腹圧性尿失禁の治し方|自宅で改善する「正しい体操」と治療の選択肢

2025年11月20日

「くしゃみをした瞬間、ハッとして下着を確認した」
「縄跳びや走るのが怖くて、子供と思い切り遊べない」

誰にも相談できず、一人で悩みを抱えている方は少なくないでしょう。

 実は、40代以上の女性では尿失禁を含む尿トラブルを抱える方が少なくないことが報告されており、腹圧性尿失禁は決して「あなただけの恥ずかしい症状」ではありません(参考:日本泌尿器科学会 1)。

 国内の調査では、40歳以上の女性のおよそ2割が腹圧性尿失禁を有するとの報告もあります(参考:厚生労働省 2)。

先に申し上げると、 腹圧性尿失禁の治療の第一選択は、手術でも薬でもなく、「骨盤底筋トレーニング」と「生活習慣の改善」です(参考:日本泌尿器科学会 1)。

軽症から中等症であれば、正しいケアを継続することで、数か月のうちに症状の改善が期待できる場合があります(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。

この記事では、病院に行かずに自宅でできる「失敗しない治し方」から、病院での最新治療までを網羅的に解説します。

手術を検討する前に、まずはこのガイドを試してみてください。

その尿漏れは「腹圧性尿失禁」?セルフチェック

尿漏れにはいくつか種類があり、タイプによって対処法が異なります。

まずは自分の症状が「腹圧性尿失禁」に当てはまるかチェックしましょう。

腹圧性尿失禁の特徴(くしゃみ、運動、重い荷物)

腹圧性尿失禁の最大の特徴は、「お腹に力が入った(腹圧がかかった)瞬間に漏れる」ことです。

チェック項目腹圧性尿失禁切迫性尿失禁(別の病気)
漏れるタイミングくしゃみ、咳、大笑い、ジャンプ、重い荷物を持った時急に強い尿意(尿意切迫感)が襲ってきた時
尿意の有無漏れる瞬間に尿意はないことが多い猛烈な尿意があり、トイレまで間に合わない
漏れる量少量〜中等量(チョロッと漏れる)多量(ジャーっと漏れてしまうことも)

もし「急な尿意で漏れる」症状が強い場合は「切迫性尿失禁」や「過活動膀胱」の可能性があります。

この記事では、主に腹圧性尿失禁の治し方について解説します(参考:日本泌尿器科学会 1)。

原因は「骨盤底筋」の緩みと「腹圧」

なぜお腹に力が入ると漏れてしまうのかと言うと、それは膀胱や尿道を下から支えている「骨盤底筋(こつばんていきん)」という筋肉が緩んでしまっているからです(参考:日本泌尿器科学会 1)。

骨盤底筋は、骨盤の底でハンモックのように臓器(膀胱・子宮・直腸)を支え、尿道の出口を締める役割を果たしています。

しかし、以下の原因によってこのハンモックが伸びたり傷ついたりすると、尿道を締める力が弱まり、腹圧に耐えられなくなって尿が漏れてしまいます。

  • 加齢: 筋肉の衰えや組織の弾力低下(参考:日本泌尿器科学会 1)。
  • 出産: 経膣分娩による物理的な筋肉・神経のダメージ(参考:日本泌尿器科学会 1)。
  • 肥満: 妊娠・分娩や肥満、加齢などが腹圧性尿失禁の原因となることが報告されています(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。
  • 荷重労働や慢性的な咳など: 長年の荷重労働、排便時の強いいきみ、喘息などの慢性的な咳も骨盤底筋を傷める原因になります(参考:日本泌尿器科学会 1)。
  • 更年期: 女性ホルモン(エストロゲン)の低下による組織の萎縮。

腹圧性尿失禁を自宅で治す!失敗しない「骨盤底筋トレーニング」

腹圧性尿失禁の治療で最も推奨されるのが「骨盤底筋トレーニング(骨盤底筋体操)」です(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。

 しかし、自己流で行うと「お腹やお尻に力が入ってしまい、肝心の骨盤底筋が鍛えられていない」というケースが非常に多く見られます。

ここでは「正解の感覚」を確実につかむ方法を解説します。

どこに力を入れる?「正解の感覚」をつかむコツ

骨盤底筋は体の奥にあるため、動きを目で見ることができません。

以下のイメージを持ちながら動かしてみましょう。

  • 肛門への意識: 「おならが出そうなのをグッと我慢する感覚」
  • 膣・尿道への意識: 「尿を途中で止める感覚」または「膣を体の中にじわーっと吸い上げるイメージ」

やってはいけないNG例

  • お腹に力を入れる: 腹圧がかかり、逆効果になります。
  • お尻を締める: お尻のほっぺたがカチカチになるのは間違いです。
  • 太ももに力を入れる: 足の筋肉を使っても意味がありません。
  • 息を止める: 呼吸は自然に続けましょう。

