「水いぼ」と聞いて、「子供の病気では?」と疑問に思う方も多いでしょう。
しかし、実際には大人も特定の状況下で感染する可能性があります。
特に性器周辺への発症や、免疫力が低下している場合に注意が必要です。
記事の要点:成人の水いぼはまれですが、性器周辺や免疫力が低下しているときに発症しやすくなります。治療は自然に治るのを待つか、医療機関で摘除するかの選択が中心となります。
この記事では、症状の見分け方から、感染する場面、具体的な治療法と費用、自分でできるケア、そして受診までの流れを皮膚科医 川島眞医師監修のもと詳しく解説します。
大人の水いぼとは?
大人の水いぼは、正式には「伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)」と呼ばれるウイルス性の皮膚感染症です。
水いぼの見た目とサイズ
水いぼは、以下のような特徴的な見た目をしています。
- サイズ: 直径1〜5mm程度の、肌色から少し赤みがかったドーム状の盛り上がりです。
- 質感: 表面には光沢があり、ツルッとしています。
- 中央のくぼみ: 最大の特徴は、中心部がへこんでいる「中央陥凹(ちゅうおうかんおう)」が見られることです(参考:厚生労働省 1)。
成人で出やすい部位(性器・下腹部・太もも内側 ほか)

子供が体幹や手足に発症しやすいのに対し、大人は以下の部位に好発する傾向があります。
- 陰部・性器周辺
- 下腹部
- 太ももの内側
- わきの下
- 胸周り
特に性行為を介して感染することが多いため、性器周辺に集中して見られるのが成人例の特徴です。
「水いぼとニキビ/粉瘤/コンジローマ」の違い
水いぼは、他の皮膚のできものと見間違えやすいことがあります。
特に性器周辺にできた場合は、尖圭コンジローマとの鑑別が重要です(参考:日本性感染症学会 2)。
特徴 | 水いぼ(伝染性軟属腫) | ニキビ | 粉瘤(アテローム) | 尖圭コンジローマ |
---|---|---|---|---|
見た目 | 光沢のあるドーム状、中央にくぼみ | 赤みがあり、中心に膿を持つことがある | ドーム状のしこり、中心に黒い点(開口部) | カリフラワー状、鶏のトサカ状 |
表面の質感 | ツルッとしている | 炎症の程度による | なめらか | ザラザラ、ブツブツしている |
痛み/かゆみ | かゆみを伴うことがあるが、痛みは少ない | 炎症が強いと痛む | 感染すると赤く腫れて痛む | 痛みやかゆみは少ない |
原因 | ウイルス(伝染性軟属腫ウイルス) | アクネ菌の増殖 | 皮膚の下に袋状の構造物ができる | ウイルス(ヒトパピローマウイルス) |
ご自身のできものを確認する際は、「①表面はツルッとして光沢があるか」「②中央にくぼみがあるか」「③痛みよりかゆみを感じるか」の3点を確認すると、水いぼの可能性を判断する助けになります。
ただし、自己判断は禁物であり、正確な診断のためには必ず医療機関を受診してください。
大人の水いぼはうつるの?場面別リスク
水いぼは接触感染でうつります。ウイルスが含まれるいぼの内容物が、皮膚の小さな傷などから入り込むことで感染が成立します。
家族内(日用品共有の注意:タオル/カミソリ/衣類)
家庭内では、皮膚が直接触れ合うことの他に、物を介した間接的な接触にも注意が必要です。
- タオルやバスタオルの共有
- カミソリの共有
- 衣類や寝具の共有
- スポンジや軽石の共有
これらの日用品を共有すると、感染リスクが高まります。
水いぼがある場合は、個人専用のものを使い、家族への感染を防ぎましょう。
プール/温泉/ジム:水ではなく器具や肌接触が主
「プールに入ると水いぼがうつる」と誤解されがちですが、プールの水自体で感染することはほとんどありません。
主な感染経路は以下の通りです。
- ビート板、浮き輪、タオルなどの物品の共有
- 体を洗い合うなどの肌と肌の直接的な接触
- ジムでのトレーニング器具やヨガマットの共有
厚生労働省の見解でも、タオルなどを共有しなければプールに入ることを禁止する必要はないとされています(参考:厚生労働省 3)。
ただし、患部を覆うなどの配慮は大切です。
性行為:成人は陰部中心の発症あり
成人における水いぼの最も重要な感染経路が性行為です。
性器周辺の皮膚が直接触れ合うことで感染が起こります。
陰部に水いぼが認められる場合、性感染症(STI)として扱われることがあります(参考:日本感染症学会 4)。
パートナーに感染を広げないため、症状がある間の性行為は避けるべきです。
コンドームの使用は感染リスクをある程度低下させますが、覆われていない部分からの感染は防げません。
パートナーにも同様の症状がないか確認し、必要であれば一緒に検査・治療を受けることが望ましいです。
大人水いぼの治療はどう選ぶ?
