「特定保健用食品(トクホ)を開発したいが、臨床試験の要件が複雑でどこから手をつければいいかわからない…」 「数千万円以上かかる費用と数年の期間を投資する価値があるのか、客観的な情報が欲しい…」
トクホ開発の担当者様が抱えるこのような課題に対し、この記事では、トクホの臨床試験で求められる科学的根拠の3大要件から、費用相場、申請フロー、安全性評価、そして信頼できる委託先(CRO)の選び方まで、必要な全ての情報を網羅的に解説します。
この記事を読めば、トクホ開発の全体像と成功の鍵を明確に理解し、自信を持ってプロジェクトを推進できるようになります。
最初にこの記事の核心部分をまとめたチェックリストをご紹介します。
科学的根拠として求められる3大要件
審査で最重要視されるポイントです。
☐ 無作為化比較試験(RCT):最終製品を用いたヒト試験か?
☐ 統計学的有意差:表示したい機能性について、科学的に意味のある差を示せているか?
☐ 長期摂取での有効性・安全性:一日摂取目安量を長期間摂り続けても効果と安全が確認されているか?
チェックリスト:安全性評価で見落とせない3つの視点
☐ 食経験: 原料と製品に十分な食経験はあるか?
☐ 剤形リスク: 錠剤やカプセルなど、特有のリスクを考慮しているか?
☐ 過剰・長期摂取:通常の食生活を超える量を摂った場合の安全性は確認済みか?
そもそも特定保健用食品(トクホ)とは?臨床試験(ヒト試験)の基本
まずトクホ制度の根幹と、なぜ厳格な臨床試験が求められるのかを理解しましょう。
トクホの定義と「国の個別許可」という最大の特徴
特定保健用食品(トクホ)とは、「食生活の改善を通じて、特定の保健の目的が期待できる旨の表示(ヘルスクレーム)を、国が個別に審査し、許可した食品」です。
最大の特徴は、製品ごとに有効性や安全性について科学的根拠を提出し、消費者庁長官の「個別許可」を得なければならない点です。
この許可を得て初めて、「脂肪の吸収を穏やかにする」といった具体的で健康維持・増進に役立つ効果を表示することが可能になります。
なぜ臨床試験(ヒト試験)が有効性・安全性の根拠として必須なのか?
トクホの有効性を証明するためには、動物試験や細胞試験のデータだけでは不十分です。
最終的にその食品を摂取するのは「ヒト」であり、ヒトにおいて表示したい効果が科学的に確認できることが絶対条件だからです。
そのため、最終製品を用いたヒトでの臨床試験(特に信頼性の高い無作為化比較試験)が、科学的根拠として必須とされています。
トクホと機能性表示食品の決定的な違い
事業戦略を立てる上で、機能性表示食品との違いを正確に理解することが不可欠です。
| 比較項目 | 特定保健用食品(トクホ) | 機能性表示食品 |
|---|---|---|
| 制度 | 国の個別許可 | 事業者責任による届出 |
| 審査主体 | 消費者庁長官(国) | 事業者(国は審査しない) |
| 科学的根拠 | 最終製品での臨床試験が原則 | 最終製品の臨床試験 or 成分の文献調査(SR) |
| 費用 | 数千万円~1億円以上 | 数百万円~(SRの場合は安価) |
| 期間 | 2.5年~5年以上 | 1年程度~(SRの場合は短期間) |
| 信頼性 | 国の許可による高い信頼性 | 事業者による情報公開が基本 |
このように、トクホは多大なコストと時間を要する一方、国の許可という最高レベルの信頼性を得られる点が最大のメリットです。
>>機能性表示食品の臨床試験|申請届出の流れから費用まで徹底解説
トクホ申請の最重要関門|科学的根拠を示すための3大要件
ここからは、トクホの臨床試験でクリアすべき最も重要な「科学的根拠の3大要件」を詳しく解説します。
要件①:最終製品を用いた「無作為化比較試験(RCT)」
有効性の科学的根拠として、原則として最終製品(販売する製品そのもの)を用いた無作為化比較試験(RCT: Randomized Controlled Trial)の実施が求められます(参考:消費者庁 1) 。
プラセボ対照の重要性: 思い込み(プラセボ効果)による影響を排除するため、効果のない偽薬(プラセボ)を摂取するグループと比較します。これにより、製品の真の効果を科学的に証明します。
