「最近、親の物忘れが目立つようになった」

「病院で軽度認知障害(MCI)と言われたが、どう接すればいいかわからない」

そのように戸惑い、不安を感じていませんか?

これまでしっかりしていた家族だからこそ、変化を受け入れるのは辛いものです。

しかし、軽度認知障害(MCI)は「認知症」そのものではありません。

実は、適切な対応を行うことで、健常な状態へ回復したり、認知症への進行を遅らせたりすることが十分に可能な段階です(参考:日本神経学会 1)。

一方で、家族が不適切な対応(叱責や無視など)をしてしまうと、本人の不安を煽り、状態に悪影響を与える可能性もあります。

この記事では、MCIと診断された、あるいは疑われる家族に対して、進行を防ぐための具体的な「接し方」や「言葉かけ」、そして難関である「受診の勧め方」について、専門的な知見をもとに分かりやすく解説します。

※この記事は疾患啓発を目的としています

軽度認知障害(MCI)でお困りの方へ

治験という方法で負担軽減費を受け取りながら、より良い治療の選択肢を見つける方が増えています。

※負担軽減費とは:治験協力者が負担する交通費や時間的拘束などがあるためお金が支給されます。

治験ジャパンでは参加者の皆様に医療費の負担を軽減しながら、最新治療を受ける機会のご提供が可能です。

まず理解したい「軽度認知障害(MCI)」と家族の心構え

具体的なテクニックを知る前に、まずは敵(病態)と味方(本人の気持ち)を知ることが大切です。

MCIとは?:認知症の一歩手前、でも「戻れる」場所

軽度認知障害(MCI)とは、健常者と認知症の中間にあたる状態で、物忘れなどの訴えはあるものの、自立した日常生活は送れる段階を指します。

日本神経学会のガイドラインによると、MCIの方のうち、年間で約5〜15%が認知症に移行すると考えられています(参考:日本神経学会 1)。

しかし、ここで希望を持っていただきたいのは、「必ずしも認知症になるわけではない」という事実です。

年間で約16〜41%の人が健常な状態に戻る(リバートする)とも報告されています(参考:日本神経学会 1)。

つまり、今の時期は「諦める時期」ではなく、「改善のチャンスがある重要な時期」なのです。

本人の心理:「とぼけている」のではなく「不安でいっぱい」

家族から見ると、「何度も同じことを言う」「約束を忘れる」といった行動は、ふざけているように見えたり、怠慢に見えたりしてイライラするかもしれません。

しかし、一番戸惑い、傷ついているのは本人自身です。

MCIや認知症の方への支援において、家族や介護者が適切な知識を持ち、本人の心理状態を理解して関わること(心理教育)が重要視されています(参考:日本認知症予防学会・日本神経学会 2)。

家族は「監視役」になって間違いを指摘するのではなく、本人の不安を和らげる「伴走者」になる意識を持つことが、対応の第一歩です。

進行を防ぐための「3つの基本姿勢」

日々のコミュニケーションにおいて、これだけは守りたい3つの鉄則があります。

1. 共感と受容:否定せずに受け止める

本人が間違ったことを言っても、頭ごなしに否定するのは避けましょう。

「財布がない(本当はあるのに)」と言われたら、「ないわけないでしょ!」と怒るのではなく、「それは心配だね、一緒に探そうか」と、「不安な感情」に共感します。

感情を受け止められると、本人は安心し、落ち着きを取り戻しやすくなります。

2. 尊厳の保持:役割を奪わない

危なっかしいからといって、家事や仕事をすべて取り上げてしまうと、「自分は不要な人間だ」と感じ、意欲が低下して症状が進行します。

「危ないから座っていて」ではなく、「洗濯物を畳むのを手伝って」など、できる範囲で役割をお願いし、感謝を伝えることが脳への刺激になります。

3. 「急かさない」:待つ余裕を持つ

MCIの方は、情報の処理速度が落ちていることがあります。

質問をしてすぐに返事がなくても、急かしたり代わりに答えたりせず、本人が言葉を見つけるまでゆっくり待つ姿勢が大切です。

【シーン別】やってはいけないこと・やるべき具体的な対応(NG/OK例)

ここでは、ついやってしまいがちなNG対応と、推奨されるOK対応を具体的に紹介します。

日常会話での「NGワード」と「OK変換」

シチュエーション避けるべき対応(NG)推奨される対応(OK)ポイント
同じ話を聞かれた時「さっきも言ったでしょ!」
「何回言わせるの」
「今日は〇〇だね」
(初めて聞いたように答える)
事実の指摘より、会話の継続を優先する
失敗した時「なんでこんなこともできないの」
「もう触らないで」
「大丈夫、問題ないよ」
「手伝うから一緒にやろう」
失敗を責めず、自尊心を守る
事実と違う発言「それは違う、間違ってる」
(論破する)
「そうなんだね」
「そういうこともあるね」
否定せずに聞き流すか、話題を変える

