毎年冬に流行するインフルエンザは、重症化すると命に関わることもある感染症です。
この記事では最新の研究データをもとに、インフルエンザ予防接種がどれほど効果を発揮するのか、そのメリットとデメリットを詳しく解説します。
さらにどのタイミングで接種するのがベストか、どんな人が受けるべきかといった疑問にもお答えします。
予防接種以外の対策やよくある質問にも触れ、健康を守るための情報を網羅的に紹介していきます。
インフルエンザシーズンに備えて、ぜひ最後までご覧ください。
インフルエンザ予防接種とは?
インフルエンザ予防接種の目的や種類、免疫ができるまでの流れを解説します。
予防接種の目的と仕組み
インフルエンザ予防接種はインフルエンザウイルスによる感染症を予防し、重症化を防ぐために行われます。
ワクチンを接種することで、体にウイルスに対する免疫を作り出すのが主な仕組み。
インフルエンザは、発熱や咳、喉の痛みといった症状を引き起こし、特に高齢者や子供では肺炎などの合併症を招くリスクが高い病気です。
厚生労働省によると、ワクチン接種は発症リスクを抑えるだけでなく、社会全体での感染拡大を防ぐ役割も果たすとされています。
例えば、日本では毎年約1,000万人がインフルエンザに罹患し、その一部が重症化している現実があります。
予防接種を受けることで、こうしたリスクを軽減できる点が大きな魅力。
免疫が形成されれば、ウイルスに感染しても症状が軽く済む可能性が高まります。
参考:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/02.html
インフルエンザワクチンの種類
インフルエンザワクチンには主に2つの種類があります。
不活化ワクチンと生ワクチンです。
日本で広く使われているのは不活化ワクチンで、ウイルスを増殖できない形に処理したもの。
安全性が高く、6カ月以上の乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層に適しています。
一方、生ワクチンは弱毒化したウイルスを使用し、鼻にスプレーで投与するタイプ。
2023年に日本で承認された「フルミスト」が代表例で、2~18歳の子供を対象にしています。
不活化ワクチンは発症を直接引き起こさないため、副反応が少ないのが特徴。
対して生ワクチンは粘膜でウイルスや病原体、花粉などの異物の侵入を防ぐ粘膜免疫を強く誘導する利点がありますが、喘息などの持病がある人には注意が必要とされています。
どちらを選ぶかは年齢や健康状態に応じて医師と相談するのが賢明です。
どのように免疫がつくのか
ワクチンを接種すると体内の免疫システムが作動し、抗体が生成されます。
不活化ワクチンの場合、ウイルス表面のヘマグルチニン(HA)と呼ばれる成分が免疫反応を引き起こす鍵。
これにより、実際のウイルスが侵入した際に素早く対処できる状態が整うのです。
接種後約1~2週間で抗体が作られ始め、1カ月程度でピークに達するとされています。
例えば、不活化ワクチンを接種した人の血液を調べると、抗体価が接種前の数倍に上昇するとされています。
この免疫反応がインフルエンザ予防接種の効果の根拠。
シーズンごとに流行するウイルス株に合わせてワクチンが更新されるため、毎年接種が必要とされる点も覚えておきたい点です。
インフルエンザ予防接種の効果はどのくらい?
