子宮頸がんは若い女性にも発症するリスクがあるがんで、その原因のほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)感染によるものです。
このHPV感染を防ぐ「子宮頸がんワクチン」は、世界中で予防策として広く採用されています。
しかし、日本での接種率は他国と比べて低いままです。
この記事では、日本の最新接種率データやその背景、世界との比較、ワクチンの効果や安全性、そして接種機会を逃した世代を救済する制度キャッチアップ接種の詳細を解説。
接種を迷っている方に向けたアドバイスもお届けします。
子宮頸がんワクチンの重要性
子宮頸がんワクチンの重要性について解説します。
子宮頸がんの発症率とHPVワクチンの関係
子宮頸がんは日本で毎年約1万1千人が罹患し、約2,900人が命を落としている深刻な病気です。
このがんの95%以上がHPV感染によるものとされており、性的接触を通じて感染するこのウイルスが主な原因と考えられています。
子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)は、このHPV感染を予防することで、発症リスクを大幅に下げることができます。
特に20代から40代の比較的若い女性に発症しやすい点が特徴で、早い段階での予防が重要です。
厚生労働省のデータによると、日本では子宮頸がんの発症率が近年増加傾向にあるとのこと。
また、子宮頸がんによる死亡率も減少せず、特に若年層での影響が懸念されています。
HPVワクチンはこうした状況を改善する鍵として期待されているのです。
参考:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001209535.pdf
ワクチン接種が推奨される理由
子宮頸がんワクチンが推奨される最大の理由は、その予防効果の高さにあります。
ワクチンはHPVの主要な発がん性タイプである16型や18型への感染を防ぎ、これにより子宮頸がんの50~90%を予防できるとされています。
さらに性交渉前の接種が最も効果的であるため、小学校6年生から高校1年生の女子を対象に定期接種が実施されています。
この時期に接種することで、将来のがんリスクを大幅に減らすことができるとされています。
世界保健機関(WHO)もHPVワクチンの接種を強く推奨しており、子宮頸がんを「予防可能ながん」と位置付けています。
実際にスコットランドやオーストラリアでは、ワクチン接種が進んだ結果、子宮頸がんの発症が劇的に減少した事例が報告されています。
日本でも同様の効果が期待される中、ワクチンの重要性が改めて注目されています。
参考:BMJグループ
https://www.bmj.com/content/365/bmj.l1161
世界的にワクチン接種が進んでいる背景
世界中で子宮頸がんワクチン接種が進む背景には、科学的根拠に基づく予防効果と、公衆衛生上の成果があります。
2020年時点で110カ国以上が公費による接種プログラムを導入し、特に先進国では接種率が80%を超える国も少なくありません。
これは子宮頸がんが公衆衛生上の大きな課題と認識され、ワクチンによる予防がコスト効果的かつ効果的な対策と判断されたためです。
例えば、オーストラリアでは2007年から全国的な接種プログラムが始まり、現在では子宮頸がんの撲滅が現実的な目標とされています。
このような成功例が、他の国々にも影響を与え、ワクチン接種の普及を後押ししています。
日本でもこうした流れに追随する動きが見られますが、接種率の低さが課題となっています。
参考:国立がん研究センター
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2023/0602/slide_HPVfactsheet2023.pdf
日本ではどのくらいの人が子宮頸がんワクチンを受けている?