大人の水いぼの治療は、「積極的に除去するか」「自然に治るのを待つか」の二つが大きな選択肢となります。
どちらを選ぶかは、個人の状況によって異なります。
治療方針を決める際には、以下の点を総合的に考慮します。
- 個数: 少数か、多数に広がっているか。
- 部位: 性器周辺など、パートナーへの感染リスクが高い場所か。
- 症状: かゆみが強く、掻き壊して「とびひ(伝染性膿痂疹)」になるリスクはないか。
- 拡大速度: いぼの数が増えるスピードが速いか。
- 職業・生活上の制約: 人と接する機会が多い職業(エステティシャン、マッサージ師など)や、早期治癒を望むか。
治療オプション比較表
医療機関で行われる主な治療法は以下の通りです。
治療法 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
摘除(トラコーマ鉗子) | 専用のピンセットでいぼをつまみ、内容物を掻き出す方法。 | 最も確実で、早く治る可能性がある。 | 痛みを伴う。出血することがある。事前に麻酔テープ(ペンレステープなど)を使用することで痛みを緩和できる。 |
冷凍凝固(液体窒素) | マイナス196℃の液体窒素でいぼを凍らせて壊死させる方法。 | 摘除よりは痛みが少ない傾向。 | 1〜2週間おきに数回の通院が必要。痛みや水ぶくれ、色素沈着のリスクがある。 |
外用薬 | 硝酸銀ペーストやサリチル酸ワセリン、銀イオン配合クリームなど。 | 痛みがほとんどない。自宅でのケアが可能。 | 治癒までに時間がかかる。保険適用外(自費診療)となる場合がある。 |
内服薬 | ヨクイニン(ハトムギのエキス)やシメチジンなど。 | 痛みがなく、飲むだけの手軽さ。 | 治療の補助的な位置づけで、効果には個人差がある。科学的根拠(エビデンス)は限定的。 |
経過観察 | 治療せず、自然に免疫ができて治るのを待つ方法。 | 痛みや費用がかからない。 | 治るまでに数ヶ月〜数年かかることがある。その間に数が増えたり、他人にうつしたりするリスクがある。 |
Q&A:「市販薬は効く?」「つぶして良い?」
Q. イボコロリなどの市販薬は効きますか?
A. いいえ、使用してはいけません。
市販のイボ治療薬は、主に「尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)」という別の種類のイボを対象としています。
水いぼに使用すると、周囲の皮膚を傷つけ、かえってウイルスをまき散らして症状を悪化させる危険性があります。
Q. 自分でつぶしても良いですか?
A. 絶対にやめてください。
いぼを自分でつぶすと、中からウイルスが飛び散り、他の部位に広がったり(自家接種)、家族にうつしたりする原因になります。
また、細菌による二次感染を起こすリスクもあります。
大人の水いぼはどれくらいで治る?再発は?