インフルエンザ予防接種の効果について研究データ、期間、年齢や体質による違いなどを解説します。
最新の研究データ
インフルエンザ予防接種の効果は、発症予防において一定の成果を上げています。
厚生労働省の研究によれば、6歳未満の小児では有効率が約60%と報告されている。
また、65歳未満の健康な成人では70~90%の発症予防効果があるとされ、接種しない場合に比べて感染リスクが大幅に低下するとされています。
参考:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/10/dl/02-01-05.pdf
これはワクチンを接種した群と未接種の群を比較した疫学研究に基づくデータです。
このように年齢や流行株の一致度によって効果は変動するものの、一定の予防効果が期待できることが分かるでしょう。
効果が持続する期間
ワクチンの効果は永続的ではなく、時間とともに低下します。
一般的に基礎免疫のある方の場合、接種後約3カ月間は有効性が持続すると考えられています。
抗体価は接種後1カ月でピークを迎え、その後徐々に減少する傾向があります。
例えば、10月に接種した場合、12月頃までは効果が期待できる計算です。
ただし、個人差や免疫力の状態によって持続期間は異なる点に注意が必要。
研究では高齢者や基礎疾患のある人では効果がやや早く減弱する可能性も指摘されています。
それでも、流行期間をカバーする十分な持続性が認められているのです。
参考:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001jqmw-att/2r9852000001jqx9.pdf
年齢や体質による効果の違い
予防接種の効果は年齢や体質によって異なります。
子供や健康な成人では免疫応答が強く、高い発症予防効果が得られやすいです。
一方高齢者では免疫力が低下しているため、発症予防率は40~55%程度にとどまるケースも。
ただし、重症化予防に関しては82%の死亡を防ぐ効果が報告されており、特に重要な役割を果たすとされています。
体質面では、免疫抑制剤を使用している人や重度の卵アレルギーを持つ人は効果が弱まる可能性がある。
これに対し、基礎疾患を持つ人は重症化リスクが高いため、接種による恩恵が大きいとされています。
個々の状況に応じた判断が求められるでしょう。
インフルエンザ予防接種のメリット
予防接種を受けることによるメリットを紹介します。
発症リスクを下げる
インフルエンザ予防接種の最大のメリットは、発症リスクを下げる点です。
前述の通り、成人では70~90%、小児では60%程度の発症予防効果が確認されている。
これを具体的な数値で表すと、接種しない場合に比べて感染確率が5分の1程度に抑えられる計算になります。
例えば、未接種者100人が10人感染すると仮定した場合、接種者では2~3人に減少するイメージです。
こうしたデータからも、予防接種が感染リスクを大幅に軽減することが分かります。
重症化リスクの軽減
発症を完全に防げなくても、重症化リスクを軽減できるのも大きな利点。
ニュージーランドの研究では、ワクチン接種によりICU入室リスクが26%、死亡リスクが31%減少したと報告されています。
参考:ScienceDirect https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0264410X18309976?via%3Dihub
日本でも、高齢者施設での研究で死亡率が82%低下した例が挙げられるほどです。
特に肺炎や脳症といった合併症を防ぐ効果は顕著で、命を守る手段として信頼されています。
集団免疫による感染拡大防止
個人だけでなく、社会全体への影響も見逃せません。
ワクチン接種者が増えると集団免疫が形成され、未接種者への感染リスクも低下するのです。
家族内に高齢者や乳幼児がいる場合、接種することで周囲を守る効果が期待できるとされています。
地域全体での感染拡大を抑える一助となるでしょう。
インフルエンザ予防接種のデメリット
インフルエンザ予防接種にはメリットだけではなく、デメリットも存在します。
副反応のリスク(発熱・腫れなど)
予防接種には副反応のリスクが伴います。
厚生労働省によると、接種部位の発赤や腫れ、痛みが10~20%の人に発生し、発熱や倦怠感などの全身反応が5~10%に見られるとのこと。
これらは通常2~3日で自然に回復しますが、まれにアナフィラキシーなどの重篤な副反応が起こる可能性もゼロではありません。
例えば、卵アレルギーを持つ人は、ワクチン製造過程で使用される卵成分に反応するリスクがあるため、注意が必要とされています。
100%の予防ではない
ワクチンは100%の予防効果を保証するものではありません。
理由の一つは、ワクチン株と流行株の抗原性が完全に一致しない場合があること。
また、個人の免疫力によっても効果が異なるため、接種しても感染するケースが存在します。
代替策としては、手洗いやマスク着用などの基本的な予防策を組み合わせることが推奨されるでしょう。
予防接種を受けるべき人は?
