アトピー性皮膚炎は子どもの病気というイメージが強いですが、近年、大人になってから突然発症するケースが増えています。
ストレスや生活習慣、免疫の変化などが引き金となり、かゆみや赤みといった症状に悩まされる人も少なくありません。
この記事では皮膚科専門医 川島眞医師の監修のもと、アトピー性皮膚炎を大人になってから発症する理由やその特徴、効果的な治療法、セルフケアのポイントを分かりやすく解説します。
大人のアトピーに悩む方々が日常生活を快適に過ごすための知識をお届けします。
大人になってアトピー性皮膚炎を発症する人が増えている理由
アトピー性皮膚炎を大人になってから発症する人が増えている理由を解説します。
子どもの病気というイメージとのギャップ
大人のアトピー性皮膚炎は子どもの病気という認識とのギャップから、発症に気づきにくい場合があります。
多くの人がアトピーは乳幼児期に発症し、成長とともに軽快すると考えています。
しかし、成人期に初めて発症するケースも少なくありません。
成人期にアトピーを発症する背景には、現代社会の生活環境やストレスが大きく関与していると考えられます。
子どものアトピーとは異なり、大人の場合は正確な診断が遅れ、症状が慢性化することもあるため、早期の対処が重要です。
アトピーは子供の病気という従来のイメージにとらわれず注意が必要です。
社会人生活とアトピーの関係
社会人生活の環境がアトピー性皮膚炎の引き金となることがあります。
長時間労働や人間関係のストレス、睡眠不足といった社会人特有の生活スタイルが、皮膚のバリア機能を弱め、症状を誘発する可能性があります(参考:日本皮膚科学会1)。
また、加齢や生活環境の変化により、免疫バランスが崩れ、過剰なアレルギー反応を引き起こすことがあります。
例えば、過労や不規則な生活により、肌のターンオーバーが乱れ、乾燥やかゆみが悪化することがあります。
転職や結婚など、ライフイベントに伴うストレスが発症のきっかけとなるケースも少なくありません。
社会人生活のストレスがアトピーを引き起こすリスクを高めるため、バランスの取れた生活習慣が求められます。
子どものアトピーと大人のアトピーは何が違う?
子供と大人のアトピーの違いを解説します。
症状の現れ方の違い
子どものアトピーと大人のアトピーでは、症状の現れ方に違いがあるとされています。
子どもの場合は、顔や首、肘の内側などに湿疹が広がりやすいのに対し、大人のアトピーは顔や首、背中など上半身の広範囲に症状が現れる傾向があります。
また、大人の場合はかゆみが強く、掻きむしりによって皮膚が厚くなる皮膚の肥厚(ひこう)や色素沈着が起こりやすい点も特徴です。
さらに子どもでは湿疹が繰り返しますが、比較的容易に軽快しやすいのに対し、大人の場合は慢性的な経過をたどる場合も多いです。
子供と大人の症状の違いを理解することで、適切な治療法を選択しやすくなるでしょう。
発症部位の傾向と見分け方
大人のアトピー性皮膚炎は、特定の部位に症状が集中しやすい傾向があります。
特に顔、首、胸、背中、手などに赤みやかゆみが現れやすく、子どものように肘や膝の内側に限定されないケースが多いです。
また、大人のアトピーは接触皮膚炎や脂漏性(しろうせい)皮膚炎と誤診されやすいため、皮膚科での正確な診断が重要です。
例えば、アトピーによる顔の赤みが化粧品による接触皮膚炎と間違われるケースも少なくありません。
発症部位の特徴を把握することで、早期にアトピーと気づき、適切な治療につなげられます。
慢性化しやすい大人のアトピー
大人のアトピー性皮膚炎は、子どもに比べて慢性化しやすい傾向があります。
理由として、成人期は皮膚のバリア機能が低下しやすく、ストレスや環境要因が症状を悪化させることが挙げられます。
掻きむしりによる皮膚の損傷が繰り返され、炎症が長期間続くことで、皮膚が硬くなる「苔癬化(たいせんか)」が起こりやすくなります。
慢性化を防ぐためには、早めの治療と継続的なスキンケアが不可欠です。
大人になってアトピー性皮膚炎を発症する主な原因とは?
