「靴を履くとズキっと痛い…」 「爪がどんどん皮膚に食い込んでいく感じがする…」
巻き爪の痛みは、日常生活の質を大きく下げる辛い症状です。
なんとかして自分でケアしたい、今すぐこの痛みを和らげたい、と考えるのは当然のことでしょう。
しかし、自己判断でのケアは症状を悪化させるリスクも伴います。
大切なのは安全なセルフケアの範囲を見極め、正しい知識に基づいて実践することです。
この記事を最後まで読めば、以下の3点が明確になります。
- 今すぐできる痛みの緩和法(応急処置)
- 安全なセルフケアと危険なNG例の見分け方
- 巻き爪を繰り返さないための根本的な生活習慣
この記事は、皮膚科専門医 川島裕平医師の監修のもと、医学的根拠に基づいた信頼性の高い情報を提供します。
その巻き爪、自分でケアできる?まずはセルフチェック
すべての巻き爪が自分でケアできるわけではありません。
まずはご自身の爪の状態を正しく把握し、セルフケアが可能かどうかを判断することが重要です。
危険なサイン?すぐに病院へ行くべき症状
以下のような症状が見られる場合、セルフケアは禁物です。
感染症や重度の炎症を起こしている可能性があり、放置すると悪化する場合もあります。
セルフケアをする前に専門の医療機関(皮膚科・形成外科など)を受診してください。
- 強い痛み:じっとしていても痛い、歩行が困難なほどの激しい痛み。
- 赤み・腫れ:爪の周りの皮膚が赤く、熱をもって腫れている。
- 膿(うみ):爪の脇から黄色や緑色の膿が出ている。
- 出血・滲出液:簡単に出血したり、透明な液体(滲出液)が止まらない。
- 肉芽形成(にくげけいせい):爪の食い込んだ部分に、赤く盛り上がったやわらかい肉の塊ができている。
- 爪の変色:爪が黒っぽく変色している。
これらのサインは、体が発している危険信号です(参考:日本創傷外科学会 1)。
自己判断で対処せず、必ず医師の診察を受けましょう。
セルフケアが可能な巻き爪のレベル
一方で以下のような初期段階の巻き爪であれば、セルフケアで痛みを緩和したり、進行を予防したりすることが可能です。
- 痛みは軽度で、靴を履いた時などに時々感じる程度。
- 爪の周りに赤みや腫れ、膿などはない。
- 爪の食い込みは感じるが、日常生活に大きな支障はない。
ただし、セルフケアはあくまで症状を緩和するための対症療法です。
根本的な解決を目指す場合や、少しでも不安がある場合は、専門医に相談することをお勧めします。
何科を受診すればいい?診療科ごとの特徴
巻き爪で病院にかかる場合、主に以下の診療科が選択肢となります。
それぞれの特徴を理解し、ご自身の症状に合った医療機関を選びましょう。
- 皮膚科:爪や皮膚の専門家。炎症や感染を伴う場合の治療(塗り薬や内服薬の処方)から、保存的治療(テーピング、コットンパッキング指導)まで幅広く対応します。巻き爪の初期症状で迷ったら、まずは皮膚科を受診するのが一般的です。
- 形成外科:ワイヤーやクリップを用いた矯正治療や、重度の場合の手術など、外科的なアプローチを得意とします。変形が強い場合や、他の治療で改善しなかった場合に適しています。
- 整形外科:骨や関節が専門ですが、足の構造的な問題から巻き爪が起きている場合に診断・治療を行うことがあります。
>>巻き爪は何科に行くべき?症状や治療法ごとに受診病院を紹介
今すぐ痛みを和らげるための応急処置!市販の物でできるセルフケア法
ここでは、病院へ行くまでのつなぎや、軽度の痛みを今すぐ和らげたい場合の応急処置を2つご紹介します。
どちらも市販のもので自宅で手軽に実践できます。
① コットンパッキング法|爪と皮膚の間に隙間を作る

爪が皮膚に食い込んでいる部分にコットンを小さく詰めて隙間を作り、圧迫を減らして痛みを和らげる方法です(参考:和歌山県立医科大学付属病院 2)。
用意するもの
- コットン(化粧用のもので可)
- 消毒液(マキロン、イソジンなど)
- 先の細い器具(爪楊枝、ピンセットなど) ※爪や皮膚を傷つけないよう注意
具体的な手順
- 足を清潔にする:入浴後など、足が清潔で皮膚が柔らかくなっている時に行うのが最適です。
- コットンを準備する:コットンを「米粒大」にごく小さくちぎり、消毒液で少し湿らせます。
- 爪と皮膚の間に詰める:爪楊枝やピンセットの先を使い、痛い部分の爪の角と皮膚の間に、準備したコットンを優しく挿入します。
- 奥まで入れすぎない:無理に奥まで押し込まず、爪の圧迫が少し和らぐ程度に留めます。痛みを感じる場合はすぐに中止してください。
コットンの交換は必ず毎日行ってください。雑菌が繁殖し、感染の原因となるためです。
衛生管理が最も重要です。
よくある失敗と注意点
- 詰め込みすぎ:コットンを大きくしすぎたり、奥に押し込みすぎたりすると、かえって圧迫が強まり痛みの原因になります。
- 皮膚を傷つける:爪楊枝などで皮膚を突いてしまうと、そこから細菌が入り感染を起こすリスクがあります。慎重に行いましょう。
② テーピング法|皮膚を引っ張り食い込みを軽減
伸縮性のあるテープで爪の周りの皮膚を引っ張り、爪と皮膚の間に物理的な隙間を作って食い込みを軽減する方法です。