大人の水いぼの治癒にかかる期間は、個人差による部分が大きいです。
また、生活習慣によっては再発の可能性もあります。
自然治癒の目安(数か月〜数年の幅)と再感染の管理
治療をせず経過観察を選んだ場合、治癒までの期間には大きな個人差があります。
一般的には、数ヶ月から2〜3年で自然に消退すると言われています(参考:アメリカ疾病予防管理センター 5)。
ただし、これはあくまで目安であり、その間に数が増えたり減ったりを繰り返すこともあります。
また、一度治癒しても、ウイルスに対する免疫が不十分な場合や、外部から再度ウイルスに接触した場合は再感染する可能性があります。
再発/多発時に見直すべきポイント
水いぼがなかなか治らない、または次々に新しいものができる場合は、以下の点を見直してみましょう。
- 免疫力の状態: 過労、ストレス、睡眠不足などで免疫力が低下していないか。
- 生活習慣: バランスの取れた食事や適度な運動を心がけているか。
- スキンケア: 肌が乾燥するとバリア機能が低下し、ウイルスの侵入を許しやすくなります。保湿を徹底し、皮膚を健康な状態に保つことが重要です。
大人のいぼならではの注意点
時に大人の水いぼは注意が必要なサインともなり得ます。
HIV/免疫不全の鑑別が必要なサイン
通常、健康な成人ではまれな水いぼが、以下のような特徴をもって現れた場合は注意が必要です。
- 非常に多数(数十〜数百個)出現する
- 一つ一つが大きい(巨大化する)
- 顔面や性器に多発する
これらのサインは、背景にHIV感染症やその他の疾患による免疫不全状態が隠れている可能性を示唆します(参考:日本性感染症学会 6)。
このような場合は単なる皮膚疾患としてではなく、全身の状態を評価するために血液検査などが必要になることがあります。
アトピー/乾燥肌とバリア低下
アトピー性皮膚炎や乾燥肌の人は、皮膚のバリア機能が低下しているため、外部からの刺激に弱く、ウイルスの侵入を許しやすい状態にあります。
日常的な保湿ケアで皮膚のうるおいを保ち、バリア機能を正常に維持することが、感染予防・悪化防止につながります。
妊娠中・基礎疾患ありのときの対応
妊娠中の方や、何らかの基礎疾患で治療中の方が水いぼに感染した場合、治療法の選択には慎重な判断が求められます。
痛みを伴う摘除や、胎児への影響が不明な内服薬は避け、安全性の高い外用薬や経過観察が中心になることが多いです。
必ずかかりつけの医師や皮膚科医に相談しましょう。
大人水いぼのセルフケア&生活の工夫
水いぼの感染を広げず、悪化させないためには、日々のセルフケアが非常に重要です。
触らない・かき壊さない・保湿/ラッシュガード活用/共有物の回避
- 触らない、掻かない: 水いぼを無意識に触ったり、かゆみで掻き壊したりすると、ウイルスが周囲に広がり、自家接種の原因となります。
- 保湿を徹底する: 入浴後は必ず保湿剤を塗り、皮膚の乾燥を防ぎましょう。
- ラッシュガードの活用: プールや海では、患部をラッシュガードで覆うと、他人との接触や物品の共有による感染拡大を防ぐのに有効です。
- 共有物を避ける: タオル、カミソリ、衣類などは個人専用にし、家族への感染を防ぎましょう。
温泉・プール・スポーツ時の感染配慮リスト
- 患部を直接こすらない、触らない
- タオルやビート板などの物品は共有しない
- 患部を絆創膏や防水フィルムで覆う(ただし、かぶれに注意)
- 激しい接触を伴うスポーツ(柔道、レスリングなど)は治るまで控える
- 運動後は速やかにシャワーを浴び、清潔を保つ
受診の流れと費用の目安
大人の水いぼで病院へ行く際何科に行くべきか、また、その費用について解説します。
どこへ行く?(皮膚科/性感染症外来の切り分け)
- 皮膚科: 体、手足、顔など、性器以外にできものができた場合は、まず皮膚科を受診するのが一般的です。
- 性感染症外来(泌尿器科・婦人科):できものが性器やその周辺に集中している場合や、性行為による感染が強く疑われる場合は、性感染症外来が適しています。
これらの科では、尖圭コンジローマなど他の性感染症(STI)との鑑別もスムーズに行えます。
初診〜治療〜再診の流れ
- 初診: 医師が視診で診断します。必要に応じてダーモスコピー(拡大鏡)で詳しく観察します。治療方針を相談して決定します。
- 治療: 摘除や冷凍凝固を行う場合、その場で処置をします。外用薬や内服薬の場合は処方されます。
- 再診: 冷凍凝固の場合は1〜2週間後に再度処置を行います。摘除の場合も、取り残しがないか、新しいものができていないかを確認するために再診が必要です。
- 平均的な通院回数: 治療法や個数によりますが、摘除なら1〜3回、冷凍凝固なら3〜5回程度が目安です。