同じことを何度も聞かれた時の対処法

何度も同じ質問をされると、介護する家族も精神的に追い詰められます。

しかし、本人には「さっき聞いた」という記憶がありません。

毎回丁寧に答えるのが辛い場合は、メモやカレンダーに書いて目につく場所に貼っておくのも有効です。

また、「そういえば、あの件はどうなった?」とさりげなく話題を変えることで、本人の意識を別の方向へ向けるテクニックも効果的です。

受診を拒否する場合の「傷つけない勧め方」

「病院に行こう」と言うと、「俺をボケ扱いするのか!」と怒り出す。

これはMCIの家族を持つ多くの方が直面する壁です。

本人が受診を拒むのは、病気を認めたくないというプライドと恐怖心の裏返しです。

無理やり連れて行くのは、信頼関係を壊すため逆効果です。

スムーズに受診へ誘導する「誘い文句」の例

  • 健康診断という名目で
    「市から無料の検診クーポンが来たから、ついでに脳のチェックもしよう」と、認知症検査ではなくあくまで「身体のチェック」の一部として誘います。
  • 家族の不安解消のために(Iメッセージ)
    「お父さんがボケたとは思っていないけれど、私が心配だから、安心させるために一度だけ付き合ってくれない?」と、相手のためではなく「自分のため」にお願いするスタンスをとります。
  • かかりつけ医の力を借りる
    高血圧や糖尿病などで通院している場合、事前に医師に相談し、診察のついでに「最近どうですか?」と切り出してもらうよう根回しをしておくとスムーズです。

治験を試すのも一つの方法

病院で直接治療を受ける以外に、治験に参加するというのもひとつの手段です。日本では軽度認知障害でお悩みの方に向け治験が行われています。

治験ジャパンでも治験協力者を募集しています。例えば過去には東京や神奈川、大阪などの施設で行われた試験もありました。

治験にご参加いただくメリットとして挙げられるのは、主に下記3点です。


ご自身の健康に向き合うという意味でも、治験という選択肢を検討してみるのも良いでしょう。実施される試験は全て、安全に配慮された状況下で行われます。

認知症への移行を防ぐ!家庭でできる「リハビリ・生活習慣」

病院での治療だけでなく、日々の生活習慣が進行予防の鍵を握ります。

脳に良い生活習慣を取り入れる

  • 運動(デュアルタスク):
    国立長寿医療研究センターなどの研究により、「歩きながらしりとりをする」「計算をしながら足踏みをする」といった、頭と体を同時に使う運動(コグニサイズ)がMCIの高齢者の認知機能向上に有効であることが示されています(参考:国立長寿医療研究センター 3)。
  • 食事:
    野菜、果物、魚、植物性油脂などを多く摂る「地中海式料理」などは、観察研究において認知症の発症リスク低下と関連することが報告されています(参考:日本神経学会 1)。

コミュニケーションこそが最高の薬

閉じこもりがちになると、脳への刺激が減り、進行が早まります。

  • デイサービスや地域のサークル活動に参加する。
  • 家族と食卓を囲んで会話をする。
  • 認知症カフェに参加してみる。

社会とのつながりを保つことが、脳の活性化に直結します。

家族だけで抱え込まないために(介護者支援)

MCIの段階から、家族だけで対応しようとすると「共倒れ」のリスクがあります。

「まだ介護なんて早い」と思わず、早めに専門家とつながりを持つことが、家族自身の心を守るためにも重要です。

国も「認知症施策推進大綱」の中で、家族支援や相談体制の整備を重要視しています(参考:厚生労働省 4)。

  • 地域包括支援センター: 高齢者の生活全般に関する相談窓口です。受診先の相談や、介護予防サービスの紹介を受けられます。
  • 認知症カフェ(オレンジカフェ): 本人だけでなく、家族同士が悩みや情報を共有できる場所です。

家族がリフレッシュし、笑顔でいることが、結果として本人の安心感につながり、症状の安定に寄与します。

一人で抱え込まず、プロや地域の力を積極的に頼ってください。

まとめ

軽度認知障害(MCI)は、家族の適切な対応があれば、症状の改善や進行の抑制が期待できる時期です。

  1. MCIは「改善の可能性がある」とポジティブに捉える。
  2. 叱ったり否定したりせず、本人の「不安」に寄り添う。
  3. 受診は「家族のため」「健康診断」を口実に、本人のプライドを守りながら勧める。

まずは、深呼吸をして、目の前の本人に「大丈夫だよ」と笑顔を向けることから始めてみませんか?

もし対応に迷ったら、お住まいの地域の「地域包括支援センター」へ相談することをお勧めします。

早期の行動が、家族の未来を明るく守ります。

参考資料・文献一覧

1.日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」第4章https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_04.pdf

2.日本認知症予防学会・日本神経学会「認知症と軽度認知障害の人および家族介護者への支援・非薬物的介入ガイドライン2022」 https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00762/

3.国立長寿医療研究センター「認知症予防に向けた運動 コグニサイズ」 https://www.ncgg.go.jp/ri/lab/cgss/department/gerontology/documents/cogni.pdf

4.厚生労働省「認知症施策推進大綱」https://www.mhlw.go.jp/content/000522832.pdf