試験デザイン: 主に「並行群間比較試験」(2つのグループに分け、一方は本製品、もう一方はプラセボを摂取)や「クロスオーバー試験」(全参加者が本製品とプラセボの両方を時期をずらして摂取)が用いられます。
試験計画書(プロトコル): 試験の目的、評価項目、対象者、統計解析の方法、倫理的配慮、試験の中止基準などを詳細に定めた計画書を作成し、これに厳密に従って試験を進める必要があります。
要件②:表示したい機能性を裏付ける「統計学的有意差」
試験結果は、統計学的に分析され、「表示したい機能性について、プラセボ群と比較して偶然とは考えにくい意味のある差(統計学的有意差)があった」ことを示さなければなりません。
p値と効果量: 統計的有意差は一般的に「p値」という指標で示されます(p<0.05が一般的)。しかし、単にp値が小さいだけでなく、その差が臨床的に見て意味のある大きさ(効果量)であるかも重要視されます。適切な効果と有意差を示すための被験者数(例数)の設計が、試験計画の段階で極めて重要になります。
主要評価項目と副次評価項目:表示したい機能性に最も直結する指標を「主要評価項目」として一つ設定し、これを達成することが試験の成功条件となります。関連する他の指標は「副次評価項目」として設定します。
要件③:「一日摂取目安量での長期摂取」における有効性と安全性
トクホは日常的に摂取されるものであるため、「一日摂取目安量を、ある程度の期間(長期)摂取し続けた場合」の有効性と安全性が確認されている必要があります(参考:消費者庁 2)。
摂取期間の目安: ヘルスクレーム(表示したい効果)によって求められる期間は異なります。例えば、体脂肪に関するものであれば12週間以上、血圧に関するものであれば8~12週間、整腸作用であれば2週間以上など、それぞれの作用機序に応じた適切な期間設定が必要です。
被験者選定のポイント: 対象者は原則として健常者とされますが、疾病に罹患していない範囲での境界域(例:血圧が高めの方、血糖値が気になる方など)の人々を含むことが一般的です。
トクホの安全性評価で問われる3つの視点
有効性の証明と並行して、安全性の確保も極めて重要です。審査では特に以下の3つの視点が問われます(参考:厚生労働省 3)。
①:十分な「食経験」の評価(原料・製品)
使用する関与成分や食品そのものに、安全なものとして長年食べられてきた実績(食経験)があるかどうかが評価されます。
食経験が不十分な場合は、追加の安全性試験(動物を用いた毒性試験など)が必要になる場合があります。
②:製品の「剤形」が及ぼすリスク
サプリメントのような錠剤の製品は通常の食品と異なり、特定の成分を濃縮しているため、過剰摂取につながりやすいリスクがあります。
そのため、剤形に応じた安全性の評価や、摂取方法の注意喚起表示が求められます。
また、剤形によっては、審査で許可がおりない場合があります。
③:「過剰摂取・長期摂取」の安全性試験で確認すべき項目
一日摂取目安量を超えて摂取した場合(過剰摂取)や、長期間摂取し続けた場合の安全性を評価する試験が必要です。
臨床試験では、有害事象の発生を注意深くモニタリングし、製品との因果関係を評価します。
申請準備から許可までの流れとスケジュール目安
トクホの申請は、思い立ってすぐにできるものではありません。複数年にわたる長期的なプロジェクトになります。

- STEP1:事前準備・戦略立案(約2〜3ヶ月)
表示したいヘルスクレームの決定
科学的根拠となる先行研究の調査
臨床試験の委託先(CRO)の選定・相談 - STEP2:臨床試験の計画・実施(約6ヶ月〜1.5年)
試験計画書(プロトコル)の作成
倫理審査委員会(IRB)による審査・承認
被験者募集、試験実施、データ収集 - STEP3:論文投稿・受理(約3ヶ月〜1年)
試験結果のデータ解析、報告書作成
査読付きの学術雑誌へ論文を投稿し、受理されること - STEP4:消費者庁への申請・審査(約1〜2年)
必要書類を揃えて消費者庁へ申請
食品安全委員会や消費者委員会での審議
質疑応答を経て、許可または不許可が決定
全体像としてトータルで2年半〜5年程度が一つの目安となります。
【費用相場】トクホの臨床試験は一体いくらかかるのか?