基本のステップ

最初は最も感覚をつかみやすい「仰向け」から始め、慣れてきたら「座位」「立位」へとステップアップします。

【Step 1:基本の動作(仰向け)】

  1. 仰向けになり、足を肩幅に開いて両膝を立てます。全身の力を抜きます。
  2. 「締める」: 肛門と膣を胃の方へ引き上げるイメージで、数秒間ギュッと締めます。
  3. 「緩める」: 同じくらいの時間をかけて、ゆっくりと完全に力を抜きます。
  4. これを10回繰り返します(1セット)。

【Step 2:姿勢を変えて(座位・立位)】

  • 座って: 椅子に浅く腰掛け、背筋を伸ばして行います。
  • 立って: 家事の合間や電車の待ち時間に行います。
  • 「早締め」の追加: 慣れてきたら「キュッ、キュッ」と速く締める・緩める動作も組み合わせると、くしゃみ等の急な腹圧に対応する「速筋」が鍛えられます。

効果が出るまでの期間(目安は数か月)

「数日やったけど効果がない」と諦めないでください。

筋肉が変わるには時間がかかります。

 骨盤底筋トレーニングは、数週間で少しずつ変化を感じ始める方もいる一方、効果を確認するには少なくとも約3か月程度の継続が目安とされています(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。

大学病院などの臨床現場でも、根気よく続けることで症状が改善した例が多数報告されています(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。

まずは3ヶ月、毎日続けてみましょう。

続けられない人へ「ながらトレーニング」のすすめ

わざわざ時間を取ると続きにくいものです。日常の動作とセットにする「ながら体操」が継続の鍵です。

  • 歯磨きをしている間
  • 信号待ちをしている間
  • テレビCMの間
  • ドライヤーで髪を乾かしている間

筋トレ以外のアプローチ|今日からできる「生活習慣」

筋肉を鍛えるだけでなく、生活習慣の見直しで尿漏れを減らせる可能性があります。

肥満は尿漏れの大敵!「減量」が効果的な理由

もしあなたが肥満気味(BMI25以上)であるなら、ダイエットは有効な治療法になり得ます。

 内臓脂肪が増えると、その重みで常に膀胱と骨盤底筋が上から押しつぶされた状態になります。

体重を減らすことで尿失禁の回数が減る例も報告されており、減量は尿漏れ対策の一つとして推奨されています(参考:NHS 4)。

>>肥満とは?特徴や種類について解説

水分の摂り方とNGな飲み物(カフェイン・アルコール)

「漏れるのが怖いから」と水分を極端に制限するのは危険です(脱水や尿路感染症のリスク)。

適切な量を摂りつつ、以下の点に注意しましょう(参考:NHS 4)。

  • 控えるべき飲み物: カフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶)やアルコール、炭酸飲料は利尿作用があり、膀胱を刺激して尿漏れを誘発しやすくなります(参考:NHS 4)。
  • 水の飲み方: 一気飲みせず、こまめに少しずつ飲みましょう。

【年代・原因別】自分に合った対策と注意点

腹圧性尿失禁の原因別に対策方法を解説します。

産後の尿漏れ(骨盤底筋のダメージ回復)

産後は、分娩によって骨盤底筋や神経が直接的なダメージを受けています。

産後しばらくは「回復の時期」です。

無理のない範囲で骨盤底筋トレーニングを少しずつ始めることが勧められますが、痛みや出血がある場合は医師に相談してから始めてください。

更年期・閉経後の尿漏れ(女性ホルモンの影響)

閉経により女性ホルモン(エストロゲン)が減少すると、尿道や膣の粘膜が薄くなり、閉じる力が弱まる可能性も考えられます。

トレーニングに加え、デリケートゾーンの保湿ケアも有効です。

症状が強い場合は、泌尿器科や婦人科でホルモン補充療法などを相談することも選択肢の一つです。

スポーツ・フィットネス時の尿漏れ(アンダースリーツ)

若い女性やアスリートでも、ジャンプや激しい着地を伴うスポーツ(トランポリン、バスケットボール、ランニングなど)では尿漏れが起こることもあります。

 症状が落ち着くまでは、腹圧の低い運動(ウォーキング、水泳、ヨガ)に切り替えるのも一つの手です。

また、運動時専用の尿漏れパッドや、膣内に挿入して尿道を支えるリング(ペッサリー)などの活用も検討しましょう。

腹圧性尿失禁が治らない場合は?「薬」と「手術」の最新事情

「体操を半年続けたけれど治らない」「外出できないほど漏れる」という場合は、医療機関での治療を検討するタイミングです。

薬で腹圧性尿失禁は治る?