日本における現在の子宮頸がんワクチンの接種率や推移を紹介します。
現在の日本の接種率
日本における子宮頸がんワクチンの接種率は、残念ながら先進国の中で非常に低い水準にあります。
厚生労働省が2024年1月に発表したデータによると、2022年度の定期接種対象者(12~16歳の女子)の初回接種率は約14.4%にとどまっています。
この数字は積極的勧奨が再開された2022年4月以降、少しずつ改善しているものの、依然として低いままです。
また、2023年度の接種実績を見ると、対象人口に対する実施率は約16%(速報値)と報告されています。
これに対し、例えば新型コロナウイルスワクチンの接種率が80%を超える日本において、HPVワクチンの普及が進まない現状が浮き彫りになっています。
参考:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001255917.pdf
接種率の推移(2000年代〜現在)
日本での子宮頸がんワクチン接種率は、歴史的な変遷をたどってきました。
2013年4月に定期接種として導入された当初は、接種率が70%近くまで上昇し、順調なスタートを切っていました。
しかし、同年6月に積極的勧奨が中止されると、接種率は1%未満に急落。
それ以降約8年間にわたり低迷が続きました。
2022年4月に積極的勧奨が再開され、接種機会を逃した世代を救済する制度であるキャッチアップ接種も開始されたことで、接種率は徐々に回復しつつあります。
特に2022年4月から2024年3月までの2年間で、約99万人が2回目接種を、約77万人が3回目接種を完了したと報告されています。
それでもかつての水準には程遠く、他国との差は依然として大きいままです。
10代・20代の接種率の変化
10代の接種率については、定期接種対象である12~16歳の女子を中心に緩やかな上昇が見られます。
特にキャッチアップ接種の対象者(1997~2008年度生まれの女性)では、20代前半の接種者が増加傾向にあります。
一方で20代後半以降になると、接種率はさらに低くなり、任意接種(自費)の費用負担が影響していると考えられます。
若年層への啓発が進む一方、年齢が上がるにつれて接種機会を逃す人が多いのが現状です。
日本の子宮頸がんワクチン接種率が低かった理由
他の先進国に比べ、日本の子宮頸がんワクチン接種率が低い理由について紹介します。
2013年の積極的勧奨中止の影響
日本の子宮頸がんワクチン接種率が低迷した最大の要因は、2013年の積極的勧奨中止です。
この年、接種後に体の痛みや運動障害などの症状が報告され、メディアで「副反応」として大きく取り上げられました。
厚生労働省は因果関係が不明なまま、勧奨を一時停止。
この決定により、接種率はわずか数カ月で70%から1%未満に急落しました。
その後約8年間にわたり勧奨が再開されなかったため、1997~2008年度生まれの女性を中心に接種機会を逃した世代が生まれています。
この影響は現在も尾を引き、ワクチンへの不信感が根強く残っているのです。
参考:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_qa.html
副反応への懸念とメディア報道
副反応への懸念は、メディアの報道姿勢によって増幅されました。
当時、科学的な因果関係が検証されないまま、接種後の症状がセンセーショナルに報じられたことで、世論が反ワクチンに傾きました。
しかし、その後の調査でこうした症状は接種歴のない人にも同様に発生することが分かり、ワクチン特有の副反応ではないとの結論に至っています。
厚生労働省の研究班による全国疫学調査では、12~18歳女子の10万人あたり20.4人が同様の症状を呈しており、ワクチン接種との直接的な関連は否定されています。
それでも当時の報道が与えた心理的影響は大きく、接種率の低下に拍車をかけたのです。
参考:厚生労働省
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/26725
近年の接種再開の動き
状況が好転し始めたのは、2022年4月の積極的勧奨再開からです。
国内外の研究でHPVワクチンの安全性と有効性が再確認され、厚生労働省が方針を転換。
キャッチアップ接種の導入や予防効果が高いとされる9価ワクチン(シルガード9)の公費接種開始など、接種環境の整備が進んでいます。
これにより少しずつではありますが、接種率は上向きつつあります。
世界の子宮頸がんワクチン接種率と比較
日本と同じ先進国における子宮頸がんワクチン接種率を紹介します。
各国の接種率
世界の子宮頸がんワクチン接種率を見ると、日本の低さが際立ちます。
イギリスでは接種率が約80%、オーストラリアでは約90%に達しており、韓国でも約70%と高い水準を維持しています。
これらの国々では、国の公費助成プログラムが整備され、学校での集団接種などアクセスのしやすさが確保されている点が特徴です。
特にオーストラリアは、2007年から全国的な接種を開始し、現在では子宮頸がんの前がん病変がほぼゼロに近づいています。
スコットランドでも13歳までに接種した世代で子宮頸がん発症がゼロになったと報告されており、ワクチンの効果が実証されています。
参考:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202205_00001.html
日本の接種率は他国と比べてどうなのか?
日本の接種率14.4%(2022年度)は、先進7カ国(G7)の中で最下位です。
カナダやイギリスが80%前後であるのに対し、日本の低さは顕著。
WHOが推奨する90%の目標にも遠く及ばず、子宮頸がん予防における国際的な遅れが指摘されています。
この差は積極的勧奨中止の影響や情報提供の不足が主な原因と考えられます。
高接種率の国ではどんな影響があったか?
