爪の健康を通じて人々の豊かな生活を実現するため、医師や医療従事者、そしてネイルの専門家が連携して活動しているのが、一般社団法人ネイルウェルビーイング協会です。
今回はその設立メンバーの一人である皮膚科医 川島裕平先生に、協会の目的やビジョンについてお話を伺いました。
対談者プロフィール

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医として、専門分野の爪疾患、重症のアトピー性皮膚炎や尋常性乾癬などの皮膚疾患の診療、美容皮膚科診療に従事。
本記事では医学的情報の正確性と内容監修を担当。
所属学会:
- 日本皮膚科学会
- 日本美容皮膚科学会
- 日本睡眠学会
医師が語る「ネイルウェルビーイング」の真の意義とは
Q. 川島先生、本日はよろしくお願いいたします。
まずは、ネイルウェルビーイング協会の設立の経緯や目的についてお聞かせいただけますか?
A. ありがとうございます。
超高齢社会を迎えた日本では、ご高齢の方々を中心に、爪をご自身で切れなかったり、爪が変形してケアができなかったりするなど、いわゆる「爪切り難民」が増加しています。
また、医療の現場でも課題がありました。
巻き爪や陥入爪といった炎症を伴う爪の疾患には積極的に対応する皮膚科医が多い一方で、痛みや炎症がない爪のトラブルに対しては、「皮膚科医の役割ではない」と考える医師も少なくないのが現状です。
このような現状を改善し、全ての方が適切な爪のケアを受けられる環境を整えることが急務だと考え、当協会を設立しました。
当協会の目的は、爪の診療やケア、矯正に関して、関連機関の協力のもと、疾患の予防や治療に関する知識・技術の向上を図ることです。
また、認定や評価基準を整備することで、関連業界の発展、ひいては国民の健康増進と豊かな生活の実現に貢献することを目指しています。
Q. 「ネイルウェルビーイング」という言葉には、どのような想いが込められているのでしょうか?
A. 「ウェルビーイング」とは、身体的、精神的、社会的にバランスよく良好な状態を意味する言葉です。
爪の健康は、単に見た目の美しさだけでなく、身体の機能や生活の質に直結します。
例えば、爪に痛みや変形があると、歩くことや物を掴むことが困難になり、活動範囲が狭まってしまいます。
趣味の旅行や外出などに消極的になることも稀ではありません。
また、爪の悩みは人前で手を出すことをためらわせるなど、精神的な負担にもなりかねません。
当協会では爪を健やかに保つことが、その人らしい豊かな生活を送るための土台であるという考えのもと、「ネイルウェルビーイング」という概念を提唱し、その重要性を広くお伝えしたいと考えています。
協会が取り組む具体的な事業と未来の展望
Q. 目的を達成するために、具体的にどのような活動をされていますか?
A. 多岐にわたる事業を展開しています。
まず、「知識、技術の普及及び啓発に関する事業」として、一般の方向けの正しい爪の知識の提供や、医療従事者向けの研修会、セミナーなどの開催を検討しています。
また、「調査、研究、基準の策定並びに評価及び認定に関する事業」にも力を入れています。
これは、専門家ではない方でも安心して爪のケアを任せられるよう、確かな知識と技術を持った人材を育成し、その評価基準を整備していくために不可欠な活動です。
Q. 医療とネイルケアの境界線が曖昧になっている現状について、先生はどのようにお考えですか?
A. まさにそれが当協会の活動の核となる部分です。
現在、爪の処置を行う民間サービスが増えていますが、医師が不在のまま医療行為に類する処置が行われることは、事故のリスクを考えると好ましくありません。
一方で、全ての爪のトラブルを医療機関だけでケアすることは、現実的に困難な状況です。
そこで、当協会では「医師による診断を前提に、医療行為ではない爪の処置を、専門的な知識と経験を持った医師以外の者が行うこと」を容認する考えを広めるためのアンケート調査も行いました。
この調査結果から多くの皮膚科医が、適切な条件が整えば、医師以外の専門職との連携を容認できると考えていることが明らかになりました。
Q. そのような連携を視野に入れた、今後の展望について教えてください。
A. 私たちは、皮膚科医がリーダーシップを発揮し、看護師やネイリストといった爪の専門職と協働して、新しい爪の診療体制を構築していく必要があると考えています。
具体的には、医師が「治療の必要はない」と判断した爪の処置について、一定の知識と経験を持った「メディカル・ネイルケア・スペシャリスト(MNS)」が、クリニック内や外部の「ネイルケア・サイト(NCS)」で処置を行うというモデルを想定しています。
これにより、軽微な爪のトラブルを抱える方々が、より身近で安心して専門的なケアを受けられるようになるとともに、医療機関は本当に治療が必要な疾患に集中できる体制が整います。
当協会は、こうした医療と非医療の連携を推進し、民間サービス業界の安全性と専門性を担保する仕組みを構築することで、国民全体の爪の健康レベルを向上させ、健やかで豊かな社会の実現に貢献していきたいと考えています。
ネイルウェルビーイング協会から読者へのメッセージ
Q. 最後に、一般の読者と医療従事者、それぞれの読者へメッセージをお願いします。
A. 一般の読者の皆様へ
爪のトラブルは、単なる美容の問題ではありません。
痛みや違和感がある場合はもちろん、見た目に異常がなくても、放っておかずに専門家に相談することが大切です。
当協会では、皆様に役立つ情報を発信していきますので、ぜひご自身の爪の健康に関心を持っていただき、「ネイルウェルビーイング」という考え方を日々の生活に取り入れていただければ幸いです。
医療従事者の皆様へ
爪の診療は、超高齢社会においてますますニーズが高まる分野です。
しかし、診療報酬や教育体制など、多くの課題が残されていることも事実です。
当協会は、医療の現場が抱える課題を解決し、医師が本来の責務に集中できるような新しい体制を構築するため、医療従事者の皆様との連携を求めています。
爪の分野の発展にご関心のある先生方、ぜひ一緒に日本のネイルウェルビーイングを推進していきましょう。
ネイルウェルビーイング協会公式HP