トクホ開発における最大の懸念事項の一つが費用です。
結論:総額で数千万円〜1億円以上が目安
結論から言うと、臨床試験から申請まで含めた総額で、数千万円から1億円以上かかるのが一般的です。
これは、機能性表示食品(数百万円から可能)と比較して桁違いに高額です。
費用の主な内訳と変動要因
費用の大部分は臨床試験に関連するコストで、主に以下の要因で変動します。
- 試験デザイン: 協力者の人数、試験期間の長さ、検査項目の多さや特殊性によって費用は大きく変動します。
- CROへの委託費用: 試験の計画、モニタリング、データ管理、統計解析など、専門的な業務を委託するための費用です。
- 協力者募集費・管理費: 協力者への協力費(負担軽減費)や、試験を実施する医療機関への支払いなどが発生します。
コストを抑えるためのポイントと注意点
やみくもなコスト削減は試験の質を低下させ、結果的に審査で指摘を受けるリスクを高める可能性があります。
コストを最適化するには、試験計画の段階で、表示したいヘルスクレームを証明するために必要十分な試験デザインを専門家(CROなど)と綿密に設計することが最も重要です。
臨床試験を成功に導く委託先(CRO)の選び方
多大な投資を成功させるには、信頼できるパートナーであるCRO(開発業務受託機関)選びが不可欠です。
失敗しないための比較検討5つのポイント
- トクホ申請支援の実績と対応ヘルスクレーム
過去にどのようなトクホ申請を成功させてきたか、自社が目指すヘルスクレーム(整腸、血圧、体脂肪など)の領域で実績があるかを確認します。 - 責任医師や提携医療機関の体制