インフルエンザ予防接種が推奨される属性について解説します。
高齢者・乳幼児・基礎疾患を持つ人
高齢者、乳幼児、基礎疾患を持つ人はインフルエンザ予防接種が特に推奨されます。
理由はこれらのグループが重症化リスクが高いため。
厚生労働省によると、65歳以上の人や心臓疾患、糖尿病などの持病がある人は、接種により重症化を防ぐ効果が大きいとされています。
例えば、高齢者施設での研究では、ワクチン接種により34~55%の発症が予防され、死亡率も大幅に低下したとのデータがあります。
乳幼児も同様に、重篤な合併症を避けるため早期の接種が勧められているのです。
医療従事者・妊婦
医療従事者や妊婦も優先的に接種すべき対象です。
医療従事者は患者との接触が多く、感染リスクが高いだけでなく、院内感染を防ぐ責任も担う。
妊婦の場合、インフルエンザに罹患すると重症化しやすく、胎児への影響も懸念されますが、ワクチンの安全性は確立されており、母体と新生児を守る効果が期待できるとされています。
実際、妊娠中の接種により新生児の感染リスクが減少した例も報告されており、安心して受けられる選択肢と言えるでしょう。
参考:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/dl/infu091028-01.pdf
学生や社会人
学生や社会人も、流行時期に感染しやすい環境にいるため接種が推奨されます。
学校や職場は人が密集する場所であり、ウイルスが広がりやすい。
特に受験生は、インフルエンザで体調を崩すと大きな影響を受けるため、早めの接種が賢明です。
社会人にとっても業務への影響を最小限に抑えるため、予防策として有効とされています。
インフルエンザ予防接種を受けるベストなタイミング
予防接種の効果を最大限高めるための接種時期について解説します。
日本での流行時期と接種の適切な時期
日本ではインフルエンザが12月から4月にかけて流行し、ピークは1~3月頃に訪れます。
そのため、10~11月に接種するのが適切なタイミングと考えられています。
この時期に接種すれば、流行前に免疫が十分に形成され、シーズン中も効果が持続するからです。
例えば、11月下旬に接種が集中するとワクチン不足の懸念もあるため、早めの行動が推奨されるでしょう。
効果が出るまでの期間
ワクチンの効果が発現するまでには、接種後1~2週間かかります。
抗体が十分に作られるのは約1カ月後で、このタイミングで最大の予防効果が得られるとされています。
そのため、流行が始まる12月より前に接種を済ませておくのが理想的。
遅くとも11月中旬までには済ませておくと安心できます。
予防接種以外のインフルエンザ対策
インフルエンザは予防接種以外でも対策を行うことは可能です。
手洗い・うがい・マスク着用の重要性
予防接種に加えて、手洗い、うがい、マスク着用も重要な対策です。
これらはウイルスを物理的に排除し、感染リスクを下げる効果があります。
2021-2022シーズンではコロナの流行もあり、手洗い、うがい、マスク着用などの対策が徹底された結果、インフルエンザの流行がほぼ見られなかった事例が報告されています。
日常的に取り入れることで、予防効果を高められるでしょう。
免疫力を高める生活習慣(睡眠・食事・運動)
免疫力を高める生活習慣も見逃せません。
十分な睡眠、バランスの良い食事、適度な運動が免疫系を強化し、インフルエンザへの抵抗力を高めるとされています。
健康的な生活が予防の基盤となるでしょう。
抗ウイルス薬の活用(発症後の対策)
発症してしまった場合、抗ウイルス薬が有効な対策となります。
タミフルやリレンザといった薬は、発症後48時間以内に使用することで症状の期間を短縮し、重症化を防ぐ効果が期待できるとされています。
医師の診断を受けて適切に活用することが大切です。
参考:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/qa.html
よくある質問(Q&A)
インフルエンザ予防接種に関するよくある質問を紹介します。
予防接種を受けたのにインフルエンザにかかるのはなぜ?
予防接種を受けてもインフルエンザにかかる場合があります。
理由はワクチン株と流行株が完全に一致しないことや、個人の免疫応答が弱いケースがあるため。
厚生労働省によれば、ワクチンは100%の予防を保証するものではなく、あくまで重症化リスクを軽減する手段です。
それでも重症化を防ぐ効果は高いので、接種する価値は十分にあります。
1回の接種で十分?2回必要?
接種回数は年齢によって異なります。
13歳以上は原則1回で十分とされ、研究でも1回で2回と同等の抗体上昇が確認されています。
一方6カ月~12歳の子供は2回接種が推奨され、2~4週間間隔で受けることで免疫が強化されるのです。
医師と相談して決めると良いでしょう。
妊娠中や授乳中でも接種できる?
妊娠中や授乳中の接種は可能です。
安全性が確立されており、母体と胎児を守る効果が期待できるとされています。
ただし、妊娠初期は産婦人科医と相談し、安定した状態での接種が推奨される点に留意してください。
子供や高齢者がインフルエンザ予防接種を受ける際の注意点
子供や高齢者が受ける際は、いくつかの注意点があります。
子供の場合、卵アレルギーや発熱時の接種は避けるべきです。
また、高齢者は免疫抑制状態にある場合効果が弱まる可能性があるため、医師の判断が重要です。
健康状態を確認し、安全に接種することが大切でしょう。