大人になってからアトピーを発症する原因を解説します。
ストレスや不規則な生活習慣
ストレスや不規則な生活習慣は、大人になってからのアトピー発症の大きな要因です。
ストレスは免疫系を乱し、皮膚の炎症反応を増強することがあります。
また、不規則な生活は皮膚のバリア機能を弱め、アレルゲンへの過剰反応を引き起こす可能性もあります。
食事・睡眠・アルコールとアトピーの関係
食事や睡眠、アルコールの摂取もアトピーの悪化に関係しています。
栄養バランスの乱れや睡眠不足は、皮膚のバリア機能を低下させ、炎症を悪化させる要因となります。
例えば、加工食品や高脂肪食を多く摂る人は、腸内環境が乱れ、アレルギー反応が強まることがあります。
また、睡眠不足はストレスホルモンの分泌を増やし、かゆみを悪化させることもあります。
ホルモンバランスの乱れと発症の関連
ホルモンバランスの乱れも、アトピー発症の要因とされています。
特に女性では妊娠や出産、月経周期に伴うホルモン変動が皮膚の状態に影響を与えることがあります。
例えば、産後や更年期にアトピー症状が初めて現れるケースも報告されています。
ホルモンバランスを整える生活習慣や、必要に応じた医療的サポートが、発症リスクを軽減します。
大人のアトピー性皮膚炎の主な治療法
大人のアトピーの治療法を解説します。
ステロイド外用薬や免疫抑制剤の使用
ステロイド外用薬や免疫抑制剤は、大人のアトピー治療の基本とされています。
ステロイド外用薬は炎症を抑え、かゆみを軽減する効果があります。
ただし、日本皮膚科学会のガイドラインでは、症状の重症度に応じたステロイドの強さを使い分けることが推奨されています(参考:日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021)。
例えば、軽症には弱いステロイド、重症には強めのステロイドを短期間使用するケースが多いです。
また、タクロリムスなどの免疫抑制剤は、ステロイドの副作用が気になる場合に代替として使用されることもあります。
抗ヒスタミン薬など内服薬の選択肢
かゆみを抑えるために、抗ヒスタミン薬などの内服薬が処方されることもあります。
これらはアレルギー反応を抑制し、夜間のかゆみを軽減する効果が期待されます。
中には眠気が出にくい第二世代の抗ヒスタミン薬もあり、日常生活に影響を与えずに使用しやすいです。
内服薬は医師の指導のもと、適切に使用しましょう。
皮膚科での光線療法や生物学的製剤とは?