「薬で楽に治したい」と思う方は多いですが、現在のところ腹圧性尿失禁に対して劇的に効く特効薬はありません。

 腹圧性尿失禁に対して薬物療法が行われることはありますが、その効果はあまり大きくは期待できないとされています(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。

市販の漢方薬も体質改善には役立つ場合がありますが、緩んだ筋肉を直接治すものではありません。

一方、切迫性尿失禁(過活動膀胱)に対しては、抗コリン薬やβ3受容体作動薬などの薬物療法が標準的治療として用いられています(参考:日本泌尿器科学会 1)。

手術が必要なタイミングと「TVT/TOT手術」

生活に大きな支障がある場合、手術は非常に有効な選択肢です。

 現在は「TVT手術」や「TOT手術」と呼ばれる、ポリプロピレン製のメッシュテープで尿道を支える手術が標準的な方法として広く行われています(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。

  • お腹を大きく切らない: 膣や鼠径部の小さな切開で行う、体への負担が比較的少ない手術です。
  • 低侵襲: 手術時間は30分〜1時間程度と比較的短時間で済みます(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。
  • 入院期間: 医療機関にもよりますが、数日程度の入院で退院できるケースが多くなっています(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。

女性の腹圧性尿失禁に対する中部尿道スリング手術(TVT/TOT)は、約85〜90%で尿失禁が消失するとの成績が報告されており、高い有効性が示されています(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。

「手術=怖い・大掛かり」というイメージとは異なり、体への負担が少ない治療法が普及しています。

泌尿器科に行くのが恥ずかしい方へ

「泌尿器科は男性ばかりで行きづらい」と感じる場合は、「女性泌尿器科」「ウロギネコロジー(女性骨盤底医学)」を標榜しているクリニックを探してみましょう。

 診察は問診が中心で、内診が必要な場合もプライバシーに配慮された環境で行われます。

「恥ずかしいから」と我慢してQOL(生活の質)を下げてしまうよりも、一度専門医に相談することで気持ちがずっと楽になるはずです(参考:日本泌尿器科学会 1)。

新たな治療法を試すのも一つの方法

病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。

日本では腹圧性尿失禁でお悩みの方に向け治験が行われています。

治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。

例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。

治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。

・最新の治療をいち早く受けられる

・専門医によるサポート、アドバイスが受けられる

・治療費や通院交通費などの負担を軽減する目的で負担軽減費が受け取れる

ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。

実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。

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腹圧性尿失禁に関するよくある疑問

腹圧性尿失禁に関するよくある疑問を紹介します。

Q. 骨盤底筋体操は1日何回やればいいですか?

A. 1セット10回を、1日3セット(合計30回)行うのを一つの目安にしてみましょう。

名古屋大学医学部附属病院では、膣あるいは肛門を締める運動を1日30~50回程度、3か月ほど毎日続けることが推奨されています(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。

朝・昼・晩と分けたり、お風呂上がりに行ったりと、生活リズムに組み込むと続けやすくなります。

Q. 腹圧性尿失禁に効く市販薬はありますか?

A. 漢方薬がドラッグストアで販売されていますが、これは加齢による排尿トラブル全般に向けたもので、腹圧性尿失禁そのものを確実に完治させるものではありません。

まずは骨盤底筋トレーニングなどの保存的治療を優先し、必要に応じて医師と薬物療法について相談しましょう(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。

Q. 若い女性や中学生でもなりますか?

A. はい、起こりえます。

特に運動部などでジャンプやダッシュを繰り返すと、お腹に強い力がかかるため、くしゃみやジャンプの瞬間に尿が漏れる「腹圧性尿失禁」が起こることがあります(参考:日本泌尿器科学会 1)。

恥ずかしがらずに体操を取り入れたり、婦人科・泌尿器科で相談したりしましょう。

Q. 走ると漏れるのは治りますか?

A. 軽度であれば、骨盤底筋トレーニングなどの保存的治療で症状の改善が期待できる場合があります(参考:日本泌尿器科学会 1)。

あわせて体重管理を行うことで、尿漏れが減る例も報告されています(参考:NHS 4)。

ランニング時は専用のサポート下着やパッドを使用することで、不安なく運動を楽しめるようになります。

まとめ:正しいケアで「漏れない体」は取り戻せる

腹圧性尿失禁は、「年のせいだから仕方がない」「出産したから当たり前」と諦める必要はありません。

 正しい知識を持って「骨盤底筋トレーニング」と「生活習慣の見直し」を行えば、症状が軽減し、日常生活が楽になる方も少なくありません(参考:日本泌尿器科学会 1)(参考:名古屋大学医学部附属病院 3)。

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参考資料・文献一覧

  1. 日本泌尿器科学会 「尿が漏れる・尿失禁がある」
    https://www.urol.or.jp/public/symptom/04.html 
  2. 厚生労働省 医療機器・体外診断薬部会 尿失禁治療器具ワーキンググループ報告書
    https://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/dl/s0724-7i.pdf 
  3. 名古屋大学医学部附属病院 泌尿器科
    https://urology-nagoya-u.jp/treatment/disease/urinary_incontinence.php 
  4. NHS (National Health Service) “Urinary incontinence”
    https://www.nhs.uk/conditions/urinary-incontinence/