用意するもの
- 伸縮性のあるテープ(キネシオロジーテープなど)
- ハサミ
具体的な手順
- テープを準備する:テープを長さ5〜6cm、幅1〜2cm程度にカットします。
- テープを貼る位置の確認:爪が食い込んでいる側の指の腹にテープの端を貼り付けます。
- 皮膚を引っ張る:テープを指に巻きつけるようにしながら、爪と皮膚が離れる方向に「くいっ」と少し強めに引っ張ります。
- 固定する:皮膚を引っ張った状態をキープしたまま、テープの反対側を指の上側(または裏側)に貼り付けて固定します。
テープを貼る前には、皮膚の汚れや油分をしっかり拭き取りましょう。
粘着力が高まり、剥がれにくくなります。こちらも毎日貼り替えるのが衛生的です。
テーピングは治す治療ではない?目的と限界
テーピングは、食い込んでいる爪の形を矯正するものではありません。あくまで皮膚を引っ張って一時的に痛みを緩和する「応急処置」です。
痛みが続く場合は、根本的な治療について医療機関に相談しましょう。
巻き爪を繰り返さないための3つの生活習慣
応急処置で痛みが和らいでも、原因となる生活習慣を見直さなければ、巻き爪は再発を繰り返します。
ここでは、今日から実践できる3つの重要な習慣をご紹介します。
① 正しい爪の切り方「スクエアオフ」
爪の角を深く切り込む「深爪(ラウンドカット)」は、巻き爪の原因の一つです。
爪の角が皮膚に埋もれ、伸びてくる際に皮膚に突き刺さりやすくなります。
- 正しい切り方「スクエアオフ」

爪の先端を、指の先端と同じくらいの長さか、少し長めに、まっすぐ横に切ります。
両端の角は切り落とさず、ヤスリなどで少しだけ丸めて滑らかにします。
- 切る頻度:2〜3週間に一度が目安です。切りすぎに注意しましょう。
② 足に合う靴の選び方と正しい履き方
先の細い靴やサイズの合わない靴は、指先を圧迫し、巻き爪を引き起こします。
チェックすべき5つのポイント
- つま先の形:指が自由に動かせるよう、つま先に1〜1.5cmほどの余裕(捨て寸)があるか。
- 甲のフィット感:靴紐やベルトで、甲の部分がしっかり固定できるか。
- ヒールの高さ:ヒールは低く、太く安定感のあるものを選ぶ(高くても3cm以内が理想)。
- かかとのホールド感:かかとがしっかり包み込まれ、歩行時にパカパカしないか。
- 適切な素材:通気性が良く、適度に柔らかい素材か。
意外と知らない?靴紐の正しい締め方
靴を履く際は、かかとをしっかり靴のヒールカップに合わせた後、つま先を上げた状態で靴紐を締めましょう。
これにより、歩行中に足が靴の中で前に滑るのを防ぎ、つま先への圧迫を軽減できます。
③ 歩き方の癖を見直す
地面を指でしっかり蹴り出さず、ペタペタと歩く癖があると、爪に下からの力が適切にかからず、巻きやすくなります。
「浮き指」や外反母趾も、足指に均等な体重がかからないため、巻き爪のリスクを高めます。
意識すべきはかかとで着地し、足の裏全体を地面につけ、最後に親指の付け根でしっかり地面を蹴り出す歩き方です。
これにより、爪が本来の平たい形を保とうとする力が働きます。
巻き爪セルフケアの限界と病院での治療
セルフケアで改善しない場合や、症状が進行した場合は、医療機関での専門的な治療が必要です。
矯正治療が主流|クリップ・ワイヤー法の種類と特徴
現在の巻き爪治療では、特殊なワイヤーやクリップを使って爪の形を物理的に矯正する方法が主流です。
痛みも少なく、日常生活に支障が出にくいのが特徴です。
治療法 | 特徴 | メリット | デメリット |
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ワイヤー法 | 爪の先端に穴を開け、形状記憶合金のワイヤーを通して爪を広げる。 |
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クリップ法 | 爪の先端に特殊なクリップを引っ掛けて爪を持ち上げる。 |
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プレート法 | 爪の表面に特殊なプレートを貼り付け、その反発力で爪を平らにする。 |
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費用はどのくらい?保険適用と自費治療の違い
重要な点として、ワイヤーやクリップを用いた矯正治療の多くは、保険が適用されない自費診療となります(参考:日本創傷外科学会 3) 。
- 自費診療(矯正治療など):費用は医療機関によって異なりますが、1趾あたり5,000円〜15,000円程度が目安です。その他に初診料や再診料がかかります。
- 保険適用(手術など):感染や炎症がひどい場合の処置や、重度の場合に行われる手術(フェノール法など)には、健康保険が適用されます。
治療を始める前に、費用や保険適用の有無について必ず医療機関に確認しましょう。
>>巻き爪治療に保険適用外があるのはなぜ?理由と費用目安を解説
手術が必要になるケースとは?