質の高い試験を実施できる経験豊富な医師や、信頼できる医療機関とのネットワークがあるかは重要です。 - 統計解析の専門性
トクホ審査で求められる高度な統計解析に対応できる専門家が在籍しているかを確認します。 - 各種ガイドラインの遵守体制
ヘルシンキ宣言などの倫理指針や、関連法規を遵守する体制が整っているかは、企業の信頼性を見極める上で必須です。 - 見積もりの透明性とコミュニケーション
費用の内訳が明確で、計画の変更にも柔軟に対応してくれるかなど、円滑なコミュニケーションが取れるパートナーを選びましょう。
治験ジャパンは臨床試験の実施をトータルサポート
治験ジャパンではこれまでの豊富な実績を活かし、臨床試験の企画から運営・届出サポートまでを一貫して支援しています。
具体的には、以下のようなサポートをご提供します。
- 研究計画の立案と倫理審査対応:試験デザインの最適化と、必要書類の作成・提出を代行。
- 協力者募集と管理:ニーズに合わせたリクルート手法を活用し、条件を満たす被験者を効率的に確保。
- 試験実施とデータ解析:信頼性を担保するプロトコルに基づき、透明性の高いデータ収集・統計解析を実施。
- 論文作成と届出サポート:査読付き学術誌への投稿支援から、消費者庁届出用書類の作成まで対応。
これにより、企業は試験実施に伴うリスクを最小化しながら、科学的根拠に基づいた確実な届出を実現することができます。
「臨床試験をどのように進めればよいか不安がある」「社内に専門部署がなく進行できない」といった場合でも、治験ジャパンがパートナーとして伴走いたします。
ぜひお気軽にお問い合わせください。
トクホの臨床試験に関するよくある質問
Q. トクホは必ず国の審査がありますか?どの機関が何を審査しますか?
A. はい、必ずあります。
提出された資料は、まず消費者庁で科学的根拠が審査され、その後、内閣府の食品安全委員会で安全性が、消費者庁で表示の妥当性が審議されます(参考:内閣府 消費者委員会 4)。
Q. 臨床試験で期待した結果が出なかった場合はどうなりますか?
A. 残念ながら、統計学的有意差が示されなかった場合、その結果でトクホの許可を得ることはできません。
原因を分析し、関与成分の量や被験者層、試験デザインを見直して、再試験を検討することになります。
Q. 海外で実施した臨床試験データは使えますか?
A. 日本人と食生活や体格が大きく異ならない集団を対象とし、日本のガイドラインに準拠した質の高い試験であれば、データとして認められる可能性があります。
ただし、基本的には日本人を対象としたデータが求められます。
Q. 「長期摂取」とは具体的にどのくらいの期間ですか?
A. 表示したい効果によって異なりますが、一般的には数週間から3ヶ月程度が目安とされています。
例えば、血中中性脂肪なら4〜12週間、体脂肪なら12週間以上など、科学的根拠に基づき設定されます。
Q. 倫理審査は必須ですか?
A. はい、必須です。
臨床試験は人を対象とするため、参加者の人権、安全、福祉を守ることが最優先されます。「ヘルシンキ宣言」などの倫理指針に基づき、独立した倫理審査委員会(IRB)で計画の承認を得る必要があります。
まとめ
トクホの臨床試験は複雑で、多大な時間と費用を要する挑戦です。
しかし、その高いハードルを越えることで、国が認めた信頼性の高い商品として、消費者に確かな価値を届けることができます。
最後にこの記事の要点を再整理します。
- トクホは国の個別許可を得て初めて健康効果を表示できる食品である。
- 科学的根拠の核心は「①無作為化比較試験」「②統計学的有意差」「③長期摂取での有効性」という3大要件である。
- 安全性評価では「食経験」「剤形」「過剰摂取」の3つの視点が重要となる。
- 申請準備から許可までは2.5年~5年、費用は数千万円~1億円以上が目安。
- プロジェクト成功の鍵は、正しい知識に基づいた戦略立案と、実績豊富なCROをパートナーに選ぶことである。
トクホ開発は、科学的根拠に基づいた緻密な戦略が不可欠です。まずはこの記事の要点を活用し、プロジェクト推進にお役立てください。
参考資料・文献一覧
1.消費者庁 https://www.cao.go.jp/consumer/content/20171020_20160831_kaitou_betu2.pdf
2.消費者庁 https://www.cao.go.jp/consumer/content/20171020_20160831_kaitou_betu2.pdf
3.厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10600000-Daijinkanboukouseikagakuka/0000166072.pdf
4.内閣府 消費者委員会 https://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2024/425/doc/20240228_shiryou1.pdf
記事監修者情報
健康福祉学部 福祉栄養学科 准教授
近畿大学大学院農学研究科博士後期課程修了。食品・化粧品等のヒト臨床試験の受託企業や大学客員講師などを経て、2016年より関西福祉科学大学に着任。
食品が持つ健康機能性について、成分の探索からヒトでの有効性評価まで幅広く研究を行う。機能性表示食品制度にも精通し、講演実績も多数。
本記事では機能性表示食品に関する記述の正確性と内容監修を担当。
所属学会:
- 日本栄養・食糧学会
関連記事