必須です。
② 非代償期(黄疸・腹水・脳症などの症状がある時期)
合併症が現れている時期です。症状に合わせたコントロールが必要です。
- 肝性脳症がある場合(便秘・タンパク質制限)
アンモニア値の上昇を防ぐため、一時的にタンパク質を制限することがあります。ただし、長期的な制限は筋肉減少(サルコペニア)を招くため、アミノ酸製剤(BCAA)を活用して栄養を補う治療が行われます。また、便秘はアンモニア吸収を促進するため、排便コントロールが極めて重要です(参考:日本肝臓学会 1)。 - 腹水がある場合(塩分制限)
前述の通り、塩分摂取量を1日5〜7gに制限します。
「空腹」も実はNG?肝臓を守る「夜食療法(LES)」
「食べてはいけないもの」を気にするあまり、食事を抜いていませんか?
実は肝硬変の患者さんは、空腹時間が長いと肝臓が「飢餓状態」になりやすいことが分かっています。
なぜ「長い空腹」がいけないのか
夕食から翌朝まで何も食べないと、肝硬変の肝臓はエネルギー不足に陥り、筋肉を分解してエネルギーを作ろうとします。
これが筋肉量の減少(サルコペニア)やこむら返りの原因となります(参考:日本肝臓学会 1)。
寝る前の200kcal!夜食療法(LES)の実践法
この「夜間の飢餓」を防ぐために推奨されているのが、LES(Late Evening Snack:就寝前補食)です。
- 方法: 就寝前に約200kcalの軽食(炭水化物やBCAAなど)を摂ります。
- おすすめメニュー: おにぎり1個、パン1枚、バナナ、ヨーグルト、または医師から処方されたBCAA製剤など。
- 注意: 肥満や糖尿病がある場合は、1日の総カロリーの中に含める形で調整が必要です。必ず主治医や管理栄養士の指導下で行ってください(参考:厚生労働省研究班 5)。
治験を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。
日本では肝硬変でお悩みの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。
例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
・最新の治療をいち早く受けられることもある
・専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
・治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。
実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
>>治験ジャパン新規登録はこちら<<まとめ:医師の指示が最優先!自己判断せず「楽しく」制限しよう
肝硬変の食事療法で最も大切なことは、「現在の自分のステージに合った制限」を正しく行うことです。
- 静脈瘤がある人: 硬いもの、熱すぎるものを避ける。
- 免疫低下: 生もの(刺身・生卵など)は避け、必ず加熱調理する。
- 腹水・むくみ: 塩分(5-7g)を管理する。
- C型肝炎・NASH: 鉄分(レバー、しじみ)の過剰摂取に注意する。
- 全ステージ共通: 禁酒と、空腹を避ける夜食療法(LES)の検討。
食事は治療の一環ですが、毎日の楽しみでもあります。
「あれもダメ、これもダメ」と悲観するのではなく、正しい知識を持って「これは食べてOK」「こう工夫すれば美味しい」という選択肢を広げていきましょう。
ただし、食事療法は必ず医師の指示のもと行うようにしてください。
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参考資料・文献一覧
1.日本肝臓学会 https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/guideline/pdf/kankouhen2020_re.pdf
2.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/060531-1.html
3.日本消化器病学会・日本肝臓学会 https://www.jsge.or.jp/committees/guideline/disease/pdf/kankouhen_2023.pdf
4.広島県(広島大学病院等監修) https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/526685.pdf
5.厚生労働省研究班 https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2010/103131/201030005A/201030005A0006.pdf