矯正治療で改善が見られない重度のケースや、何度も再発を繰り返す場合、炎症が極めて強い場合などには、手術が検討されることがあります。
新たな治療法を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。
日本では巻き爪でお悩みの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。
例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
・最新の治療をいち早く受けられる
・専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
・治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。
実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
川島裕平医師が巻き爪セルフケアのよくある質問に答える
最後に皮膚科専門医 川島裕平医師が巻き爪のセルフケアに関してよく寄せられる質問にお答えします。
Q. 100均ショップの矯正グッズは使ってもいい?
A. 専門家の見解としては、「一時的な痛みの緩和に役立つ可能性はありますが、根本的な治療にはなりません」 。
自己判断での使用は、爪の状態をかえって悪化させるリスクも伴います。
特に無理な力をかけて爪が割れてしまったり、衛生管理を怠って感染を起こしたりするケースも少なくありません。
使用を検討する場合は、事前に専門医へ相談することを強くお勧めします。
Q. 糸ようじで爪のゴミを取ってもいい?
A. 糸ようじや爪楊枝の先で爪と皮膚の間を無理に掃除しようとすると、デリケートな皮膚を傷つけてしまいます。
その傷から細菌が侵入し、深刻な感染症を引き起こす原因となる可能性もあります。
爪の間の汚れが気になる場合は、入浴時に石鹸の泡で優しく洗う程度に留めましょう。
Q. 巻き爪は歩けば自然に治る?
A. これは誤った俗説です。
むしろ、痛みをかばって不自然な歩き方を続けると、足の他の部分に負担がかかったり、巻き爪がさらに悪化したりする可能性があります。
前述の通り、「正しい歩き方」は再発予防に有効ですが、歩くだけで巻いてしまった爪が自然に治ることは期待できません。
Q. 高齢者や子供、糖尿病の家族が巻き爪になった時の注意点は?
A. 高齢者、子供、そして特に糖尿病などの基礎疾患をお持ちの方は、安易なセルフケアは禁物です。
- 高齢者・子供:皮膚が薄くデリケートなため、少しの傷でも感染を起こしやすい傾向があります。
- 糖尿病の方:末梢神経障害や血流障害を合併していることが多く、小さな傷でも気づきにくく、治りにくいのが特徴です。最悪の場合、足の壊疽(えそ)につながる危険性もあります(参考:CLEAVELAND CLINIC 4)。
これらのケースではごく軽度の症状に見えても、まずは専門医に相談し、適切な指導を受けることが最も安全です。
まとめ
この記事では、巻き爪のセルフケアについて、応急処置から再発予防、そして危険なサインまでを網羅的に解説しました。
最後に、重要なポイントを振り返ります。
- 軽度の巻き爪は、セルフケアで痛みを緩和できる可能性がある。
- 赤み・腫れ・膿などがある場合は、迷わず皮膚科などの医療機関へ。
- 応急処置としては「コットンパッキング」や「テーピング」が有効。ただし衛生管理を徹底すること。
- 再発を防ぐためには「爪切り・靴・歩き方」の3つの生活習慣を見直すことが不可欠。
- 100均グッズや糸ようじの自己流ケアはリスクを伴うため避けるべき。
- 高齢者や糖尿病の方は、セルフケアの前に必ず専門医に相談を。
セルフケアはあくまで対症療法であり、ご自身の安全を確保することが大前提です。
少しでも改善が見られない、あるいは判断に迷う場合は、一人で悩まず専門医に相談することが、最も安全で確実な解決策であることを忘れないでください。
参考資料・サイト一覧
1.日本創傷外科学会 https://www.jsswc.or.jp/general/kannyusou_makidume.html
2.和歌山県立医科大学付属病院 https://wakayamaprs.jp/targetdisease/ingrown-toenail
3.日本創傷外科学会 https://www.jsswc.or.jp/general/kannyusou_makidume.html
4.CLEAVELAND CLINIC https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/21510-diabetic-feet
記事監修者情報

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医として、専門分野の爪疾患、重症のアトピー性皮膚炎や尋常性乾癬などの皮膚疾患の診療、美容皮膚科診療に従事。
本記事では医学的情報の正確性と内容監修を担当。
所属学会:
- 日本皮膚科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本睡眠学会
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