光線療法やバイオ治療は、重症のアトピー患者に有効とされる治療法です。
光線療法は紫外線を照射して炎症を抑える方法です。
生物学的製剤は特定の免疫反応を抑える注射薬を使用し、重症例に効果的です。
例えば、デュピルマブ、ネモリズマブ、トラロキヌマブなどは、成人アトピーの治療で広く使用されています。
また、JAK阻害剤の内服薬・外用薬、ジファミラスト外用薬も使用されています。
これらの治療は皮膚科専門医の管理下で行われ、重症化した状態を軽快させるのに役立ちます。
症状軽減のためにできるセルフケア
アトピーの症状を軽減するためのセルフケアを紹介します。
肌のバリア機能を保つスキンケア方法
肌のバリア機能を保つスキンケアは、アトピーの症状軽減の鍵です。
乾燥を防ぐことで、かゆみや炎症のリスクを軽減できます。
例えば、入浴後に保湿剤を塗ることで、肌の水分を保持しやすくなります。
日本皮膚科学会のガイドラインでは、日々保湿剤を使用することが推奨されています。
低刺激の製品を選び、こまめなケアを続けることが、症状の悪化を防ぎます。
保湿剤の選び方と使い方
保湿剤は肌の状態や季節に応じて選ぶことが重要です。
セラミド配合のクリームやローションは、肌のバリア機能を強化する効果があります。
使用時は適量を手に取り、肌に優しくなじませるのがポイントです。
入浴時の注意点と正しい洗い方
入浴時のケアもアトピーの症状管理に欠かせません。
熱すぎるお湯や強い洗浄力の石鹸は、肌のバリアを壊す可能性があります。
日本皮膚科学会では、38~40℃のぬるま湯と低刺激の洗剤を使用することが推奨されています(参考:日本皮膚科学会 アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021)。
また、ゴシゴシ洗わず、泡で優しく洗うことで、肌への負担を軽減できます。
入浴後の保湿も忘れず行い、肌を保護することを心がけましょう。
アレルゲン・ハウスダスト・衣類の対策
アレルゲンやハウスダスト、衣類の素材もアトピー症状に影響を与えることがあります。
ダニや花粉などのアレルゲンは、皮膚の炎症を悪化させる可能性があります。
定期的な掃除や通気性の良い衣類(綿やシルク)の使用が効果的です。
>>アトピーによる顔の赤みを抑える方法|セルフケア・皮膚科治療を解説
新たな治療法を試すのも一つの方法
病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。
日本ではアトピー性皮膚炎でお悩みの方に向け治験が行われています。
治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。
例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。
治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。
・最新の治療をいち早く受けられる
・専門医によるサポート、アドバイスが受けられる
・治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる
ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。
実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。
アトピーで悩む大人に伝えたいこと
アトピーに悩む方に伝えたいことを紹介します。
心のケアとストレスマネジメント
アトピー性皮膚炎は、ストレスが症状を悪化させることがあるため、心のケアが重要です。
リラクゼーションや趣味の時間を取り入れることで、ストレスを軽減できます。
例えば、1日10分の深呼吸やヨガが、心身のバランスを整える助けになります。
心の健康を保つことで、症状の管理がしやすくなります。
受診のタイミングと皮膚科選びのポイント
早めの皮膚科受診がアトピー管理の成功につながります。
かゆみや赤みが2週間以上続く場合、皮膚科の受診が推奨されます。
皮膚科を選ぶ際は、アトピー治療の実績や患者の口コミを参考にすると良いでしょう。
適切なタイミングでの受診が、症状の悪化を防ぎます。
皮膚科医 川島眞医師がアトピー性皮膚炎の疑問に答える










デュピルマブ(デュピクセント):重症例に有効な生物学的製剤(注射薬)
JAK阻害薬:新しい経口薬(成人向けが主)
ネモリズマブ(ミチーガ):痒み抑制効果の高い生物学的製剤(注射薬)
プロアクティブ療法:症状が落ち着いても予防的に抗炎症薬を短期間続ける方法
これらはすべて皮膚科専門医の診断のもと、重症度に応じて適切に選択しましょう。
監修医 川島眞医師からのコメント・アドバイス
成人のアトピー性皮膚炎の患者さんの特徴に、すべてにまじめで几帳面な性格な人が多いことが挙げられます。
勉強に、部活に、仕事に、何事も完璧に成し遂げなければ満足しない性格の方が多く、それがまたストレスの原因となり、炎症の悪化につながっています。
何事も70点ならば合格と考えて、自分を追い詰めないこともアトピーの方にとって大切な心のケアです。
参考資料・サイト一覧
1.日本皮膚科学会 https://www.dermatol.or.jp/qa/qa1/q30.html
2.日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」 https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/ADGL2021.pdf
記事監修者情報

Dクリニックグループ代表
日本皮膚科学会認定専門医として、アトピー性皮膚炎など皮膚疾患の診療・研究に長年従事。
本記事では医学的情報の正確性と内容監修を担当。
所属学会:
- 日本皮膚科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本皮膚アレルギー学会
- 日本香粧品学会
関連記事