費用(保険適用の場合の目安):
- 初診料+処置料: 3割負担で2,000円〜4,000円程度(処置するいぼの数によります)
- 再診料+処置料: 1,000円〜3,000円程度 ※麻酔テープや保険適用外の外用薬を使用する場合は、別途自費で料金がかかります。
新たな治療法を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。
日本では水いぼでお悩みの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。
例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
・最新の治療をいち早く受けられる
・専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
・治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。
実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
大人水いぼのよくある質問に皮膚科医 川島眞医師が回答
Q. 大人に水いぼはうつりますか?
A. はい、うつります。特に皮膚のバリア機能が低下している場合や、性行為を介して感染することがあります。
Q. 放置すれば治りますか?
A. 多くは数ヶ月〜数年で自然に治りますが、その間に増えたり、他人にうつしたりするリスクがあります。
Q. 首や顔にできた場合はどうすれば良いですか?
A. 顔や首は目立つ部位であり、掻き壊すと跡に残りやすいため、早期に皮膚科で相談し、摘除や外用薬など、跡が残りにくい治療法を選択することをお勧めします。
Q. 市販薬は効きますか?
A. 自己判断での市販薬の使用は症状を悪化させる危険があるため、避けてください。
Q. 治療は痛いですか?
A. ピンセットでの摘除は痛みを伴いますが、麻酔テープで緩和できます。冷凍凝固はチクチクとした痛み、外用薬や内服薬は痛みはありません。
Q. 職場やプールは休む必要がありますか?
A. 通常、休む必要はありません。ただし、職場が人と肌が触れ合うような環境であったり、プールではタオルを共有しない、患部をラッシュガードで覆うなどの配慮が必要です。
まとめ
大人の水いぼは、子供の病気というイメージとは異なり、性感染症としての側面や、免疫状態の指標となりうる重要な皮膚疾患です。
多くは自然に治癒しますが、性器周辺にできた場合や、数が多い・急速に増えるといった場合は、パートナーへの感染や背景にある疾患の可能性も考え、早期に医療機関を受診することが不可欠です。
この記事で解説したセルフケアを実践し、感染拡大を防ぎながら、ご自身の状況に合った治療法を専門医と相談して選択してください。
この記事が、あなたの不安を解消し、適切な行動へ踏み出す一助となれば幸いです。
参考資料・サイト一覧
1.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11921000-Kodomokateikyoku-Soumuka/0000199015.pdf
2.日本性感染症学会 https://jssti.jp/pdf/guideline2008/02-6.pdf
3.厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11921000-Kodomokateikyoku-Soumuka/0000199015.pdf
4.日本性感染症学会 https://jssti.jp/pdf/guideline2008/02-6.pdf
5.アメリカ疾病予防管理センター https://www.cdc.gov/molluscum-contagiosum/hcp/clinical-overview/index.html
6.日本性感染症学会 https://jssti.jp/pdf/guideline2008/02-6.pdf
記事監修者情報

Dクリニックグループ代表
日本皮膚科学会認定専門医として、アトピー性皮膚炎など皮膚疾患の診療・研究に長年従事。
本記事では医学的情報の正確性と内容監修を担当。
所属学会:
- 日本皮膚科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本皮膚アレルギー学会
- 日本香粧品学会
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