高接種率の国では、子宮頸がんの減少だけでなく、集団免疫の効果も確認されています。
スコットランドの研究では、接種率の上昇により未接種者の前がん病変も大幅に減少し、高度異形成に至っては100%予防できたとされています。
これはHPVの感染者が減ることで、ウイルスが社会全体で広がりにくくなった結果です。
オーストラリアでも同様に、接種率約90%を達成したことで、子宮頸がんの罹患率が激減。
こうした成功例は、日本が目指すべきモデルとなり得ます。
子宮頸がんワクチンの効果と安全性の最新情報
子宮頸がんワクチンの有効性に関する最新情報を紹介します。
これまでの研究で証明されている有効性
子宮頸がんワクチンの有効性は、数々の研究で裏付けられています。
スウェーデンの大規模研究では、17歳までに接種した女性で子宮頸がんリスクが88%減少し、17~30歳でも53%減少したと報告されています。
また、9価ワクチン(シルガード9)は、子宮頸がんの80~90%を予防可能とされ、2023年から日本でも定期接種に採用されました。
英国やデンマークでも、適切な年齢での接種がリスクを9割近く下げるデータが示されており、ワクチンが子宮頸がん予防に極めて有効であることを示唆しています。
参考:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_qa.html
副反応は本当にリスクがあるのか?
副反応への懸念は根強いものの、科学的データはそのリスクが極めて低いことを示しています。
接種部位の痛みや腫れは8割以上の人に発生しますが、数日で自然に治まる軽度なもの。
重篤な副反応(アレルギーや神経症状)は、96万~860万回に1回の頻度と極めてまれです。
名古屋市の調査では、接種群と非接種群で24種類の症状に有意な差がなく、ワクチン特有のリスクは確認されませんでした。
こうした結果から、副反応への過度な不安は払拭されつつあります。
参考:厚生労働省、日本対ガン協会
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/chousa/dl/160212_02.pdf
https://www.jcancer.jp/about_cancer_and_checkup/hpv_vaccine
WHO・厚生労働省の見解
WHOは、HPVワクチンを「安全で効果的」と評価し、接種を強く推奨。
厚生労働省も、2017年の専門部会で「多様な症状とワクチンの因果関係は認められない」との見解を示し、2022年の勧奨再開を決定しました。
両機関とも予防効果が副反応リスクを大きく上回ると結論づけています。
キャッチアップ接種とは?
キャッチアップ接種は、積極的勧奨中止で接種機会を逃した世代を救済する制度です。
対象は1997年4月2日~2008年4月1日生まれの女性で、2022年4月から2025年3月31日まで公費で接種が受けられます。
予防効果の高いとされる9価ワクチンも含まれるため、最新の予防効果を無料で得られるチャンスです。
特に2025年3月末までに初回接種を開始すれば、残りの2回も2026年3月31日まで公費で対応可能。
この経過措置が設けられたことで、接種を検討する時間的余裕が確保されています。
対象者と受け方
対象者は過去に3回接種を完了していない女性で、約320万人と推定されます。
受け方は簡単で自治体から送られる予診票を持参し、指定の医療機関で接種するだけ。
事前に市区町村のウェブサイトで詳細を確認しておくとスムーズです。
費用はどのくらいかかる?
キャッチアップ接種は全額公費負担のため、自己負担はゼロ。
ただし、対象外の場合は任意接種となり、9価ワクチンで1回約3万円、3回で9万円程度かかります。
無料接種制度を活用できる今が、経済的にもお得なタイミングと言えるでしょう。
これから接種を考える方へのアドバイス
子宮頸がんワクチンを受けようか迷っているなら、まず効果とリスクを正しく理解することが大切です。
ワクチンは性交渉前に接種するのが理想ですが、性交渉後でも一定の予防効果が期待できます。
不安がある場合は、医師に相談し、個別の状況に応じたアドバイスをもらうのがおすすめです。
また、キャッチアップ接種の期限(2025年3月31日)が迫っているため、早めに決断することも重要。
接種は全国の医療機関や自治体の指定施設で可能です。
お住まいの市区町村の公式サイトで、対応医療機関一覧や予約方法を確認できます。
まとめ
子宮頸がんは予防できるがんです。
HPVワクチンはその第一歩として、あなたや大切な人の未来を守る力を持っています。
接種率が低い日本だからこそ、一人ひとりの選択が大きな変化を生む可能性があります。
ぜひ最新情報を確認し、自分に合った判断をしてください。